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北宋の悪女、1986年の男  作者: ひまえび
第一章――「清河県の美しい毒、追う男たち」

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第10話(前編1)――「消えていた金軍」

 (1225年10月上旬、開封(カイフォン)・魯王府)


 秋に入った開封では朝の冷え込みが強まり、王府の庭にも落ち葉が増えていた。夜明け前の草に露が付く中、倉達也(ツァン・ダーイエ)はいつものように馬場で騎射と剣の鍛錬を終えた。湯で汗を流してから、王妃の宮へ向かった。


 朝食の卓には粥、細く裂いた鶏肉、青菜、果物が並び、王妃はすでに食事を始めていた。腹は夏よりも明らかに大きくなっている。


 達也は王妃のそばへ進み、朝の挨拶をした。

「王妃様。おはようございます。今朝のお加減はいかがでございますか」


「よく眠れました。朝食もいただけています」と王妃が答えると、達也は安心したと伝えた。それでも腹へ目を向け、子の様子も確かめずにはいられなかった。


「お腹のお子もお変わりございませんか」


 王妃は笑った。

「毎朝同じことを聞かれても、私に分かることは限られていますよ」


「それでも毎朝伺います」と達也が言うと、王妃は承知していると応じ、粥を一口食べた。達也が気にかけているのは、自分の体だけではないことも分かっていた。


「太后様のことも、同じように気になさっているのでしょう」


 達也はもちろんだと答えた。楊(ヤン)太后の懐妊が確認されてから、まだ1か月ほどしか過ぎていない。王妃ほど腹が目立つ時期ではなく、食欲にむらがあり、朝に吐き気を感じる日もあった。


 王妃も、太后が朝食を取れない日があると聞いていた。達也は医師から今のところ問題ないと報告を受けていたが、やはり気になっていた。


 そこへ女官が入り、政務殿から使いが来ていると告げた。達也が用件を確かめると、北方から軍報が届いたという。


「分かった。すぐ行く」と達也は答えた。


 王妃も箸を止め、金軍の知らせかと尋ねた。達也はまだ内容を聞いていなかったが、このところ北方の報告に注意を払っていた。兵の動きだけでは説明できない変化があったからだ。


「でしたら、こちらに長くいらっしゃる場合ではありませんね」と王妃は言った。


 達也が詫びると、王妃は仕事へ行くよう促した。それでも夕方にはまた伺うと約束した達也に、王妃は念を押した。


「戦の話なら、戻れる時刻まで約束なさらなくて結構です」


 達也は返す言葉に困った。

「王妃様にはかないませんね」


「今は開封を守る方が先でしょう」


 達也は承知したと答え、丁重に頭を下げた。王妃に見送られると、そのまま政務殿へ急いだ。


 ◇ ◇ ◇


 政務殿では数人の将校と役人が待ち、卓上には開封周辺から黄河(ホワンホー)以北までを描いた地図が広げられていた。達也は席に着く前に、報告がどこから届いたのか確かめた。北東へ出している斥候からだった。


 報告を促され、将校が地図上の道を指した。

「この半月ほど、金兵をほとんど見なくなっておりました。しかし昨日、黄河の北から戻った斥候が、多数の兵が移動しているところを確認いたしました」


 達也が場所を尋ねると、将校は地図上の数か所を示した。兵が集まっているのは1か所ではなく、北と北東から別々の部隊が来ていた。全体の兵数はまだつかめていないものの、数千程度の軍ではない。騎兵のほかに歩兵もおり、多数の馬と荷車が確認されていた。


 達也は地図へ目を落とした。2月に開封を失った金軍は北へ退いたが、春から夏にかけては小部隊が開封の北や東へ何度も現れていた。こちらの兵力や城外の動きを探るため、斥候を出していたのだ。


 ところが夏の終わり頃から、その姿が急に減った。達也軍の斥候が北へ進んでも、金兵と出会わない日が増えていた。それだけなら、金が開封奪還を諦めたとも考えられる。しかし、同じ時期から北方との商いにも変化が出ていた。


 達也は役人に、北から来る商人の様子を報告させた。9月に入ってから減り始め、開封へ入る荷車の数は夏の半分ほどになっているという。特に馬、皮、羊毛、薬材を運ぶ者が減り、塩を持ち込む商人も少なくなっていた。北へ向かう商人も同様だった。


 理由を問われ、役人は答えた。

「北の街道では兵の往来が増え、商人が道を譲らされたり、別の道へ回されたりすることがあると聞いております」


 その話が最初に入ったのは半月ほど前だった。達也は役人を見た。

「なぜ軍へ報告しなかった」


「街道上の一時的な混乱と考えておりました。金軍の動きと関係しているとは思わず……」


「商人の出入りや荷の量も軍へ上げろ。大軍が動けば、兵だけが動くわけじゃない」


 役人が承知すると、達也はそれ以上責めなかった。相場が変わったり、雨で道が悪くなったりすれば、商人の往来は減る。金兵の姿が少なくなったことも、それだけで理由を判断するのは難しかった。


 だが、兵が姿を消した時期と商人が減った時期が重なり、その北では大軍の集結が始まっている。達也には偶然とは思えなかった。


「金は逃げたんじゃないな」


 将校たちが顔を向けると、達也は続けた。

「こちらから見えないところへ兵を下げて、各地の軍を集めている」


 将校の1人が、金軍は開封を狙っているのかと尋ねた。達也には、これだけの兵を集めるほかの理由が見当たらなかった。


 達也は地図上の開封を指した。

「2月に開封を失い、その前には帰徳府と曹州も取られている。このままでは金は黄河の南へ戻れなくなる」


 将校は、こちらから先に兵を出すことを提案した。敵が集まる途中を叩くつもりだったが、達也は退けた。今攻めても金軍が北へ引き、せっかく集めた兵を逃がすことになると考えていた。


「では、こちらで待つのでございますか」と将校が尋ねると、達也はうなずき、黄河の北から開封へ指を戻した。


「開封を取り返したいなら、ここまで来てもらう」


 ◇ ◇ ◇


 達也はすぐに斥候を増やした。ただし、金軍へ近づきすぎることは禁止した。敵陣へ無理に潜り込み、兵を1人ずつ数える必要はない。部隊がどこから集まり、荷車がどの道を使い、軍馬をどれほど伴っているかを調べさせた。集まった軍がどの方向へ動き始めるかも、確かめる必要があった。


 併せて、開封から北へ続く街道や黄河の渡河点、村、宿場の状況も調べ直させた。何万もの兵が南下するなら、大量の兵糧と馬の飼葉が必要になり、それを運ぶ荷車も続く。兵を人目から隠しても、食糧や飼葉の輸送まで隠すのは難しかった。


 午後には、さらに北へ出ていた斥候が戻った。長く馬を走らせてきたらしく、衣服にも靴にも乾いた泥が付いていた。


「申し上げます。黄河の北で金軍がさらに増えております」


 達也は兵が来る方角と、荷車の様子を確かめた。北東と北西の両方から、旗の異なる部隊が同じ場所へ集まっているという。多数の荷車に牛車も交じり、軍馬とは別に、替え馬と思われる馬の群れも連れていた。


 先に集まった部隊の一部は、すでに南へ動き始めていた。全軍ではないが、黄河へ向かっている可能性が高かった。


 兵数を尋ねられると、斥候は見てきた様子を思い返して答えた。

「私が確認した場所だけでも1万を大きく超えております。さらに離れた場所にも同じほどの兵がおりました」


 北から来る兵は、まだ途切れていなかった。達也はそこまで確かめると、斥候をねぎらって休ませた。


 斥候が下がったあと、将校が、すでに2万以上の兵がいることになると確認した。達也は、今見えているだけの数だと答えた。金は開封を取り返すため、残っている兵をかなり集めている。さらに増えると見ていた。


「4万ほどになる可能性もございますか」と将校が尋ねた。


「ある。それ以上でも驚かん」


 将校たちの表情が引き締まる中、達也は地図から目を離さず、耶律玉蘭(イェリュ・ユーラン)を呼ぶよう命じた。さらに、東平(ドンピン)と曹州(ツァオジョウ)の兵にも準備をさせた。ただし、すぐに開封へ集めるつもりはなかった。


 敵に気付かせないためかと将校が確かめると、達也はそのとおりだと答えた。


「金には、こちらがまだ何もしていないように見せる」


 ◇ ◇ ◇


 翌日の午後、玉蘭が開封へ入った。年初の開封攻略で騎兵を率い、達也と連携して金軍を崩した将軍だ。攻略後も北東方面の兵と軍馬をまとめ、東平や曹州へ何度も足を運んでいた。


 王府へ着くと、玉蘭は旅装のまま政務殿に入った。達也は席を勧め、地図を広げた。


「金が動いた」


 玉蘭が場所を尋ねると、達也は黄河の北で兵が集まっている範囲を示した。かなり広い地域に各地の部隊が集結し、兵数はすでに2万を超えていた。なお北から増え続けており、正確な数は確定していない。狙いは開封だと、達也は伝えた。


 玉蘭は地図を確かめ、こちらから迎え撃つのか、それとも待つのかを尋ねた。達也は金軍に黄河を渡らせ、開封の近くまで来させるつもりだった。


 玉蘭は地図上の街道を指でたどった。

「開封まで南下すれば、金軍は黄河からかなり離れます」


 達也が同意すると、玉蘭は続けた。

「兵糧も使う。馬も疲れる」


「荷車も全部こちら側まで来る」と達也が付け加えた。


 玉蘭はその狙いに気付いた。

「その時に、退路へ回るのですね」


 達也はうなずいた。2月とは戦い方を変えるのかと問われ、前の戦との違いを説明した。


「前は開封を取るのが目的だった。敵が逃げても、城さえ取れればよかった」


 年初の戦いでは、達也は金軍を無理に包囲しなかった。開封を攻めた際も西側に逃げ道を残し、守備兵を城外へ誘い出している。城そのものを大きく壊さずに奪うためだった。


「今度は開封を守るための戦ですか」と玉蘭は尋ねた。


「守るだけなら、城に籠もっていればいい」と達也は答えた。「金が大軍を集めて来るなら、その軍をここで潰す」


 玉蘭は地図から顔を上げた。

「逃がさないのですね」


 達也に迷いはなかった。

「ああ」


 そして、念を押すように続けた。

「今度は帰さん」


 ◇ ◇ ◇


 2人はそのまま軍の配置を詰めた。開封には十分な守備兵を残し、各門の倉へ矢と食糧を補充する。城壁に上げる兵も少しずつ増やすが、金軍が来る前から城門を閉ざしたり、城外に大軍を並べたりはしない。待ち構えていると知られれば、敵が黄河の北で止まる恐れがあった。


 玉蘭は東平と曹州の騎兵を一度に集めず、命令が届けばすぐ動けるよう、各地で準備させることになった。


「契丹兵300騎は私の近くへ集めます」と玉蘭は言った。


「ああ。騎兵をまとめる時の中核にしてくれ」


 玉蘭が替え馬も多めに用意させると伝えると、達也はそれも頼んだ。今回は敵が崩れたあとも追うつもりだった。


 玉蘭は地図から顔を上げ、どこまで追うのかと尋ねた。達也は金軍次第だと答え、黄河を越えたところで追撃を終えるとも決めていなかった。


「やはり、開封を守って終わりではないのですね」と玉蘭は笑った。


「向こうが大軍を連れて来るんだ。開封の前から追い返すだけではもったいない」


 相変わらず欲が深いと玉蘭に言われ、達也は今さらだと返した。玉蘭も笑って認めた。


 達也は再び地図へ目を向けた。まずは金軍を引き寄せなければならない。玉蘭の騎兵をどこへ回すかは、敵が黄河を渡り、開封へ向かう道が分かってから決めるつもりだった。


 それまでは騎兵の姿を見せず、金軍が開封へ十分近づいたところで北へ回る。退路と兵糧隊を押さえ、荷車も馬もできるだけ奪う方針だった。


 玉蘭は地図を見ながら、動き出す時機を考えた。

「早く動けば金軍に気付かれます」


 達也も同じ考えだった。玉蘭は東平へ戻ってからも、兵を一度に動かさないようにすると約束した。


「急がなくていい。金は自分から来る」と達也は言った。


 ずいぶん落ち着いていると玉蘭が言うと、達也は答えた。

「半年近く待ったんだ。ここで慌てる必要はない」


 ◇ ◇ ◇


 その日の夕方、達也は玉蘭とともに王妃の宮を訪れた。玉蘭は王妃と楊太后の懐妊を聞いていたが、太后の懐妊が確認されてから王府へ来たのは初めてだった。


 王妃は玉蘭を笑顔で迎えた。玉蘭は懐妊を祝い、前に会った時よりも大きくなった腹へ目を向けた。


「前にお目にかかった時より、随分大きくなられましたね」


「私も毎日見ているので気付きにくいのですが、夏に着ていた衣はもう合わなくなりました」と王妃は答えた。


 達也が、新しい召し物は用意してあると口を挟むと、王妃は達也へ顔を向けた。

「今は玉蘭殿とお話ししているのですよ」


 達也が詫びるそばで、玉蘭は笑った。

「達也様は相変わらずですね」


 達也に意味を問われると、玉蘭は遠慮なく答えた。

「王妃様のお体のことになると、何にでも口を出されるという意味です」


「それは仕方ないだろう」と達也が言うと、玉蘭は同意し、王妃も笑った。


 しばらくして、楊太后も王妃の宮へ来た。玉蘭は立ち上がって礼をし、懐妊の祝いを述べてから体調を尋ねた。


「今日は大丈夫です。ただ、朝はまだ食べられない日があります」と太后は答えた。


 玉蘭が無理をしないよう勧めると、太后は達也と王妃から毎日のように言われていると話した。


「それでしたら、私から申し上げるまでもありませんね」と玉蘭は笑った。


「本当にそうなのです」


 達也は口を挟まず、3人のやり取りを聞いていた。やがて王妃が、今日は軍の話で開封へ来たのだろうと玉蘭に尋ねた。


 玉蘭は肯定してから、達也へ顔を向けた。軍の状況をどこまで伝えるかは、達也が決めることだった。


 達也は王妃と太后の前へ座った。

「王妃様、太后様。お二方にもお話ししておかなければならないことがございます」


 王妃の表情が改まり、金軍のことかと尋ねた。達也は、黄河の北で各地の兵が集められていると説明した。正確な兵数はまだ分からないが、かなりの大軍となり、開封へ向かってくる可能性が高かった。


 太后は城の安全を確かめた。

「開封は危ないのですか」


「すぐに城が危うくなるとは考えておりません。そのための準備も始めております」と達也は答えた。


 自分たちはどうすればよいかと問われると、しばらく王府から出ないよう頼み、警備も増やすと伝えた。王妃と太后はともに了承した。


 達也は礼を述べて頭を下げた。

「医師と女官の方々にも、できるだけ王府内にいていただきます」


 王妃は達也の出陣について尋ねた。金軍が南へ来れば、達也も城外へ出るつもりだった。玉蘭も出陣し、そのために今日、軍の配置を相談していたと説明した。


 王妃は達也に言った。

「でしたら、戦が始まったあとは、私たちのことは医師や女官に任せてください」


「しかし王妃様はご懐妊中でございます」


「だからこそ、医師を付けてくださったのでしょう」


 達也がうなずくと、王妃は太后にも女官と医師が付いていると続けた。太后も同じ考えだった。


「こちらのことを戦場まで持ち込まないでください」


 達也が「太后様」と言いかけると、太后は言葉を継いだ。

「王妃と私は王府におります。達也様は兵のことをお考えください」


 達也は2人の顔を見た。どちらも考えを変えるつもりはなかった。やがて頭を下げ、承知したと答えた。


「今回は素直ですね」と王妃は笑った。


「お二方がおっしゃることはもっともでございます」


 それでも、出陣までは毎日来るのだろうと王妃が言うと、達也は即座に答えた。

「もちろんでございます」


 太后は呆れた顔になった。

「そこだけは絶対に譲らないのですね」


 達也が肯定すると、太后はそれ以上言うのを諦めた。

「分かりました。もう何も申しません」


 ◇ ◇ ◇


 玉蘭は翌朝、開封を出た。契丹兵300騎を中心に、東平と曹州の騎兵へ準備を命じるためだった。


 達也は玉蘭に大軍を同行させなかった。開封から多数の兵が北東へ向かえば、金軍にも情報が届く。玉蘭の騎兵は小さな隊に分け、普段の移動に見えるよう集めることになっていた。


 開封でも、兵の動きが目立たないよう準備を進めた。城壁へ上げる兵は一度に増やさず、数日をかけて交代させた。倉へ矢、穀物、馬の飼葉を補充する一方、城門周辺の井戸や水桶を点検し、負傷兵を運び込む場所も決めた。


 市場は閉じず、城門も普段どおり開けていた。商人や農民の出入りも止めていない。町の様子を見ただけでは、大きな戦が近づいているとは分からなかった。達也が望んだとおりに準備は進んでいた。


 ◇ ◇ ◇


 3日後の日暮れ頃、北から戻った斥候が王府へ駆け込んだ。達也は政務殿で報告を受けた。


「申し上げます。金軍が南へ動き始めました」


 先鋒だけではなく、後続の部隊も続いていた。正確な兵数は不明だが、確認できた分だけでも3万を超えると見られ、まだ北に残っている兵もいた。


 達也は地図を開き、進路を確かめた。金軍は黄河へ向かい、すでに渡河のための舟を集めているという。斥候が、その場所を地図上で示した。


 今のところ、開封へ向かう道から外れている部隊は確認されていなかった。軍の後ろには、兵糧を運ぶ長い荷車の列が続いていた。


 達也は報告を聞き終えると、各隊に知らせるよう将校たちへ命じた。ただし、出陣はまだだった。


 将校の1人が驚いて尋ねた。

「3万を超える軍が南へ動いております。それでも待つのでございますか」


 達也はうなずき、黄河から開封までの道を指でたどった。

「まず黄河を渡らせる」


 そのあとも迎え撃たず、開封まで来させる方針だった。将校が承知すると、達也は念を押した。


「こちらから大軍を出すな。途中で警戒して引き返されたら困る」


 玉蘭にも金軍の動きを伝え、まだ動かないよう命じた。将校たちが命令を受けると、達也は地図上の開封へ指を置いた。


 半年近く目立った動きを見せなかった金軍が、ようやく大軍となって南へ向かい始めた。開封を取り返すため、各地から集めた軍だった。


 達也も、その大軍が南へ来るのを待っていた。少数の部隊を何度追い払っても、金には次の軍が残る。今回は集まった兵を開封まで引き寄せ、まとめて叩くつもりだった。黄河を渡り、長い街道を南下して、退却にも時間がかかる場所まで進ませる。そのうえで背後を断てば、これまでのように北へ逃げることはできない。


「来い」と達也は地図に目を据えたまま言った。


 将校たちが顔を向けると、達也は続けた。

「今度は逃がさん」

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