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北宋の悪女、1986年の男  作者: ひまえび
第一章――「清河県の美しい毒、追う男たち」

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第4話(中編2)――「書院の灯」

武松(ウー・ソン)が西門家へ押し入り、兄・武大(ウー・ダー)の仇として西門慶(シーメン・チン)潘金蓮(パン・ジンリエン)を殺そうとした。


 因縁を何も知らなかった倉達也(ツァン・ダーイエ)は、朴刀を振り上げた武松の前へ飛び込み、2人を救った。


 虎殺しの武松との死闘で、達也は全身に傷を負った。最後には武松の首をねじ切って勝ったものの、右肩を脱臼し、喉を潰されかけ、医者から安静を命じられた。


 西門慶は命を救われた恩を感じ、科挙に必要な身元と保証人を必ず整えると約束した。


 その一方で、金蓮は達也を自分のものにしようと決め、正室の呉月娘(ウー・ユエニャン)は達也を本気で愛していることを自覚した。


 しかし、達也が北宋へ来た第一の目的は、女を追うことではない。


 新しい身分を得て、科挙を受けることである。

 (1116年10月、北宋・東平府(ドンピンフ)清河県(チンホーシエン)・西門家)


 達也が目を覚ますと、窓の外は暗かった。


 卓上の灯明だけが、離れの室内を照らしている。


 寝台の横では、月娘が椅子に座ったまま眠っていた。背を柱へ預け、達也の右手を両手で包んでいる。髪には、達也が贈った白玉の簪が挿してあった。


 達也は起こさないよう、指を少しずつ抜こうとした。


「どこへ行くのです」


 月娘は目を閉じたまま尋ねた。


「厠です」


「それなら、侍女を呼びます」


「1人で行けます」


「昨日、虎を倒した男に首を締められ、立つこともできなかった方が申す言葉ではありません」


「もう昨日なのですか」


「夜半を過ぎました」


 月娘は目を開け、達也の額へ手を当てた。熱を確かめたあと、首に巻いた布を外した。腫れは残っているが、呼吸は落ち着いている。


 達也が上体を起こすと、胸と脇腹が痛んだ。それでも、武松との戦いを終えた直後より身体は動いた。


「肩はどうです」


「動かさなければ痛みません」


「動かしてはなりません」


「はい」


 月娘は達也の返事を聞き、ようやく表情を緩めた。


「戻るまで、戸の外で待ちます」


「月娘様」


「何です」


「もう、お休みください。僕のために、正室である月娘様が一晩中ここにおられては、旦那様にも失礼です」


 月娘の手が止まった。


「旦那様は、私に付き添うよう申しました」


「それでもです」


 達也は月娘から目をそらさなかった。


「月娘様は、旦那様の奥方です。僕がそのことを忘れてはなりません」


 月娘は返事をせず、達也の襟を整えた。


「あなたは時々、残酷なほど正しいことを申します」


「申し訳ありません」


「謝る必要はありません。私も、わきまえております」


 月娘は立ち上がった。


「侍女を戸口へ置きます。何かあれば、必ず呼びなさい。朝になったら、私が傷を見ます」


「はい」


 月娘は数歩進み、振り返った。


「2人だけの時まで、奥方、奥方と繰り返さなくてもよいでしょう」


「では、月娘様とお呼びします」


「それで結構です」


 月娘は灯明の炎を少し小さくし、離れを出た。


 達也は閉じた戸を見つめた。


 本当は、そばにいてほしかった。


 だが、月娘は西門慶の正室である。同じ屋敷に住み、衣食を与えられ、科挙の身元まで整えてもらおうとしている自分が、その妻へ人前で特別な思いを示せば、月娘の立場を傷つける。西門慶から受けた恩にも背くことになる。


 慕う気持ちは、消せない。


 だからこそ、隠さなければならなかった。


 ◇ ◇ ◇


 翌日の午後、達也は寝台の上で『論語』を読んでいた。


 西門慶が書棚から持ってこさせた本である。右肩を布で固定されているため、左手で頁を押さえていた。


 戸が開いた。


「お薬の時間でございます」


 金蓮が盆を持って入ってきた。


 薄い衣を重ねているものの、胸元は大きく開いていた。盆には煎じ薬と粥が載っている。


「侍女へ頼んだはずですが」


「命を救われた者が、薬くらい運んではなりませんか」


「運んでいただく必要はありません」


「必要がなくても、私はしたいのです」


 金蓮は寝台の脇へ腰を下ろした。達也が本を閉じるより早く、その頁をのぞき込む。


「傷を治す本ではございませんね」


「科挙のための本です」


「まだ起き上がるのもつらいのに、もう勉強ですか」


「身元が整っても、学が足りなければ試験には通りません」


「旦那様へ頼めば、試験の方を何とかしてくださるかもしれません」


「それでは、通ったことになりません」


 金蓮は煎じ薬の椀を取り、匙ですくった。


「口を開けてください」


「自分で飲めます」


「右肩が使えないではありませんか」


「左手があります」


 達也が椀を受け取ろうとすると、金蓮は手を引いた。


「武松から私を助けた時は、もっと近くにおられました」


「あの時は、朴刀が振り下ろされようとしていました」


「今は、私があなたを襲うとお思いですか」


 金蓮は笑い、達也の顔へ自分の顔を近づけた。


「そのような心配をしております」


 達也が真顔で答えると、金蓮の笑みが深くなった。


「では、逃げてください」


「逃げません。金蓮様に出ていただきます」


 金蓮は匙を盆へ戻した。


「私が嫌いですか」


「嫌ってはおりません」


「では、なぜです」


「金蓮様は旦那様の第5房です。僕は旦那様から衣食をいただき、身元まで整えていただこうとしております。その僕が、旦那様の妻妾へ手を出すわけにはいきません」


「旦那様が許したら、よろしいのですか」


「許しを求めるつもりもありません」


 達也は本を取り直した。


「僕は科挙を受けるために来たのです。いま必要なのは、女遊びではなく勉強です」


 金蓮の目が細くなった。


「奥様にも、同じことを申せますか」


 達也の指が、頁の端で止まった。


「月娘様は、旦那様の正室です。金蓮様以上に、僕が礼を失ってはならない方です」


「お慕いしていても?」


 達也は金蓮を見た。


「人がいるところで、そのようなことを口にしないでください。月娘様を困らせます」


「否定はなさらないのですね」


「お帰りください」


 金蓮はしばらく達也を見つめていた。


 男から拒まれれば、腹が立つはずであった。ところが、達也が月娘の名を出された時だけ声を低くしたことで、かえって追いたい気持ちが強くなった。


「薬は冷めないうちにお飲みください」


 金蓮は立ち上がった。


「私は、諦めません」


「勉強の邪魔だけはしないでください」


「それは、お約束できません」


 金蓮が出ていくと、入れ替わるように月娘付きの侍女が入ってきた。


「奥様から、金蓮様をお1人で入れないよう命じられておりました」


「遅かったですね」


「金蓮様に廊下の反対側へ使いに出されました」


 侍女は申し訳なさそうに頭を下げた。


「次からは、戸を閉めないでください」


「承知しました」


 達也は煎じ薬を飲み、本を開いた。


 入口へ背を向けた金蓮の姿は、もう思い浮かべなかった。


 ◇ ◇ ◇


 3日後、達也は離れの庭を歩けるまで回復した。


 顔の腫れは引き、首にも黄色い痣が残るだけである。右肩はまだ高く上げられないが、腕を吊る布は外された。


 朝食の席で、西門慶が書付を卓へ置いた。


「登州の倉家について、話をつなげられる者が見つかった」


 達也は箸を置いた。


「本当ですか」


登州(ドンジョウ)から来た海商で、父親の代に倉姓の船主と取引があった男だ。お前の父を知っているとは申しておらぬ。倉家の遠縁から、船を失った息子が清河県へ来ると聞いていたことにする」


「証人になってくださるのですか」


「俺が昔の貸しを返してもらう。だが、役所へ出す前に、お前自身が会って話を合わせろ。出身の村、父母の名、扱っていた荷、船を失った時期まで決めねばならん」


「承知しました」


 達也は席を立ち、西門慶へ深く頭を下げた。


「命を救っていただいた恩へ比べれば、これくらい何でもない」


「それでも、僕には大きなご恩です」


 西門慶は上機嫌で酒杯を持った。


「身元が整えば、次は県学へ入る伝手だ。倉殿なら、すぐに試験を受けられるだろう」


「すぐには無理です」


「なぜだ。あれほど文章を書けるではないか」


「こちらの試験で何を求められるか、まだ分かっておりません。経書も、知っている文章と手元の本では細かな字句が違います。策論も、いまの朝廷と州県の実情を知らずに書けば、的外れになります」


 西門慶は酒杯を置いた。


「熊を倒した翌日も働き、武松を倒した翌日も本を開いた。まだ足りぬと申すか」


「足りません」


「では、何が要る」


「先生と、書物と、勉強する時間です」


「そろえよう」


 西門慶は即答した。


「県学で教えたことのある老先生がいる。金はかかるが、倉殿の命ほどではない。書物も買わせる。離れでは妻たちがうるさかろうから、東の書院を使え」


「旦那様」


「遠慮するな。俺は倉殿を、清河県で一番の進士にしてみせる」


「進士にするのは、先生と僕です」


 食卓に笑いが起きた。


「分かった。俺は金を出し、邪魔をどける役に徹しよう」


 西門慶が月娘を見た。


「月娘。書院へ勝手に入る者がないよう、お前から妻たちへ申し渡せ」


「承知しました」


 月娘は正室として静かに答えた。


 達也も、その場では月娘へ特別な視線を向けなかった。


「よろしくお願いいたします、奥様」


「科挙のためでございます。旦那様のお言葉どおりにいたします」


 2人の間にあるものを知らない者が聞けば、客人と正室の会話にしか聞こえなかった。


 金蓮だけが、箸の先で椀の中をゆっくりかき回していた。


 ◇ ◇ ◇


 その日の夕方、達也は1人で山へ向かった。


 西門家には、身体を慣らすために歩いてくると告げた。途中までは下男が付いてきたが、達也は山道の入口で待たせた。


 洞窟の前に、人が入った跡はなかった。隠していた鍵を使い、10トン車の荷台へ入る。


 食料、衣類、工具、薬品、金銀、武器が、持ち出した時のまま積まれていた。


 達也は医薬品を収めた箱を開いた。


 西門慶の屋敷で暮らし始めてから、妻妾が6人いることを知った。西門慶はまだ30代半ばである。それでも、毎日の酒、脂の多い食事、不規則な暮らしが続けば、身体に不調が出ても不思議ではない。


 達也は青い錠剤の入った包装を取り出した。


 シルデナフィル、50mg。


 100錠を数え、湿気を防げる小さな容器へ移した。容器の表面には文字を残さず、さらに宋代の薬を入れる陶器の壺へ収める。


 効き目が強ければ、喜んだ西門慶が続けて飲む恐れがある。1回に1錠、1日に1錠までという決まりを、必ず守らせなければならない。


 達也は壺を布で包み、背負い袋へ入れた。


 洞窟を出る前に、机の代わりにしている箱の上へ紙を広げた。


 これから学ぶべきものを書き出す。


 四書五経の本文と注釈。詩賦。策論。北宋の官制、租税、河川、塩、軍事。当地の文字と書式。過去の試験問題。答案を書くための筆の訓練。


 清国で身につけた知識が、そのまま北宋の科挙で通用するとは限らない。未来の制度や技術を知っていても、問われたことへ当時の言葉で答えられなければ落第する。


 達也は紙を折り、懐へ入れた。


 月娘を慕う気持ちも、金蓮の誘惑も、科挙の答案を書いてはくれない。


 まず勉強である。


 ◇ ◇ ◇


 屋敷へ戻ると、達也は西門慶の書斎を訪ねた。


 西門慶は商いの帳簿を閉じた。


「身体は大丈夫なのか」


「はい。無理はしておりません」


「山へ行ったと聞いたぞ」


「旦那様へ、お渡ししたい物を取りに行きました」


 達也は陶器の壺を卓へ置いた。


 西門慶が蓋を開け、中に並ぶ青い錠剤を見た。


「これは何だ」


「男の力を助ける薬です」


 西門慶は1錠を指でつまみ、灯明へかざした。


「飲めば、どのようになる」


「その気になった時、身体が応じやすくなります。旦那様には奥方が6人おられます。いずれ役に立つと思い、100錠お持ちしました」


 西門慶は錠剤と達也を交互に見た。


「倉殿は、俺に力が足りぬと申すのか」


「足りないとは申しておりません。必要な時に使える物をお渡ししただけです」


「倉殿は、時々ずいぶん遠慮がないな」


「薬ですから、曖昧には申せません」


 達也は壺の蓋を閉めた。


「これは、酒の勢いで飲む物ではありません。使うなら、床へ入る1刻ほど前に、水で1錠だけ飲んでください。1日に2錠以上は、決して飲んではなりません」


「2人のところへ行く日は、どうする」


「1錠です」


「3人なら」


「1錠です」


「翌朝になったら、もう1錠――」


「飲んではなりません。前に飲んでから丸1日空けてください」


 西門慶は名残惜しそうに壺を見た。


「100錠もあるのだ。少しくらい多く飲んでもよかろう」


「命を助けた旦那様を、薬で死なせたくありません。胸が痛む時、ひどく酔っている時、熱がある時には使わないでください。飲んだあとに胸が痛む、目が見えにくい、息が苦しいなどの異変があれば、すぐ医者を呼び、二度と飲まないでください」


「分かった、分かった。1日に1錠だな」


「壺は、月娘様に預けることをお勧めします」


「なぜ月娘なのだ」


「旦那様が何錠飲んだか、正しく数えられる方だからです」


 西門慶は声を立てて笑った。


「俺が薬を飲んで誰の部屋へ行くかまで、正室に数えさせるつもりか」


「薬を間違えて飲むより安全です」


「倉殿が申すと、色事まで役所の帳面のようになる」


 西門慶は壺を大切そうに抱えた。


「ありがたく頂こう。倭刀に続き、この薬か。倉殿を屋敷へ置いてから、珍しい物が次々に増える」


「その代わり、お願いがあります」


「申せ」


「東の書院へ、夜明け前から入れるようにしてください。朝食までの時間を勉強に使います」


「薬の礼が勉強部屋とは、色気のない男だ」


「科挙に受かるまでは、それで結構です」


 西門慶は鍵を収めた箱を開け、書院の鍵を取り出した。


「倉殿。女に振り回されるなとは申さぬ。俺が申しても説得力がない」


 西門慶は苦笑し、鍵を卓の上へ置いた。


「だが、科挙を目指すなら、まず自分の道を通せ。妻たちの相手は俺に任せておけ」


「はい。よろしくお願いいたします」


 達也は両手で鍵を受け取り、深く頭を下げた。


 月娘を慕っていることを、西門慶に悟られてはならない。


 それは恐れているからではない。恩を受けた主人と、その正室に対して守るべき礼であった。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝、達也は五更の鐘が鳴る前に起きた。


 東の空には、まだ光がない。


 井戸の水で顔を洗い、傷めた肩をゆっくり動かす。痛みは残っているが、筆を持つことはできた。


 東の書院へ入り、灯明へ火を移した。


 卓には、西門慶が用意させた紙、墨、筆、硯が並んでいる。書棚には『論語』『孟子』『大学』『中庸』のほか、『詩経』『書経』『礼記』『周易』『春秋』がそろえられていた。


 達也は最初に『論語』を開いた。


 知っている文章と1字ずつ照らし合わせ、分からない注を別の紙へ書き出す。右手で筆を持つと肩が痛むため、一定の字数を書くたびに休んだ。


 外で衣擦れの音がした。


 達也が顔を上げると、戸の向こうに人影があった。


「どなたです」


「私です」


 月娘の声であった。


 達也は筆を置き、戸を開けた。


 月娘は厚い上着をまとい、手に茶の入った器を持っている。後ろには侍女が1人立っていた。


「お1人ではないのですね」


「人目を気にするよう申したのは、あなたでしょう」


「ありがとうございます」


 月娘は書院へ入り、侍女には戸を開けたまま廊下で待つよう命じた。


「起きるのが早すぎます。傷が開いたら、また寝台へ縛りますよ」


「朝食までは勉強します。そのあとは先生に会う準備をします。昼に休みます」


「昨日から、金蓮にも同じことを申しているそうですね」


「金蓮様には、勉強の邪魔をしないでほしいと申しました」


「私も邪魔ですか」


 達也は答える前に、廊下の侍女を見た。


「奥様が客人の身体を案じ、茶を届けてくださったのです。邪魔であるはずがありません」


 達也は、人前で使うべき返事をした。


 月娘も、正室の顔でうなずいた。


「では、茶を置いて戻ります。朝食の席でお会いしましょう」


「お気遣い、ありがとうございます」


 月娘が戸口へ向かう。


 侍女が先に数歩進んだ時、月娘は足を止めた。


「達也」


 初めて、姓も敬称も付けずに呼んだ。


 達也が振り返る。


「必ず、科挙へお通りなさい」


「はい」


「その先で、あなたが何を望むのかを聞くのは、それからにします」


 月娘は達也の返事を待たず、侍女のあとを追った。


 達也はしばらく、開いた戸の前に立っていた。


 やがて卓へ戻り、筆を取った。


 月娘の言葉の意味を考え始めれば、1刻でも2刻でも過ぎてしまう。


 いまは、1行でも多く読み、1字でも多く書くべき時である。


 達也は新しい紙の上へ、今日覚える章句を書き始めた。


 書院の灯は、朝日が窓へ差し込むまで消えなかった。

 第4話中編2では、武松との死闘から回復し始めた倉達也(ツァン・ダーイエ)が、科挙の準備へ着手した。


 潘金蓮(パン・ジンリエン)は薬を運ぶ名目で離れへ入り、達也へ迫った。しかし達也は、金蓮が西門慶(シーメン・チン)の第5房であることを理由に、明確に退けた。金蓮以外の妻妾にも目を向けず、科挙に受かるまでは女遊びをしないと決めている。


 達也は呉月娘(ウー・ユエニャン)を一途に慕っている。それでも、月娘が西門慶の正室であることを忘れず、ほかの者がいる場では客人と奥方として振る舞った。月娘の立場を守り、西門慶から受けた恩へ礼を尽くすためである。


 西門慶は、登州から来た海商を証人に立て、達也の身元を整える準備を進めた。さらに、元県学の教師、科挙に必要な書物、東の書院を用意すると約束した。


 達也は洞窟から、50mgのシルデナフィル100錠を持ち出した。妻妾が6人いる西門慶に贈り、1回1錠、丸1日空けること、体調が悪い時には使わないことを厳しく言い含めた。


 西門慶は礼として書院の鍵を渡した。そして達也は夜明け前から四書五経を開き、北宋で受ける科挙のための勉強を始めた。


 金蓮の誘惑にも、月娘への思慕にも、科挙の答案を書かせることはできない。


 達也の新しい戦いは、書院の灯の下で始まった。

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