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《神話の終わりに、火を灯して》  作者: 音成 九夢
0章ー《魔女の子》
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0章2話【夜霧の追跡者】

(注釈)『固有魔法イネイト』〜先天的な。という意味があります。


「馬鹿なことを言うんじゃないよ」


私はフィアマの前にしゃがみ込み、泥や血にまみれていた昔と変わらない、愛おしい橙色の前髪を優しく払った。


「別に私は歴史に縛られる為に、魔女はしてない。私自身で君について行くことを決めたんだ」


「母様…」


堪えきれずにフィアマの目から涙がこぼれ落ちる。私はその涙を指先でそっと拭い、彼女の手を強く握りしめた。


「さあ、行こう。夜霧が私たちの足跡を隠してくれるうちにね」


住み慣れた家を後にし王国を出るために静まり返った森へと入る。私達が目指すべきは王国の外、『グラン・ヴェルデ』に向かわなければならない。森を抜けてしまえば追っては向かうのは困難だ。森は『永遠の森林』とも言われており、1度入れば正しい道を知らない限り出ることは不可能と言われている。


「疲れてないかい?」


「大丈夫です」


平穏な会話はそう長くは続かなかった。運命の歯車は私たちが思うよりも早く、そして残酷に回り始めていた。


ーーザッ、ザッ、ザッ。


森の木々の中から規則的な鉄靴の音が聞こえる。次の瞬間、2人の前に閃光が走る。


「しゃがめ!」


一瞬にして周りの木が消え去った。少し遠くの木陰から見えたのは国王に仕える騎士の1人。


「あれれぇ?避けれちゃうんだ。本気で殺しにかかったはずなんだけどなぁ」


「お前、『閃光の陰人ダーク』だな」


夜霧の中からヘラヘラとした薄汚い笑みを浮かべた男が歩み寄ってくる。身にまとっているのは『神器アーティファクト』という、この世界で最高兵器と呼ばれる代物だった。しかし、その佇まいは騎士と言うよりも、獲物を痛ぶって喜ぶ狂人そのもの。


「そうさぁ、俺は閃光の陰人。魔女が逃げ出したと聞いて追いかけてみれば、まさか君がなんてねぇ?」


私がその名を呼ぶと、男はわざとらしく大袈裟に肩をすくめて見せた。


「光栄だねぇ、魔女サフィラ様に名前を覚えてもらえるなんてさ。……でも、困るんだよね。王命に背いて、そんな『魔法も使えない無能なゴミ屑』を連れて逃げようなんてさぁ」


ニタニタと笑いながら徐々に近づいてくる男の濁った視線が後ろのフィアマに向く。フィアマは恐怖のあまりに動くことができなかったが、震えながらも強く睨み返していた。


「そこの、お嬢さぁん。いま降伏してくれたら魔女様の命は助けてあげるよ」


並大抵の兵士なら手も足も出ない強さ。もしあの瞬間刃に気づかず立ち止まっていたら理解する前に首を跳ねられていただろう。


男の姿がかき消えるように消える。


私が扱う『固有魔法イネイト』は『恐怖』私と相対する対象は私に向かえば向かおうとする程からが反射的に恐怖を覚え次第に感覚を奪われる。その名を、


「アネステシア」


次の瞬間、キィィィン!!という轟音が辺り一帯に鳴り響く。男はなんと魔女の前で止まっていた。


「何をしたぁ……!?」


神器アーティファクト』の輝きを身に纏い、光速の踏み込みを見せたはずのダークが、私の目の前で不様に膝をついていた。その顔面は驚愕と恐怖に歪み、全身から滝のような汗が吹き出している。指一本動かすことすらままならない様子で、地面に這いつくばろうとする体を必死に支えていた。


「魔法を使っただけだよ」


私は冷徹な声を浴びせ、手を男にに突きつける。


「馬鹿なぁ…!神器アーティファクトを使って尚、!!」


歴戦の差というやつだ。魔女として生きておよそ100年、何度も戦は繰り広げてきた。それでもまともにやり合っていれば、恐らく勝ち目はなかった。それほど神器アーティファクトというのは恐ろしい程に強い。


「私の子を殺そうとした罰は重いよ」


額に手を突きつける。私は彼に催眠術をかけ眠らせた。なぜ殺さなかったのか、それは怯えているフィアマに辛いをさせたくないから。初めての死という恐怖にはとても耐え難い。


どさりと、糸が切れた人形のように男が地面へ崩れ落ちた。完全に意識を失い、静かな寝息を立て始めている。あれだけ禍々しく輝いていた『神器アーティファクト』の光も、主の眠りと共に嘘のように消え失せていた。


私は突きつけていた手を引き、深く一つ、ため息をついた。

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