2話 浮上都市
富士山信仰に限らず信仰の裏には恐れがある。それは神によるものか、自然か死か。なんであれ恐れは襲ってくる。今の人達で今の世でいえばアンノウン。そして、人はその恐れを遠ざけたいと思っている。恐れを乗り越える為に己を鍛えるか、神に祈るか、人ならざる者となるか。今の世でいえば《超人》とか。しかし、その恐れは消えたり無くなったりすることはない。恐れはつきもの。むしろ、恐れとどう向き合い共存するかが、どう生きるかであろう。その事を多くが忘却している。
「あなたのおかげで富士山の再調査ができるようになったわ」
「もう行かないからね」
「ま、アンノウンを倒したところだし、今回の調査範囲も富士山の3000メートル辺りまでだから大丈夫よ」
「ふーん」
その後、ダナムの言う通り富士山の調査が始まり、そこで二人の身元不明の遺体が発見される。死体解剖の結果、日本人ではなく外国人であり凍死による死亡だと判明。警察は閉山中の富士山を観光客が勝手に登って途中で下山出来なくなり死亡したと判断された。自業自得といえばそれまでだし、何故そこまで危険をおかしてまで登山をしたがるのか。山を過信していたのか、それとも自分を試したかったのか。どちらにせよ、生きて帰らなければ意味がなかろう。
「なる程ねぇ。富士山信仰か」
「そ。山頂が仏の世界で修行の為に山を登る。その時は今のような観光としての登山ではなかった筈なの。時代の変化なんだろうけどむしろ昔あったものが失われた結果なんだとも思う。仏の世界から近づいてくれることは決してない。己がそこへ向かうしかないからこそ登山は自分を高めてくれる」
「でも、それは今では更に遠い高い位置になってしまったけれどね」
「仏が遠退いた。なんでだろうね。異変といえばそうだけど人のやることに見かねた仏が人間から遠退いたりして」
戦争、強欲、その他色々仏は天から見ていて、更に悪化する世の中に人から天国が遠退く要素があり過ぎて冗談のつもりでも少し本当かもと思ってしまう。
「まぁ、天国があるとしてそもそも天国に行ける人間が果たしているのかどうか」
「いるんじゃないかしら。少なくとも私は予定説を信じてるし、私はそのリストにあると信じて(自分を信じて)やるべきことをずっと果たしてきたつもりよ」
「あら中々信仰深いね」
「あなたもじゃないの?」
「私は……どうだろうね」
(神になんて本気で祈ったことないや。なんか呪術的で本気になれないんだよね)
「そういえばアメリカへ行く準備は出来たの?」
「なんでそれ訊く? まさかついて来るんじゃないでしょうね」
「ついて来るに決まってるでしょ。私の任務を忘れたの?」
「それじゃあなたはいつ休むわけ?」
「休みは合間で見つけるわ。あなたがトラブルさえ起こさなければね」
「私そんなトラブルメーカーだった?」
「あら、会議に出ないことも私にクレームが来てたの前に言わなかった?」
「そんな些細なことくらいそっちで処理して」
「してるじゃない」
「うっ……」
「そもそもなんで向こうの《超人》と会うことになってるわけ?」
「向こうが呼んだんだよ。内容は会った時に話すだって」
「もうなんか嫌な予感がするのだけれど。因みに待ち合わせはどこかしら」
「NYだよ」
「なんでよりによってそこなわけ」
NYはアメリカで起きた大異変の影響を受けた場所であり、突然浮上し始め現在も宙に浮いたままである。既に調査が入っているが原因は不明。理屈も不明。元に戻るかも不明。分かっていることの方が少ない。
NYにいた人々は大異変時、米軍によって救助され現在はNY全体が政府の管理下に置かれ関係者以外踏み入れることは出来ない。
「そういうことは事前に私に言いなさい! 管理下の立ち入り禁止区域に入るなら事前に向こうと話をつけないといけないんだから」
「だから招待されたって言ったでしょ。つまり、許可は降りたの」
「え?」
(そんな話は私のところへは来ていない。どういうこと?)
「分かったわ。それなら確認しておく。けど、例え許可が出ても私にも一言伝えなさい」
「はいはい」
(私の苦労も知らないでこの子は)
「ねぇ、NYが待ち合わせならアンノウン関連じゃないかしら」
「NYにアンノウンはいないんでしょ? いたら私じゃなくとレーンに言うでしょ。もしくは政府を通じて要請するか」
「まぁ、そうよね。なら何故NYなのよ」
「さぁ?」
眠らない街として有名なNYだが、浮上しているNYは電気が遮断され夜は暗闇の街となっている。一部、軍の発電所で電気のついてるところやライトアップはあるものの、あの輝きは失われてしまっている。因みに自由の女神も一緒に浮上している。ではNYがあった場所の下はどうなっているかというと大きな暗闇の穴がNYサイズにぽっかりあいていた。海はその穴の周囲で何かに遮られてるかのように留まり滝のように落ちていくわけではない。その穴の下も調査用ドローンを送り込んだが、穴に入った直後に通信が途絶えドローンは穴の下に落ちて回収不可能になった。穴の下に何があるかも不明。
「穴の下にミサイルでも撃ち込んだらどうなるんだろう」
あずさは米軍が手配したヘリにダナムと乗ってNYを目指していた。
「それでなにかあったらどうするのよ。そんなリスクは負えないわよ」
「えー気になるじゃん」
「バカ」
二人はそんな会話をしながらヘリからNYを見た。
「本当どうやって浮上し続けてるんだか」
「物理学がひっくり返りそうね」
「エネルギーとかね。NYの街は異変とかないわけ?」
「NYにいたネズミが二回り大きいのと謎の長いパイプを見つけたのよ。人が通れる大きさがNYの地下に張り巡らされてある」
「NYの地下に何があるのか、新たな発見じゃない? 日本も東京の下に皆が知らない政府極秘の設備があったりして」
「もし極秘なら政府が知らない筈ないでしょ。でも、誰も知らないのよ」
「ふーん」
「ドローンで全体図は判明したけどかなり迷路みたいになって入り組んでるの」
「そんなものがNYの地下になんであるのか……」
「そうなのよね……」
二人を乗せたヘリはNYの上空を飛び、簡易的ヘリポートへ降りた。NYに着くなりそこで待っていたのは政府関係者と《超人》ルーシーだった。白人背丈はあずさと変わらず小柄、ローポニーにTシャツ、ジーンズにスニーカーの格好だった。ダナムは仕事だからスーツ。あずさはルーシーよりラフな格好で半袖短パン、スニーカーサンダルを履いている。流石にビーチサンダルはダナムが止めたがそれがこの結果である。
「久しぶりだねルーシー」
「こんにちわ。元気だった?」
「まぁまぁかな。そっちは」
「まぁまぁかな」
ルーシーはクスッと笑いながらそう返事した。
「それで私をNYに呼んだ理由はなに?」
「実はこのNYで地震が最近起きるようになったの」
「は? 浮いてるのに?」
「そうなの。地震という表現が正しいのかは分からないけど、NY全体が揺れるのは確かよ」
「どうなってるの」
それはダナムも同じ気持ちだった。
「地震が起きるようになったのは今月の始めからで間隔は3日か4日に一度くらい。地震の強さは日本の基準で言うと震度4から5くらい」
「そこそこ強いね」
「地震の揺れの原因を調べてるんだけどNY地下中心地みたいなのは分かったけど、やっぱりなんで地震が起きるのかは分からないの」
「地下潜ってみた?」
「してる。パイプが通ってる以外は特にって感じ」
「そのパイプはどこに繋がってるの?」
「下水道よ」
「おやまぁ。NYの地下にはワニとか地下に住む住人がいたとか色んな話があるから、それを聞いたアメリカ人が騒ぐんじゃない?」
「まさかその住人が勝手にパイプを作ったって? かなり大掛かりよ」
ダナムは咳払いする。
「彼女の悪い冗談だから真に受けなくていいわ。それよりまだ教えてもらっていないわね。あずさを呼んだ理由を」
「多分、下水道かパイプの中に何かが潜んでいそうなの。でも、まだ特定出来なくて。今下水道には水が通っていないの。全て水で通したら」
「出てくるかもしれないってわけね。分かったやってみる」
あずさは能力を展開し水をパイプ、下水道へ一気に流し込む。それは全てのパイプや下水道に伝っていき、水で溢れるまで流し続けた。
「さて、何が出てくるやら」
あずさがそう言って暫くした後、どっかのアスファルトの道が陥没、そこから大量の水が吹き荒れた。そして、その大量の水から影のようなものが飛び出し、それはビルの物陰へと俊敏に隠れた。だが、NYのそこら中にカメラを設置し、全てをAIで監視させていたおかげでカメラはその動く影をとらえ米軍が見るタブレットから自動でアップする。
「見つけた。6時の方向」
それを無線で聞いたルーシーは「了解」と返事をし、その周辺上空から強烈な白い光を放つ。
これが彼女の能力。光に当てられたものは物凄くゆっくりになり脆くなる。直接的な攻撃性能ではないが、強力なデバッファー。これに当てられたアンノウンは人間兵器でも通用する程弱体化する。
戦闘機が光を確認しそこへミサイルを発射した。戦闘機から放たれたミサイルはその近くのビルに命中し大爆発を起こした。不気味な悲鳴が聞こえ黒い灰が宙に舞った。
「どうやら仕留めたみたいね」
あずさはそう無線で言った。
「ありがとうあずさ! あなたのおかげよ」
「どういたしまして」
「あのアンノウン結局なんだったんだろうね。見る前に爆破されて倒されちゃったから分かんないや」
「なんだっていいじゃない。倒せたならそれで。さ、早く帰るわよ」
ダナムは凝った肩を回しながらヘリへと向かった。
「なんで何もしてない奴が疲れるわけ」
「今日はありがとうね」
「いいってことよ。それよりさ聞いた? 《超人》の一人がやられた話し」
「ああ、うん……確かやられたのはロシアの人でしょ? 私、あんまりその人のこと知らないんだよね」
「私も」
「そうなんだ。ジェームズ・レーンなら知ってるかも」
「じゃ聞いといてくれる?」
「うん、分かった。でも《超人》を殺るなんてそれって」
「私達と同じ《超人》でしょうね。何の目的かは知らないけどさ」




