5話 寡黙な少女
あの少女は単に寡黙というわけではない。あのメイドに黙らされていると思う。そして、あのメイドの素性を政府は詳しくは把握出来ていなかった。
「寡黙な少女と素性の知らないメイドか」
「全く《超人》の面倒はアンノウンより厄介なのに」
それは国の政治的問題も関係してくるからだ。
「でも手段は選ばないでしょ? なら、こちらの方が有利。あの家の中からクラーケンを出すだけよ。それかあの子が喚きだしたらメイドは答えるかもしれない」
物騒なことなら幾らでも思いつく。
「出来れば争わずに済ませてくれない? 勿論可能な限りでいいわ。無理強いもしない」
「分かった」
ダナム、あずさの乗せたプライベートジェットはリリー達のいる国へ向かった。
リリー宅に着くと軍は一斉に家を囲み、あずさとダナムは玄関のチャイムを鳴らさずに勝手に侵入した。ドアは鍵がかかっておらず私達はとりあえず階段を登り二階にある書斎へ向かった。その間、他の兵士は一階を見回りする。
あずさ達が二階にあがると書斎の部屋のドアは開いたままになっていた。先にあずさが向かい後にダナムが拳銃を構え警戒しながら続いた。
部屋を見ると仏頂面のあの少女は書斎の奥に座り、此方をやはり何も語らず見ていた。
「あんたがリリー? それともメイドの方が本当のリリーと呼ぶべき?」
「この子はリリーですよ」
メイドは奥の通路から現れリリーの代わりに答えた。
「あんたなんでしょ《超人》は」
「今日はどういった御用で? イタリアの件はニュースで知りましたよ。大変なことになっているようで」
「あんたに訊きたいことがあって来た。あのアンノウンについてなにか知ってるね? 全て知っていることを話してもらうよ」
「私がどうして《超人》だと?」
「直感。あの子が私相手にこんなだいそれたことしないでしょ。あとはあの子がメイドを見ていたから」
「そうね。及第点とまではいかないけれど」
「それは自白と捉えるよ。なんで回りくどいことすんの」
「その前にそもそも私はあなた達のように群がるのが嫌なのよ」
「なに」
怒りを込めて訊き返した。
「あなただって政府の犬になる気はないのに結局政府に従っている。連中は私達をどう従わせるかあれこれ言って結局従わされるのよ」
「あんた友達いないでしょ」
「だから? 友達がいたら幸せなの? それにあなただって友達はいないんじゃなくて?」
「違っ」
「違わない。人間じゃないんだもの。皆は《超人》は別ものとして見るでしょ。だからあなたの周りは友達と呼べる人はいない。話が出来るとしたら同じレベル、同じ《超人》かしら」
(こいつ……)
するとダナムが会話の間に入ってきた。
「この子は誰? あなたとどんな関係かしら?」
「この子はこの家の子よ。でも、頼れる大人達はいない。両親は既に他界。私が世話をしているの。メイドとしてね。あの子、父親が使っていた書斎が気にいってね、ずっとそこで飽きずに本を読み続けてるの。それが彼女にとって落ち着く時間になるみたい。でも、それは単なる他人の頭で考えられた思考をただ流し込んでいるだけ。あの子、自分からは話さないし自分から意見は言わないし、自分から考えようとはしない。ずっと他人を伺って他人の意見を待って従ってる」
「あなたが言わせないようにしてるんじゃなくて」
「あら、酷い言い草。もし、あの子にその能力があるならとっくにあなた達に助けを求め声をあげてるでしょ? 口があるのだから出来るわよね? でもしない」
「もしかして」
「彼女は他の子とは違う? そうね、確かにこの子は他の子みたいには出来ないわね。だからこの家はね、彼女にとってはお城なのよ」
それを聞いていたあずさは首を横に振る。
「見方を変えれば檻の中だ。そうやってあの子を内にずっといさせているだけでそれが本当にあの子の為になるわけ?」とあずさは言い返した。
「あの子が望めばそうするわ。少しは外にも出て動物や植物と話をするようになったけれど。人間よりずっとあの子にはいいのかもしれないわね」
あずさとダナムはリリーを一瞥した。
「それはそうとお茶でもお出ししましょうか?」
そう言いながらメイドは書斎のドアを閉めようとして、それをダナムが手で止める。
「能力は分かってるのよ。ドアから手を離して」
もう片方で銃口を向け、メイドは素直にドアから手を離した。
「それじゃ私達と同行してもらえるかしら」
「拒否は出来るのかしら」
「あら、出来ると思う?」
「あの子の世話があるので」
「リリーは我々が保護します」
「そうね。社会はそれが正しいことだと判断するでしょう。そしてその判断に誰も責任をとろうとはしない。あの子に必要なのはこの城よ」
「それはあなたが決めることではないわ。さぁ、来なさい」
メイドは溜め息をついてエプロンを外すと、リリーを一瞥してからその場を離れた。リリーは何も語らず、椅子から立ち上がるわけでもなく、そこから動こうとはしなかった。
あずさはそれを見て去り際に彼女に向け発言する。
「私はあなたに意思があると分かってる。あいつはあなたは何も出来ないと思ってるけど、あいつにそう思い込まされてるだけだから」
外には既に一台の軍用車両が待機しており、その周囲にはエンジンのかかった車両バイク、そして空にはヘリが飛んでいた。あずさ、ダナム、メイド、軍からは大尉が乗り込み、《超人》を移送。
物々しい雰囲気と厳戒態勢での交通整理の元、米軍基地へ向かいそこで取り調べが行われた。
《超人》の能力はまだ不明な点はあるが屋内に限り簡単に言えばドラえもんのどこでもドアのように別の場所へ繋げることが出来る。厄介なのはどのドアもいきなり別の場所に繋げてしまう為にメイドからは離れるわけにはいかない。また、開いたドアをメイドが閉めると、その部屋のドアが別の外に繋がるので、メイドにはドアは触れさせてはならない。それは恐らく車でも言えるし、飛行機の中のトイレも同じだろう。
問題は屋内で使える能力がいきなりどこでもドアだけだとは限らないということだ。
「さて、教えてくれるかしら? まずはあのアンノウンについて知っていること全て話してもらうわよ」
取り調べはダナムが行う。あずさは隣で居合わせた。万が一のことを踏まえてのことだ。
だが、メイドは意外にも素直に答え始めた。
「あのアンノウンを知る前、私は自分の目覚めた能力に気がつき直ぐにそれを利用することを考えた。私の能力は戦闘向きとはいえないけれどビジネスには向いてると直ぐに分かったわ。それから私は海外の行き来をパスポート無しで人やモノを運ぶことをして大金を荒稼ぎしていたの。そんな時だった。いつものように〈移動〉をしようとしたらアレが現れだした。ロバの頭が三つあるあいつがね。奴は自在に体格の大きさを変えられる。それはあなた達も知ったのでしょ?」
「ええ。やはりそれがあのアンノウンの特徴なのね」
「私が最初に見た時は本当にロバと大差ない大きさだった。あのアンノウンがロバのように鳴いたのを見て私は直ぐに逃げた。自分の能力なら簡単に逃げることが出来る。偶然居合わせたにしては出来過ぎだとは思ったけど、それより逃げることにあの時は集中していた。実際その時は逃げれたしそれ以上はもう考えるのをやめて酒を飲んで忘れることにした。でも、再び〈移動〉先にあれが現れると私は偶然ではないことに流石に気がついた。私の移動先にあのロバは何故か現れるようになっていった。私は怖くなって能力を自分に対して以外に使うだけにせざるを得なくなった。日本の《超人》あずさをあのアンノウンに戦わせようとしたのはアンノウンを退治出来ると思ったからだったけれど、どうもあてが外れたみたいね」
メイドはそう言いながらあずさを見た。あずさは舌打ちをする。
「あのさ、喧嘩売ってるなら買うけど? 自分の弱さを自覚しておきながら私に喧嘩を売るって単なるバカ? 早い話がさ、あんたの話が本当だとして、それならあんたを餌にあんたの能力でロバの本体と会ったら私がそのアンノウンをぶっ倒せば済む話でしょ」
「あら、聞いた話じゃレーンは技を跳ね返されたみたいだけれど? 私もあのアンノウンの能力を全て知っているわけじゃないの。だから私を餌にする案は却下よ」
すると今度はダナムが話だす。
「アンノウンには確かに何かしらの特徴的な能力を持っていたりはしたけど、それは雷に耐性のあるサンダーバードや凍らせる能力のアンノウンとか。でも、今回のアンノウンは能力が急に盛り過ぎじゃない? なにかそこまで特別な理由はなに?」
「というよりアンノウンにも格差があるということよ。ほらいるでしょ? 未だ未討伐のアンノウンが」
「なる程ね。だとしたらそのうちアンノウンに危険度を示すレベルが目安として設定されることになるわね。それじゃ次の質問。いい加減メイドと呼び続けるわけにもいかない。あなたの本当の名はなんていうの?」
「とりあえずはジェニーでいいわ。勿論本名を教える気はない」




