第5話(後編2)――「倉付きの見習い」
裁縫場から返された白絹1疋をきっかけに、尚服局の倉では、戻された品を分けて置くことになった。
崔麗華は、倉から出した数、作業場が受け取った数、戻された数を竹札へ記している。
その月の終わり、劉彩雲は、帳簿と倉にある布の数を確かめる。
月末の朝、布の倉では、いつもの運搬が止められていた。
棚の戸は開いているが、白絹も麻布も木枠へ載せられていない。
彩雲は帳場に座り、1か月分の帳簿を広げていた。卓の右側には作業場から届いた書付が積まれ、左側には麗華が使った竹札が日付順に並べられている。
玉英は棚を上から順に確かめ、布の数を読み上げた。
「白絹は23疋でございます」
月娥と麗華が、棚の白絹を数え直した。
1段目に8疋、2段目に8疋、3段目に7疋ある。
「23疋でございます」
月娥が答えた。
彩雲は帳簿の数字へ指を置いた。
「帳簿も23疋です。次は緋色の絹です」
緋色の絹は、芳華と秀芳の件があってから、出し入れのたびに彩雲か玉英が包みを確かめていた。
棚には11疋ある。
帳簿も11疋であった。
白絹、緋色の絹、藍染めの絹、黄色の絹を数え終えたあと、麻布へ移った。
麻布は束が大きく、棚の奥まで詰められている。
香児と玉蘭が手前の束を下ろし、春燕と小蓮が数えた束を別の場所へ移した。乾いた麻の匂いが倉に広がり、布から出た細かな繊維が朝の光の中を漂った。
「42反でございます」
月娥が数を告げた。
彩雲は帳簿を確かめた。
「帳簿は41反です」
倉の中で手を動かしていた者が、全員止まった。
盗まれたのではない。帳簿より、品が1反多いのである。
香児が麗華を見た。
「多い場合も、問題になるのでございますか」
麗華が答える前に、玉英が香児へ告げた。
「帳簿と品が違えば、少なくても多くても調べます。勝手に話さず、数え直しなさい」
「はい」
麻布を棚へ戻し、もう一度、最初から数えた。
結果は42反である。
彩雲は帳簿の頁を繰った。
「今月、麻布は96反を受け取り、73反を作業場へ出しました。先月からの残りは18反です」
麗華は頭の中で数を合わせた。
先月から18反あり、今月96反を受け取れば114反になる。そこから73反を出せば、残りは41反である。
帳簿の計算は合っていた。
「竹札を持ってきなさい」
彩雲が命じた。
麗華は日付順に重ねた竹札から、麻布を記したものを選び出した。
倉から出した数、作業場が受け取った数、受け取った者の名、戻された数を順に確かめる。
最初の10日間には、戻された数の欄がない。麗華が戻り品を記すよう命じられたのは、白絹1疋が返された日からである。
「竹札では、作業場へ渡した麻布は72反でございます」
麗華が告げた。
「帳簿では73反です」
彩雲が答えた。
差は1反である。
「麗華が記し始める前に出した分があります」
月娥が竹札を見ながら言った。
「最初の2日間は、私がまとめて記しておりました」
彩雲は月娥が使っていた古い竹札を出した。
麻布8反、白絹4疋、糸12巻と記されている。
「この8反を加えれば、麗華の竹札と合わせて80反になります。数が多すぎます」
月娥は竹札を受け取り、文字を確かめた。
「これは、最初に倉から出した数ではございません。午前に8反、午後に戻った3反を合わせず、そのまま残したのだと思います」
「なぜ戻った3反を記していないのですか」
「書付が翌日に届き、帳簿には記されたと考えておりました」
彩雲は帳簿を調べた。
「戻りの3反は記されています」
帳簿では、倉から8反を出し、その日のうちに3反が戻っている。実際に作業場で使われたのは5反である。
この箇所に誤りはなかった。
麗華は、自分の竹札を日付ごとに並べた。
麻布を運んだ日は、倉から出した数と作業場が受け取った数がすべて一致している。
ただし、1枚だけ、端に玉英が書き足した箇所があった。
「この日、洗い場から麻布2反が戻っております」
麗華は竹札を彩雲へ差し出した。
「帳簿には何反と記されておりますか」
「1反です」
彩雲は、洗い場から届いた書付を探した。
その日の書付には、麻布1反を未使用で返すと記されている。
「竹札へ2反と記した理由は」
彩雲が尋ねた。
「洗い場から戻った時、包みが2つございました。月娥さんが1反ずつと読み上げ、玉英様が包みを確かめられました」
玉英も竹札を見た。
「覚えています。2反でした。1反は未使用で、もう1反は端がほつれていたため戻されました」
「書付には、未使用の1反しかありません」
「ほつれた1反については、あとから別の書付が届くと聞きました」
「届いていません」
彩雲は書付をすべて調べたが、該当するものはなかった。
月娥が戻り品の棚へ目を向けた。
「ほつれた麻布は、彩雲様が確かめられるまで、戻り品の棚へ置いておりました」
「そのあと、私が傷を確かめ、端を切れば使えると判断しました」
彩雲は帳簿を読み直した。
「品を元の棚へ戻したのに、帳簿へ1反を加えるのを忘れたようです」
倉にある麻布が帳簿より1反多い理由は分かった。
洗い場から戻った2反のうち、書付に記されたのは未使用の1反だけであった。ほつれのある1反は玉英と彩雲が確かめ、使用できる品として棚へ戻したが、その数が帳簿へ反映されていなかった。
彩雲は帳簿へ、記録が抜けた理由と日付を書き加えた。
残りは42反となり、棚の数と一致した。
香児が胸元を押さえた。
「私たちが疑われるのかと思いました」
「品が多いのに、なぜ疑われるのですか」
春燕が尋ねた。
「帳簿にない品を入れたと思われるかもしれないでしょう」
玉英が2人を見た。
「仕事中です。話はあとにしなさい」
香児と春燕は口を閉じ、麻布を棚へ戻した。
彩雲は、麗華の竹札をもう一度読んだ。
「竹札がなければ、どうなっていたと思いますか」
彩雲が麗華へ尋ねた。
「洗い場の方へ、今月戻した麻布について尋ねたと思います」
「覚えていなければ」
「書付を調べます」
「書付には1反としかありません」
「では、戻り品を確かめた玉英様と彩雲様へお尋ねします」
「私も、すぐには思い出せませんでした」
麗華は倉の麻布を見た。
「最後まで分からなければ、帳簿の誤りか、棚へ置く場所を間違えた可能性を調べます。ただし、どこで違ったか分からないまま、帳簿を42反へ直すことはできません」
「なぜですか」
「次に1反足りなくなった時、今回多かった1反と合わせて、数が合ったように見えるからでございます。2つの誤りが重なれば、正しい数に見えることがございます」
彩雲は、麻布の帳簿を閉じた。
「今日は、帳簿と棚が一致しました。ただし、同じ間違いを防ぐ方法が必要です」
玉英が提案した。
「戻り品を彩雲様が確かめたあと、元の棚へ移す者と、帳簿へ記す者が、その場で互いに数を読み上げてはいかがでしょうか」
「それだけでは、忙しい時にどちらかが先に離れます」
彩雲は竹札を取り、裏面を見た。
「戻り品を棚へ移す時にも、麗華へ記させます。品を戻したあと、麗華が竹札を帳場へ置くまでを1つの仕事とします」
麗華が尋ねた。
「帳簿へ記されたことも、私が確かめるのでございますか」
「いいえ。帳簿を読むことは許しません。お前は、戻り品を棚へ移した数だけを記しなさい」
「では、帳簿との照合は、どなたがなさるのでしょうか」
「私が行います」
「彩雲様がご不在の場合は」
「玉英が竹札を預かります。帳簿へ記すのは、私が戻ってからです」
「承知いたしました」
「帳簿に触れたいと思っているのですか」
「触れたいとは思います。しかし、まだ許されておりません」
彩雲は麗華の顔を見た。
「触れたいと認めるのですね」
「数がどのようにまとめられているかを知りとうございます」
「知ってどうするのです」
「倉に何があり、どの品が多く使われ、いつ補わなければならないかが分かります」
「補う品を決めるのは、お前ではありません」
「はい。私が決めることではございません」
「それでも知りたいのですか」
「はい」
彩雲は答えず、次の棚へ向かった。
月末の確認は昼を過ぎても続いた。
昼食には麦飯と、青菜、豆を煮た椀が運ばれた。6人は倉の外に並んで座り、手早く食べた。
麻布の繊維が衣服へ付いており、香児は袖を払ってから箸を取った。
「1反多いだけでも、半日かかるのでございますね」
香児がこぼした。
月娥が答えた。
「1反だから調べられたのです。何種類もの数が違えば、今日中には終わりません」
「これまでも、このようなことがあったのでございますか」
「ございました。書付を集めるだけで、数日かかったこともあります」
「では、麗華さんの竹札があれば、早く終わるのですね」
「竹札だけでは終わりません。品と帳簿と書付が、すべて必要です」
月娥は麗華を見た。
「麗華さんが記し間違えれば、かえって調べるものが増えます」
「はい」
麗華は否定しなかった。
「ですから、書いたあとに数を読み返しております」
「私たちも聞かされます」
玉蘭が笑った。
「倉を出るたび、麻布8反、木枠2台、1台に4反と、何度も聞きました」
「そのおかげで、私も覚えております」
春燕が答えた。
「前は、月娥さんしか数を知らないことがありました」
月娥は麦飯を箸で分けた。
「私だけが知っている方が、仕事は早かったのです」
麗華が尋ねた。
「今の方が遅いのでございますか」
「受け取りを待つため、遅くなることはあります。しかし、あとで数を調べる時間は減りました」
「どちらがよろしいのでしょう」
「数が合っているなら、今の方がよろしいでしょう」
月娥は香児たちへ目を向けた。
「ただし、麗華さんへ任せきりにしてはなりません。品を持った者が、自分でも数を確かめなさい」
「はい」
5人が答えた。
麗華は、月娥が自分からそう命じたことを覚えておいた。
数を記す仕事を麗華へ移された時、月娥は自分の役目を取られたと感じていた。
今は、麗華の竹札を使いながら、運ぶ5人にも数を確かめさせている。
宮中で3年働いた月娥にしか分からないことも多い。誰へ先に声をかければ仕事が滞らないか、どの通路が混み、どの時刻に炭や食事を運ぶ者と重なるかは、麗華には判断できなかった。
麗華が数を記し、月娥が人と時刻を動かす。
どちらか一方だけでは、6人の仕事は進まなかった。
◇ ◇ ◇
すべての棚を確かめ終えたのは、日が西へ傾いたころであった。
帳簿と品の数は一致した。
彩雲は帳場へ玉英と月娥を呼び、麗華にも残るよう命じた。
香児、玉蘭、春燕、小蓮は、倉の掃除を始めた。
「月娥」
彩雲が呼んだ。
「はい」
「明日からも、運ぶ者の組み合わせと、戻った時刻を見なさい。作業場が混んでいる時は、どの品を先に運ぶか、玉英へ相談しなさい」
「承知いたしました」
「麗華」
「はい」
「お前は、朝から倉へ入り、出す品と戻る品を記しなさい。作業場へ運ぶ時は、これまでどおり月娥たちと行きます」
「はい」
「仕事が少ない時は、玉英が棚の札の読み方と、布の分け方を教えます」
月娥が彩雲を見た。
「麗華さんは、倉の者になるのでございますか」
「倉付きの見習いとします」
麗華は彩雲へ尋ねた。
「それは、位をいただくということでございますか」
「違います」
「女官になるのでございますか」
「まだ、下働きです」
「では、これまでと何が変わるのでしょうか」
「朝、倉へ来ることが正式な役目になります。運ぶ仕事がない時でも、6人部屋で別の仕事を待つのではなく、ここで玉英の指示を受けなさい」
「帳簿へ書くことはできますか」
「できません」
「品を出すことは」
「玉英か私の命令がなければできません」
「戻った品を調べることは」
「できません」
「作業場へ、品の使い方を尋ねることは」
「数が合わない場合を除き、できません」
「承知いたしました」
彩雲は眉を寄せた。
「うれしくないのですか」
「うれしゅうございます」
「その顔には見えません」
「何を任され、何をしてはならないかを、先に確かめておりました」
「お前は、許されないことの方を多く尋ねましたね」
「してはならないことを知らなければ、任された範囲を越えるためでございます」
玉英が口を開いた。
「麗華は、前に桂香殿の名を尋ねた時、命じられていないことに気づいて言い直しました。先に範囲を教えておいた方がよろしいでしょう」
「分かっています」
彩雲は卓の下から、新しい竹札の束を出した。
「これは、倉で使う物です。私物ではありません。倉の外へ持ち出してはなりません」
「はい」
「書き損じた竹札も、勝手に捨ててはなりません」
「はい」
「人に見せてはなりません」
「はい」
「同じ部屋の者から尋ねられても、倉にある品の数を話してはなりません」
「はい」
「華宝舗の者や、崔家の家族へもです」
麗華は彩雲を見た。
「話しません」
「家族から尋ねられてもです」
「宮中の品について、家族が知る必要はございません」
「店の仕入れに役立つと思わないのですか」
「役立つと思います」
「それでも話さないのですね」
「宮中で知った数を使って華宝舗が品を仕入れれば、店は利益を得るかもしれません。しかし、宮中の仕事を店のために使ったことが分かれば、私は倉に置いていただけなくなります」
「分からなければよいとは考えませんか」
「一度そのように使えば、次も使いたくなります。店の利益と倉の仕事を分けられなくなります」
彩雲は麗華へ竹札の束を差し出した。
「受け取りなさい」
麗華は両手で受け取った。
「明朝から、この倉で使います」
「承知いたしました」
「月娥より上になったわけではありません。6人で運ぶ時は、これまでどおり月娥の指示に従いなさい」
「はい」
「香児たちへ命じることもできません」
「はい」
「数が違う時は、まず月娥へ知らせなさい。月娥で判断できなければ、玉英を呼びます」
「承知いたしました」
月娥が麗華へ告げた。
「倉付きになっても、寝台の掛布が乱れていれば直してもらいます」
「お願いいたします」
「朝、1人で先に出る時も、戸を開けたままにしてはなりません」
「気をつけます」
「水場の順番も、これまでと同じです」
「はい」
月娥がそこまで言うと、彩雲が尋ねた。
「まだありますか」
「今は、これだけでございます」
「では、仕事へ戻りなさい」
月娥は礼をし、香児たちのところへ戻った。
彩雲は麗華へ、帳場の横にある低い卓を示した。
「竹札は、明日からそこへ置きます。筆と墨も倉の物を使いなさい」
「はい」
「私の帳場へは、呼ばれない限り入ってはなりません」
「承知いたしました」
「今日は、もう戻りなさい」
麗華は竹札の束を低い卓へ置いた。
倉の外では、月娥たちが掃除を終え、待っていた。
「何を命じられたのでございますか」
香児が尋ねた。
麗華は倉の戸が閉まったことを確かめてから答えた。
「明日から、倉付きの見習いとして働くことになりました」
「女官になったのでございますか」
「なっておりません。下働きのままでございます」
「私たちとは違う仕事をするのでしょう」
「朝は倉で竹札を用意します。運ぶ時は、皆さんと一緒でございます」
玉蘭が尋ねた。
「麗華さんが、どの布を運ぶか決めるのでございますか」
「決めません。彩雲様か玉英様から命じられた品を記すだけでございます」
春燕が麗華の手元を見た。
「新しい竹札は、どこですか」
「倉へ置いてあります」
「見せていただけないのですか」
「倉の外へ持ち出してはならないと命じられました」
香児が残念そうな顔をした。
「何が書いてあるかも、教えていただけないのでございますか」
「宮中の品の数は話せません」
「私たちも、その品を運んでいるではありませんか」
「運ぶ時には、皆さんにも数を確かめていただきます。ただし、倉に全部でいくつあるかは申し上げられません」
香児は月娥を見た。
「麗華さんは、急に秘密が増えました」
月娥が答えた。
「増えたのは秘密ではなく、守る決まりです。何度も尋ねれば、香児さんの方が叱られますよ」
「もう尋ねません」
6人は寝所へ戻った。
夕食は粥と蒸した芋、青菜の塩漬けであった。仕事が月末まで滞らなかったため、温かいうちに食べることができた。
食事のあと、麗華は寝台の下から私物の帳面を出した。
宮中へ入ってから会った人の名や、運んだ品について書いた頁は、そのまま残してある。ただし、彩雲から禁じられた日以降、宮中の仕事は1行も加えていなかった。
麗華は新しい頁を開いた。
そこへ、日付だけを記した。
月娥が隣から見ていた。
「仕事のことを書いてはならないのでしょう」
「書きません」
「では、何を書くのでございますか」
「今日、倉付きの見習いになったことだけを書こうと思いました」
「それも宮中の仕事ではありませんか」
麗華は筆を止めた。
「そうでございますね」
麗華は日付の下へ、仕事について何も書かなかった。
代わりに、父母と兄の名が記された最初の頁を開いた。
崔景仁。
曹静蘭。
崔文亮。
麗華は3人の名を読み、帳面を閉じた。
「書かないのでございますか」
月娥が尋ねた。
「はい。家族へ話せる日が来た時に、口で伝えます」
「倉付きになったことなら、話してもよいのではありませんか」
「その時に、彩雲様へ確かめます」
麗華は帳面を箱へ戻した。
翌朝、麗華は鐘が鳴る前に寝所を出た。
まだ夜の冷気が残り、石敷きには薄い露が付いていた。厨房では火を起こす音が聞こえ、炭の煙と粥を煮る匂いが通路へ流れている。
布の倉へ着くと、玉英が戸を開けたところであった。
「今日から、ここが最初の仕事場です」
玉英が告げた。
「はい」
麗華は倉へ入った。
低い卓には、昨日渡された竹札と筆が置かれている。
帳場では、彩雲がその日に出す品を帳簿から選んでいた。
「麗華」
「はい」
「白絹4疋、麻布6反、藍染めの絹2疋を出します。棚の札と品を確かめなさい」
「承知いたしました」
麗華は白絹の棚へ向かった。
札に記された数を読み、棚にある品を目で確かめる。玉英が取り出した白絹4疋を、2疋ずつ木枠へ載せた。
月娥たちが倉へ入ってきた。
「白絹4疋、木枠2台、1台に2疋でございます」
麗華が読み上げた。
月娥、香児、玉蘭、春燕、小蓮が、順に数を確かめた。
「4疋、確かめました」
月娥が答えた。
麗華は竹札へ記し、筆を置いた。
その竹札は、宮中の外へ持ち出すことができない。
華宝舗の仕入れにも使えず、崔家の家族へ見せることもできない。
麗華自身の物でもなかった。
それでも、その日の倉で何が動いたかを記す役目は、麗華のものとなった。
麗華は月娥たちと木枠を持ち上げ、裁縫場へ向かった。
衣服も寝所も食事も、昨日までと変わっていない。
位のある女官になったわけではなく、皇帝の暮らす場所へ近づいたわけでもない。
宮中へ入った麗華が得たのは、倉の片隅に置かれた低い卓と、外へ持ち出せない竹札の束であった。
しかし、仕事を任せる者の近くには、次の仕事が集まる。
麗華は、まず倉にある品と、その動きを覚えることにした。
後編2では、月末の確認で、倉にある麻布が帳簿より1反多いことが分かった。
調べた結果、洗い場から戻された麻布2反のうち、ほつれのあった1反が帳簿へ記されないまま、使用できる品として棚へ戻されていたことが判明した。
麗華の竹札には、洗い場から2反が戻ったことが記されていた。その記録と作業場の書付、帳簿、棚の品を照らし合わせたことで、数が違った理由を確かめることができた。
彩雲は、麗華を倉付きの見習いとした。
麗華はまだ下働きであり、帳簿へ書くことも、品を勝手に出すことも、作業場へ命じることもできない。運搬の際には、これまでどおり古参の月娥に従う。
その一方で、朝から倉へ入り、倉を出る品、作業場が受け取った品、倉へ戻された品を竹札へ記すことが、麗華の正式な役目となった。
宮中へ入った麗華が初めて得た居場所は、布の倉の片隅に置かれた低い卓であった。




