3話 自由との戦い 下
《超人》ルーシー、オランダに到着。直ぐに作戦会議に入る。参加する国はオランダ、ベルギー、G7加盟国。人間兵器は植物に有効打にならないことから攻撃の矛先を向ける為にドローンを飛ばし誘導、その間米軍の援護を受けながらあずさ、ルーシーはアムステルダムへ近づく。アムステルダムの地理は変異の植物によってアテにはならない。衛生写真を頼りに新たに地図を作成、目的はアムステルダムの中心地。ルーシーは光の光線で植物の動きを遅らせ耐性を弱らせた後、中心地を一斉爆撃。この作戦は《超人》レーンの救出と元凶の撃破、そして新たに出現したアンノウンの撃破、この三つの達成を人命救助より優先とする。オランダ政府はそれを了承。それ以外に手立てはないと判断された。
作戦実行は24時間後。カウントダウン開始。カウントダウンはモニター、タブレット端末から確認可能。
「レーンはアルメレとエイセル川の間よ。詳しい場所はGPSで確認して」
「分かったけど、先にアムステルダムでしょ」
「そう」
「アムステルダムってもとは漁村だったらしいね」
「あら、物知りね。そうよ」
「中心地ってなるとダム広場とかかな」
「えぇ、そうなるわね」
「大異変になる前のオランダを調べてみたら結構綺麗な所だったらしいじゃん。なんか壊すのも勿体ない気もしなくはないけどね」
「私はあまりなにも思わないわね。アメリカの敵アンノウン、そして大事な《超人》を取り戻す為ならなんだってするわ」
「そういうお国柄なのか。まぁ分かっていたけど」
日本はそんな国と昔戦争をし、焼け野原にしていった。そこにいた人、そこにあったものが破壊された。
「アムステルダムには美術館もあったでしょ」
「出来るだけ避けるわ」
「そう」
(オランダもよく許したもんだ)
「それじゃそろそろ準備して」
「私はいつでも」
(持っていくもんなんてない。作戦通りやるだけだ)
移動開始。配備完了。定刻通り作戦を実行。ドローンを向かわせる。植物反応、緑のつるを伸ばし上空を飛ぶドローンを狙い始める。拡散し飛ぶことで時間を伸ばす間、あずさとルーシーと部隊がアムステルダムへ接近。作戦通り植物はドローンへ集中している。ドローンはつるを回避しながら逃げ続けるが、植物の花が開きはじめ種を弾丸のように一斉噴射、ドローンを次々と撃墜させる。第2陣ドローン展開。激しい攻防戦の音が響く。その間、あずさ達はアムステルダムに到着。ルーシーの光が放たれ、アムステルダム中心部が照らされ動きが鈍くなり耐性が脆くなる。そこへ戦闘機が海上から飛び、空爆を開始。アムステルダムのダム広場近くが次々と根っこごと吹き飛ばされる。すると、広場の地面が崩落、大きな穴が出来るとその下に真っ赤な心臓が現れた。それは巨大でドクンドクンと動いている。
「なんだあれは……」
パイロットは戦闘機からその光景を目視確認すると、直ぐに報告。破壊の命令が下された。
ミサイル発射ボタンを押し、その心臓に目掛け発射した。
着弾は数秒もかからない。ダム広場の穴から爆発音と共に炎があがった。
悲鳴が辺りに響いた。
「まさかこの植物の悲鳴か!? 気持ち悪いな」
パイロットは破壊された心臓を確認、その場から離れる。
先程まで動いていたつるや花は動きを止め、完全沈黙。
その時だった。無線で巨大アンノウンを発見とパイロットから通信が入った。
「いよいよ私の番か」
あずさは肩を鳴らした。
「私も手伝うね」とルーシー。
「お願い」
植物の死骸の向こうから風が吹いた。
「来るっ!」
あずさは右手で指を鳴らし広場地中から水を吹き出させ、広場はその水飛沫が飛ぶ。霧雨のような細かい水があずさとルーシーにかかり濡れる。
「水の流れをかたちに……水竜!」
水飛沫は止み、水が一つに集まり形を成す。蛇のようにうねる水、水竜が現れると同時に巨大な四本脚の化け物が建物の屋上から飛んであずさ達のいる広場へ降りてきた。そこを口を開いた水竜がのみ込み、激しい水の流れの中へ封じ込める。現れたのは巨大な赤い六つの目をした黒い蜘蛛だった。
「あれがアンノウン」
すると、蜘蛛は不快にさせる嫌な音を放った。電波や電気系が狂い始める。
「戦闘機は奴に近づけない!」
パイロットはそう言って撤退を開始。
「最初から分かってたよ」
水蛇の体内で激しい流れに必死にじたばたしながら抵抗する蜘蛛のアンノウン。
(レーンとの戦闘の映像では雷を食ってたな。でも、水を吸ったりしないということはそれは出来ないということか)
「さぁ、出番だよ」
あずさは真っ白なクラーケンアンノウンを自分の能力で出すと、水竜にとらわれた蜘蛛アンノウンをとらえ、一瞬で氷漬けにした。そこにルーシーの光が照らされ、凍ったアンノウンはクラーケンの足に捻り潰され砕け散った。
「はい、これでおしまい」
「ん?」
「起きた?」
「ここはどこだ?」
「覚えてる? あんたアンノウンと戦って負けてここで眠らされてたんだよ」
「なんでお前がいる? ルーシーまで。いや、それより今どうなった?」
飛び起きたレーンは辺りを見回した。
「もしかしてもう終わった?」
「終わった。あんたはずっとそこでスヤスヤ寝てたわけ」
そう言ってスマホで写真を撮った画像をレーンに見せた。
「くそっ。あの蜘蛛のせいだ。で、蜘蛛は?」
「やったよ。それよりこれ、借りだから。忘れないでよね」
数日後。
オランダは復興の為に植物の死骸の後始末にみまわれた。眠りにつかされた人々は徐々に目を覚まし始め、暫くは療養、長いリハビリをすることとなる。
「肉体をずっと動かさないで寝ていたとはいえ、栄養もとらずによく生きていたわ。むしろ奇跡」
「マトリックスを思い出したね。つまり、仮想世界。でもさ、本当の世界なのか夢なのかってそれだけ私達の認識はガバガバだってことでしょ? 人間の認識なんて所詮はガバガバ♪」
「そもそも認識論の客観は主観と同じ意識で行われるからね。その意識が乗っ取られそれに気づけなくなれば誰だってそうなるわ」
「主観客観図式ってやつでしょ」
「あら、現象学もいけるくち? 意外と勉強は疎かにしてないのね」
「いや、勉強は苦手だよ。嫌いだし」
「そう」
「でもさ、結局薬物やって幻覚見て現実との境界が曖昧になるんじゃ目を覚ましても目を背けるのと変わらないんじゃない? オランダに関して言えばさ。まぁ、こんなこと言ったら私オランダで炎上かもしれないけどね」とあずさは笑いながら言った。
ダナムは呆れた顔をした。
「あんたは何度か炎上した方がいいかもね」
「ひどー。なんでそんなこと言うのかな」
「あんたみたいに直視できる奴程よく燃えるって相場が決まってるからよ」
「それ、人間が悪だからでしょ」
「それより約束の本、届いたかしら」
「ああ、届いたよ」
「世界に二冊しかない初版本よ。それ以降の本は内容に改変がされてある。元の内容はネットで探しても見つからない。知りたいのは改変前の内容」
「……」
「まぁ、それ以上は言わないわ。あなたが協力者である限り」
ダナムがそう言って立ち去ろうとした時、あずさは語り出す。
「世界が不都合として消してほとんど燃やされ現存してるのがたった二冊ってなだけ。歴史に目を背けたのは忘却した人々よ」
(そして自由から遠退いた人達よ)




