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《神話の終わりに、火を灯して》  作者: 音成 九夢
0章ー《魔女の子》
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0章1話【親子の家出】


「君も随分と大きくなったものだ」


私の家に赤子の状態で捨てられてから、早いもので12年。フィアマ・ルーチェと名付けたその少女は、今や見違えるほどすくすくと、健やかに育っていた。


「母様が育ててくださらなかったら、私は赤子のうちに死んでいたかもしれませんね」


悪戯っぽく微笑む彼女の瞳と髪は、夕陽のように綺麗な橙色だいだいいろをしている。思わず魅入られてしまうほどの美しさだ。この12年は、本当にあっという間だった。


「フィアマ。君も,もう12歳だ。これからのことについて、少し大切な話をしなくてはならない」


「大切なこと、ですか?」


首を傾げるフィアマを見つめながら、私の胸の奥に、冷たい焦燥が宿る。

この世界において、魔法を扱える存在は極めて稀で、唯一『魔女』と呼ばれる一族だけがその力を継承し、代々国に仕えてきた。


フィアマは本来、ただの人間の子だ。だが、魔女である私の元で育った以上、世間からは『魔女の子』と見なされる。この国では、魔女の子でありながら魔法が使えない者は、問答無用で処刑される決まりだった。


万が一、彼女に魔法が使えぬことが王国に露見すれば、我が子の命はないだろう。


「何、難しい話じゃない。君に、これからの生き方を選ぶ権利を与える」


私が彼女に提示した選択肢は、2つ。


1つ目は、魔法が扱えるという嘘を抱えたまま、私の跡継ぎとして王に仕える道。そして2つ目はこの国を捨て、誰も私たちを知らない場所へ旅に出る道だ。


「そんなの、一択ですよ……。私は後者を選びます」


「なぜだい?」


「私はまだ、外のことを何も知らない。そんな状態で王国に縛られたくないんです」


フィアマは困ったように眉を下げて笑った。

彼女の人生は誰のものでもない。私のエゴで『魔女の子』として育ててしまったせいで、理不尽な苦難を強いられている可哀想な子。ならせめて、彼女には自由な道を示してあげなくてはならない。


「愚問だったね。なら、今夜中にこの家を出よう。おそらく近日中に王国の人間が来るはずだ」


私は申し訳なさを胸に抱きながら、旅立ちの身支度を始めた。


月が昇り、すっかり夜も更けた頃。必要最低限の荷物を抱え、いざ住み慣れた家を出ようとしたその時、フィアマが後ろから私の袖をきゅっと掴んだ。


「どうしたんだい、フィアマ」


足を止め、振り返る。フィアマはうつむいたまま、蚊の鳴くような声で呟いた。


「私……何か、母様に迷惑をかけていませんか……」


「なぜそう思う?」


彼女は私からそっと目を逸らし、絞り出すように言葉を続けた。


「私のわがままのせいで、代々受け継がれてきた魔女としての家系が終わってしまうんです。本当なら、私一人だけをここから追い出してくれればよかったんですよ」


フィアマは溢れそうになる涙をぐっと堪え、私の返事を待っている。確かに、代々受け継がれてきた伝統や歴史は、私たちの逃亡によって簡単に途絶えてしまうかもしれない。


けれど、そんなものはとうの昔にどうでもよかった。12年前、この小さな命をこの手で抱き上げたあの日に、私はもう決めていたのだ。


国でも、歴史でもない。私は何があっても、この子と生きていくのだと。

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