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北宋の悪女、1986年の男  作者: ひまえび
第一章――「清河県の美しい毒、追う男たち」

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第1話後編1――「祭礼の3日間」

 麗華は古玩・書画舗「聚宝斎(ジューバオジャイ)」の番頭として、売れ残っていた古物を、それを欲しがる客へ売る道を作った。


 さらに、自分の取り分を元手に小口の貸金を始めた。焼き餅売り、櫛職人、卵売りなど、日々の商いで現金を得る者だけを選び、10日で1割の利息を取る。店主の韓雪蘭(ハン・シュエラン)には、貸金で得た利益の1割を渡していた。


 聚宝斎は古物を売って儲け、雪蘭は店の利益と貸金の取り分を受け取る。麗華も番頭の給金、古物売買の取り分、貸金の利息を得るようになった。


 しかし、麗華が望んでいるのは、日々の暮らしに困らない程度の稼ぎではない。


 誰にも頼らず、自分の商いを始めるためのまとまった銀であった。

 県城の通りでは、祭礼を知らせる赤い紙が、酒楼、茶舗、宿屋の戸口に貼られていた。


 祭礼は3日間続き、その間だけは官府が関撲(グワンプー)を認める。通りには骰子や銭を使う露店が並び、客は少額の銭を払って勝負する。当たれば菓子、酒、布、器などを持ち帰ることができ、外れれば払った銭は店主のものになった。


 聚宝斎にも関撲を行うよう勧める商人はいた。しかし、雪蘭はこれまで一度も店先に台を出さなかった。


「古物を賭けの賞品にすれば、店の名が軽くなります」


 雪蘭は帳場でそう言い、祭礼の案内を脇へ置いた。


 麗華は土蔵の品書きを開いた。


「高値で売れる品は出しません。何年も売れず、これからも買い手が見つかりそうにない品を使います」


「売れない品でも、仕入れには銀を払っています」


「だからこそ、その銀を取り戻すのです」


 土蔵には、先代が買い集めた品が残っていた。


 獅子を彫った石の置物、ひびの入った青磁の鉢、片方しかない銅製の燭台、名の知れない画工が描いた花鳥画、欠けを漆で継いだ茶碗、小さな玉の飾り、古い香炉などである。


 いずれも贋物ではない。しかし、形、傷、意匠、値段のいずれかに難があり、何年も土蔵から出ていなかった。


 何有福は石の獅子を抱え、土蔵から店へ運んだ。


「これは先代が銀3両で買った物です。銀2両まで下げても売れませんでした」


「関撲の賞品にして、銀5両を集めればよいのです」と麗華。


「そんなに集まりますか」


「この獅子を銀2両で買う者はいません。しかし、銅銭20文で手に入るかもしれないとなれば、骰子を振る者はいます」


 麗華は、祭礼の3日間に使う品を選ばせた。


 何有福が真贋と傷を調べ、雪蘭が普通に売った場合の値を決める。そのうえで、仕入れ値をすでに帳簿上で損として扱っている物と、今後も客がつきそうにない物だけを賞品へ回した。


 選んだ品は大小合わせて47点となった。


 雪蘭が品書きを見直した。


「これだけ出せば、普通に売った場合は銀20両を超えます」


「普通には売れなかった品です」


「関撲でも、客から銀20両以上を集められなければ損になります」


「50両を集めます」


 雪蘭だけでなく、何有福も麗華の顔を見た。


「50両ですか」と雪蘭。


「3日間でございます。人を集める品と、利益を出す品を分けます」


 麗華は紙の上へ、3種類の関撲を書き出した。


 最も安い台では、1回5文で骰子を2つ振らせる。2つの目が同じなら、菓子皿、木箱、銅の小物などを渡す。


 次の台は1回20文で、骰子を3つ使う。3つの目が同じなら、茶碗、小さな置物、扇面、燭台などを賞品にする。


 最も高い台は1回100文である。赤、白、黒の3つの骰子を振り、あらかじめ掲げた組み合わせが出れば、石の獅子、青磁の鉢、花鳥画、玉の飾りのいずれかを選べるようにする。


「100文を失う者が、何人もいるでしょうか」と雪蘭。


「通りを歩く者すべてを相手にはしません。酒楼で飲み、祭礼で銀を使う余裕のある商人や地主の子弟を呼びます。安い台で人を集め、その様子を見せてから高い台へ誘います」


「負けが続けば、客は帰ります」


「だから5文の台では、当たりを増やします。子どもが皿や小箱を持ち帰れば、その家族が店先へ残ります」


 客が勝つところを見せなければ、人は集まらない。しかし、高価な品を次々に渡せば利益は残らない。


 麗華は安い台で当たりを出し、中の台で客を熱くさせ、高い台で銀を集めるつもりであった。


 雪蘭は、麗華が書いた目の組み合わせと賞品の値を1つずつ確かめた。


「骰子に細工はしませんね」


「いたしません。細工が知られれば、聚宝斎は祭礼のあとに商いができなくなります」


「当たりが続けば、こちらが損をします」


「その時は賞品を渡します。損をすることもあるから、客は自分が勝てると思うのです」


 雪蘭は品書きを閉じた。


「聚宝斎の本業に使える品は出さないこと。傷のある品は、客へ先に見せること。祭礼が終わったら関撲をやめること。この3つを守ってください」


「承知しました」


「利益はどう分けますか」


「賞品、場所代、人足の給金、官府へ届ける費用を引きます。残った利益は聚宝斎と私で半分ずつにしてください」


「品は聚宝斎の物です」


「客を集め、台を作り、3日間の勝負を仕切るのは私です。雪蘭様は、何年も売れなかった品から銀を得られます」


 雪蘭はすぐには承知しなかった。


「聚宝斎が6分、あなたが4分です」


「半分ずつです。私の取り分が少なければ、古物を普通に売る仕事へ時間を使います」


 麗華が譲らないと分かり、雪蘭は息を漏らした。


「それでは、損も半分ずつです」


「もちろんです」


「50両を集めると言ったことを忘れないでください」


「雪蘭様も、賞品を惜しんで土蔵へ戻さないでください」


 2人は、利益も損も半分ずつにすると決めた。


 ◇ ◇ ◇


 祭礼の初日、聚宝斎の前には、朝から3台の卓が並んだ。


 軒下には赤い布を下げ、その前に賞品を置いた。石の獅子、青磁の鉢、銅の燭台、香炉、茶碗、木箱が朝日に照らされている。


 傷のある品には、その箇所を書いた札を添えた。客が勝ってから言い争いになれば、通りに悪評が広まるからである。


 麗華は店の前に立って声を張った。


「祭礼の3日間だけでございます。5文の関撲から、100文の大勝負までございます。骰子はお客様ご自身でお確かめください」


 最初に立ち止まったのは、母親に連れられた男児であった。


 母親が5文を払い、男児が椀の中へ骰子を投げた。出た目は2と5である。


「外れです」と何有福。


 男児は卓から離れようとしなかった。母親がもう5文を払った。


 今度は2つとも4であった。


「当たりでございます」


 麗華は、小さな蓋付きの木箱を男児へ渡した。


 男児が箱を頭の上へ掲げると、通りにいた子どもたちが集まってきた。5文、10文と銅銭が卓へ置かれ、骰子が椀の中で音を立てた。


 午前のうちに、5文の台には人垣ができた。


 安い台で当たりを見た大人は、20文の台へ移った。3つの骰子が揃えば茶碗や銅の小物を得られる。何度か外れた者は、次こそ揃うと思って銭を追加した。


 昼過ぎには、絹を扱う商人の息子が100文の台へ立った。


「石の獅子も、本当に持ち帰れるのか」


「札にある目が出れば、お選びいただけます」と麗華。


「骰子を見せろ」


 麗華は3つの骰子を男へ渡した。


 男は手の中で転がし、卓の上でも何度か振った。重さや出方に不審なところがないと分かると、100文を置いた。


 1度目は外れた。


 男はさらに100文を払い、もう一度振った。赤が4、白が2、黒が6である。


「惜しいところでございました」


「どこが惜しい。まるで違うではないか」


 周囲から笑いが起きた。


 男は顔を赤くし、3度目の100文を置いた。


 今度は、あらかじめ掲げた組み合わせの1つが出た。


 見物人の声が一斉に上がった。


「お当たりでございます。こちらの4点からお選びください」


 男は青磁の鉢を手に取った。縁に細いひびがある品だが、遠目には分からない。


「本当に持って帰ってよいのだな」


「もちろんでございます。ひびのことは札に書いております。それをご承知でお選びください」


「300文で青磁を取ったぞ」


 男は同行者へ得意そうに言い、鉢を抱えて酒楼の方へ歩いていった。


 聚宝斎は青磁の鉢を1つ失った。しかし、その場に残った者たちは、自分も高価な品を取れると考えた。


 100文の卓へ、次々に銭が置かれた。


 初日に集まった銭は、31貫文を超えた。


 賞品として渡した品は19点で、雪蘭が付けた値では銀9両余りに当たる。人足への給金や場所の費用を差し引いても、初日だけで十分な利益が残った。


 夜、店の戸を閉めると、雪蘭と何有福は帳場で銅銭を数えた。


 何本もの銭差しが、卓の上へ積み上がった。


「本当に、これほど集まるとは思いませんでした」と雪蘭。


「まだ初日でございます」と麗華。


「明日は賞品が足りなくなります」


「売れないからと土蔵へ戻した箱が、まだございます」


「あれまで出すのですか」


「このまま土蔵に置けば、来年も売れません」


 雪蘭は反論せず、翌朝に出す品を選び始めた。


 2日目には、初日に当たった客の話を聞いた者が集まった。


 石の獅子を狙う者が増え、100文の台では同じ客が5回、6回と骰子を振った。地主の次男は銀1両分を使っても当たらず、酒楼へ戻ったあと、友人を連れて再び現れた。


 夕刻には、旅商人が指定の目を出し、石の獅子を獲得した。


「銀2両で売れなかった物に、今日は10両近い銭が集まりました」


 何有福は、獅子がなくなった台を見ながら言った。


「品を売ったのではありません」と麗華。「獅子を手に入れられるかもしれない勝負を売ったのです」


 3日目には、用意した古物の大半が賞品として客の手へ渡った。


 最後まで残ったのは、花鳥画と小さな香炉である。麗華は終了時刻が近づくと、2つを同時に獲得できる勝負へ変えた。


 客が払う銭は50文で、指定された3つの目が出れば両方を渡す。


 見物人が卓を囲み、骰子が振られるたびに声を上げた。日が傾く頃、薬種商の若い手代が当たりを出した。


 花鳥画と香炉を抱えた手代を見送り、麗華は卓の上の銭を銭箱へ移した。


 祭礼の3日間で集まった銭は、合計83貫460文となった。


 賞品として出した古物の評価額、官府への届け、場所代、人足の給金、卓や幟の費用を合わせると、支出は34貫余りである。


 残った利益は49貫余りであった。


 聚宝斎と麗華が半分ずつ受け取れば、それぞれ24貫を超える。


 小口の貸金を2貫文から始めた麗華にとって、数か月分の利息を3日間で稼いだことになる。


 雪蘭は自分の取り分を銭箱へ入れた。


「これだけあれば、旦那様への返済を進めても、店の仕入れに銀を残せます」


「次は、さらに大きくできます」


「次の祭礼は、まだ先です」


「祭礼を待つ必要はございません」


 麗華は、関撲で使った番号札を帳場へ並べた。


 賞品には、それぞれ番号を付けていた。何を渡したのか、帳簿と照らし合わせるためである。


「この番号札を、客へ売ります」


「骰子を使わないのですか」


「客には同じ番号を書いた札を渡します。300枚、500枚と売り、決めた日に壺から1枚を引きます。その番号を持つ者へ賞品を渡します」


「客がその場で勝負をする関撲とは違います」


「その場にいなくても札を買えます。聚宝斎だけでなく、酒楼、茶舗、宿屋でも売れます。祭礼の3日間に集まった客より、はるかに多くの者へ売れます」


 麗華は、最初の富くじの案を示した。


 番号札は1枚20文で5,000枚を売る。すべて売れれば100貫文が集まる。


 1等は銀20両相当の玉器、2等は銀5両相当の書画、3等から10等までは茶碗、香炉、銅器などを渡す。賞品の仕入れ、番号札の作成、売り手への口銭を差し引いても、50貫文を超える利益が見込めた。


「売れ残った番号はどうしますか」と雪蘭。


「引く前に、売れた番号だけを別の帳面へ写します。売れなかった番号を壺へ入れれば、客を欺くことになります」


「番号札を偽造する者も出ます」


「聚宝斎の印を押し、紙を2つに裂きます。片方を客へ渡し、もう片方を店で保管します。切り口が合わなければ、賞品は渡しません」


 雪蘭は仕組みを理解したものの、すぐには賛成しなかった。


「官府が認めるでしょうか」


「関撲より穏やかな商いです。通りを塞がず、酒に酔った者がその場で銭を使い果たすこともありません」


「穏やかかどうかは、官府が決めます。祭礼が終われば、関撲は禁じられます」


「これは関撲ではなく、番号札を使った品の販売だと届けます」


「官吏が、その言い分を受け入れると思いますか」


 雪蘭の問いに、麗華は答えなかった。


 官府が名目だけを見て判断しないことは分かっていた。大勢から銭を集め、番号を引いて一部の者へ賞品を渡せば、どのような名前を付けても賭けである。


 それでも、祭礼で得た利益を見た麗華は、この商いを3日間で終わらせるつもりがなかった。


 ◇ ◇ ◇


 翌日の午後、陸世昌(ルー・シーチャン)が聚宝斎へ来た。


 祭礼の間、聚宝斎の前に人が集まっていたことも、3日間で多額の銭を得たことも、すでに世昌の耳へ入っていた。


 世昌は帳場の椅子へ座り、麗華が作った番号札を手に取った。


「今度は、祭礼が終わっても賭けを続けるつもりだそうだな」


 雪蘭の顔色が変わった。


「まだ始めておりません。麗華が案を考えただけでございます」


「案だけなら、なぜ5,000枚もの番号を帳面に書いている」


 世昌は番号札を卓へ戻した。


「祭礼の関撲は、3日間だけ官府が認めた。昨日で終わりだ。今日から同じことをすれば、賭場を開いたとして捕らえられても文句は言えぬ」


 麗華は世昌の前へ進んだ。


「旦那様は、やめろとおっしゃるのですか」


「やめさせるだけなら、ここへ来る必要はない」


「では、官府へ話を通していただけますか」


「私が何の得もなく動くと思うか」


「お望みのものをお聞かせください」


 世昌は、番号札の束を指先で押さえた。


「売上から賞品代、札を売る者への口銭、紙代を引け。残った利益の1割を、こちらへ渡せ」


「旦那様がお受け取りになるのですか。それとも県衙へ渡すのですか」


「お前が知る必要はない。県衙へ話を通し、途中で胥吏に止められぬようにするのは私だ」


「1割をお渡しすれば、聚宝斎で常に番号札を売れるのですね」


「常にとは言っていない。1回ごとに賞品、売る札の枚数、引く日を私へ届けろ。私が認めたものだけを行え」


 麗華は、世昌が求める1割を計算した。


 1回の利益が50貫文なら、世昌へ渡すのは5貫文である。自分たちには45貫文が残る。聚宝斎と麗華で分けても、祭礼の関撲に劣らない稼ぎになった。


「利益の1割で承知いたします。ただし、売上の1割ではございません」


「賞品代を大きく見せて、利益を減らすつもりか」


「仕入れの帳簿をお見せします。聚宝斎が以前から持っている品は、雪蘭様が祭礼前に付けた値を使います。旦那様にも確かめていただきます」


「当たり札を身内へ渡すことも許さぬ」


「当選番号は、人の集まる場所で引きます。県衙から立会人を出していただいても構いません」


「立会人にも銭が要るぞ」


「それは売上を得るための費用として、先に差し引きます」


 世昌は麗華を見た。


「私から1文でも隠せば、その日のうちに終わらせる」


「旦那様も、途中で2割に増やさないでください」


「私に条件を出すのか」


「1割なら、旦那様も毎回利益を得られます。取り分を増やしすぎれば、札が売れなくなり、旦那様へ渡す銭もなくなります」


 世昌は不機嫌そうな顔をしたが、否定はしなかった。


「利益の1割だ。まずは1回だけ認める。終わったら帳簿を持ってこい」


「承知しました」


「札を売る場所も先に書き出せ。陸生堂の客へ無断で売りつけるな」


「酒楼、茶舗、宿屋へ口銭を払って置いてもらいます」


「それも私へ届けろ」


 世昌は立ち上がった。


 店を出る前に、土蔵の方へ目を向けた。


「祭礼では、売れ残りを銭に変えたそうだな」


「3日間で49貫文余りの利益が出ました」と麗華。


「次も同じように儲かるとは限らぬ」


「同じやり方はいたしません。今度は番号札が売れた分だけ、賞品を用意します」


「ならば、私の1割も減らすな」


 世昌はそれだけ告げ、聚宝斎を出ていった。


 雪蘭は、世昌の姿が通りから消えるのを待ってから麗華へ向き直った。


「本当に始めるのですか」


「始めます」


「旦那様だけでなく、県衙の役人まで関わります。一度でも当選者へ賞品を渡せなければ、店は終わります」


「そのため、札を売って得た銭と店の銭を分けます。賞品は抽選の前に聚宝斎へ置き、勝手に売らないよう封をします」


「5,000枚すべて売れるでしょうか」


「最初から5,000枚は出しません。まず2,000枚を売ります。売れ行きを見て、追加します」


 麗華は番号札を100枚ずつに分けた。


 酒楼には300枚、茶舗には200枚、宿屋には200枚を預ける。残りは聚宝斎の店頭と、祭礼の関撲へ来た客へ売る。売った者には、番号札1枚につき2文の口銭を渡す。


 1等の賞品を店頭へ飾れば、聚宝斎へ入ったことのない者も見に来る。富くじに外れても、書画や器へ目を向ける客が出れば、本業の売上にもつながる。


「賞品は、何にするのですか」と雪蘭。


「1等は、土蔵の売れ残りではいけません。誰もが欲しがる品を仕入れます」


「新たに銀を使うのですか」


「はい。関撲で得た私の取り分から出します」


 麗華は、自分の前に積んだ銭差しへ手を置いた。


 これまで、麗華が使える銀は世昌や雪蘭の商いから得た取り分に限られていた。小口貸しで銭を増やしても、大きな店を持つには時間がかかる。


 祭礼の3日間で得た24貫文余りは、初めて手にしたまとまった元手である。


 それを番号札へ変え、次は100貫文を集める。利益の1割を世昌へ渡しても、元手は大きく増える。


 何度か成功すれば、聚宝斎の番頭を辞めても、自分の店を持てるだけの銀ができる。


 麗華が欲しいのは、世昌から与えられる給金でも、雪蘭から分けてもらう利益でもなかった。


 自分が始める商いを、自分で選べるだけの独立資金である。


「雪蘭様、1等にする品を選んでください」


「値はいくらまでですか」


「銀15両までです。見た者が番号札を10枚でも20枚でも買いたくなる品にしてください」


「玉器がよいでしょう。書画では、価値の分からない者が札を買いません」


「では、玉器を仕入れます。2等以下には、聚宝斎の品を使います」


 雪蘭は仕入れ先の名を書き出し、何有福は玉器を運ぶ箱の寸法を測り始めた。


 麗華は番号札、賞品、販売場所、抽選日を書いた届出を作った。その末尾には、利益の1割を世昌へ渡すと記した。


 番号札を売る商いは、麗華1人のものにはならなかった。


 聚宝斎には賞品代と利益が入り、雪蘭は店主として取り分を得る。酒楼や茶舗は札を売るたびに口銭を受け取り、世昌は県衙へ話を通す代わりに利益の1割を取る。


 それでも、残る銀は大きい。


 麗華は最初の番号札へ、聚宝斎の朱印を押した。


 祭礼の3日間だけ許された関撲は終わった。


 その翌日から、麗華は祭礼を待たずに銭を集める商いを始めようとしていた。

 後編1では、祭礼の3日間だけ官府が認める関撲を利用し、聚宝斎に残っていた古物を賞品にした。


 麗華は、1回5文、20文、100文の3種類の台を用意した。安い台では当たりを増やして人を集め、中の台で客を熱くさせ、高い台では石の獅子や青磁の鉢などを賞品にして多額の銭を集めた。


 3日間の売上は83貫460文となり、賞品、場所代、人足の給金、官府への届けなどを差し引いた利益は49貫文余りであった。聚宝斎と麗華は、これを半分ずつ受け取った。


 まとまった元手を得た麗華は、関撲を3日間で終わらせず、番号札を使った富くじへ発展させようとする。番号札を売り、決めた日に壺から当選番号を引き、その番号を持つ者へ玉器や書画を渡す仕組みである。


 しかし、祭礼後の賭けは官府から禁じられる恐れがあった。そこで陸世昌が県衙へ話を通す代わりに、富くじで得た利益の1割を求めた。


 麗華はその条件を受け入れた。世昌へ1割を渡しても、大きな利益が残るからである。


 麗華の目的は、聚宝斎の番頭として暮らし続けることではない。古物売買、小口貸し、関撲、そして番号札を使った富くじで銀を増やし、自分の商いを始めるための独立資金を作ることである。

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