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超人あずさ  作者: アズ
第2章
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13話

 世界人口問題は終わりを遂げた。かつて2080年には103億人を超えるだろうと言われていた未来は訪れることなく人口は突如出現したアンノウンによって大幅に減った。例えばロシアの人口だけで1億4千万人以上。それが姿を消した。人類はアンノウンに対抗しようと各国が連携し一度も組織されたことがなかった〈国連軍〉が結成、対処に当たったが効果は核兵器のみで他の兵器は所詮人間を相手にする武器でしかなかった。それから能力を持った《超人》が人類から現れると倒せなかったアンノウンを次々撃破。それから世界は《超人》を中心に転換する。同時に〈国連軍〉が新たに動くことはなく〈連合軍〉と《超人》でアンノウンの撃破に対処が続いた。その中心国がアメリカであった。

 しかし、事はそう上手く続かなかった。《超人》あずさがアポピスに敗北しエジプト政府は止むなくエジプトを放棄、撤退する。それから一年が経過した。

 アンノウンによって突如日常が奪われ、住み慣れた土地がどんどん侵略され逃げるしかない人々は安全な地アメリカへと集中した。日本は立ち入りが出来ず、エジプト、イタリアと中国は完全にアンノウンによって人々は追いやられ、現在は立ち入り禁止区域に指定されている。

 そして、新たにフランス、オーストラリア、ブラジルにアンノウンが出現していた。





 あずさは目を覚ましベッドから起き上がると背を伸ばし軽くストレッチした。それから半袖短パン姿のまま洗面所へいき、歯磨きと洗顔を終えると服を着替え簡素なトレーニングジムみたいな部屋で本格的に体を鍛える。レッグプレスで下半身全体を鍛え、ベンチプレスで上半身を鍛える。ランニングマシンも欠かさない。体力もつけていくが別に筋肉をもりもりにしたいわけでもない。《超人》は元々一般的な人より多くのエネルギーを発揮出来るし回復力や免疫、耐性も強化されている。それでも備えておくにこしたことはない。

 トレーニングルームを出てスポーツメーカーのロゴが入った上下の服を脱ぎ洗濯籠にぶち込むとあずさはシャワーを浴びた。先程の汗が流れ落ちる。さっぱりさせると、髪をドライヤーで乾かしながら鏡を見た。人とは違う《超人》とはいえ見た目に変化が起きるわけではない。鼻は外人のように高くはない。ハーフのモデルの顔を羨ましく低い鼻をコンプレックスに愚痴をこぼしていたかつての同級生と違ってそこにコンプレックスを持たなかった。口を開くと歯並びのいい白い歯が覗いて見える。ダナムが私の歯並びの悪さに文句を言って歯科にいったからだ。耳は髪で隠れているがピアスくらいはこの歳では流石につけている。視力は良くて他の人は眼鏡かコンタクト率が高いが裸眼のまま全然いける瞳は細目ではないし外人がアジアを馬鹿にするようなツリ目というわけでもない。

 ダナムは私に毎回危険な任務に呼び出し本来恋愛してもいい年頃なのに全然青春を邪魔していることに落ち目があるようだが、学校は好きではなかったし、好きな男子が現れるとも思えない。でも、それを言うとダナムは嘘だと断言するのだ。確かにいないわけではない。例えばマッツ・ミケルセンはカッコいいし、そういうカッコいいなと思える人はいるにはいるけど、そんなことをマジになって言っても仕方がない。

「あなたは恋愛をすべきよ」

 ダナムは手に腰を当てて真正面から言ってくるが、そのダナムは現在独身だ。彼女も仕事柄機密やそもそもプライベートが限られているからあまり説得力がないんだ。

 でも、知らなかったがノルウェーの《超人》の人は彼女がいて今年結婚した。

 恋愛ねぇ……と思ってしまう。本を読む時も恋愛小説を手にとることはほぼほぼない。恋愛系の漫画を最後に読んだのだって数年前なのだ。ドラマもあまり見ない。むしろ物騒なサスペンスやアクション系が好みだ。

 だからジョン・ウィックやマッド・マックスのような映画は好みだ。

 そういう点ではキアヌ・リーブスもカッコいい。

 古い映画もよく観る。音楽も。

 そんなことを考えている自分にハッと気づき、ドライヤーを止めた。何考えてるんだと自分に言い聞かせるとインターホンが鳴った。ここは施設関係者しか入れない。となれば来訪者は決まっている。

 玄関に向かいドアを開ける。やはり待っていたのはスーツ姿のダナムだった。

「ああ……クレイジーね! でも服は着て頂戴」

 ダナムは苦笑しながら言った。

「ああ……」

「あなた少し心配になるわよ」

 あずさはクローゼットへ向かいダナムは部屋にあがる。部屋はルンバが今まさに床を掃除していて、リビングに向かうと人型ロボットが家政婦のように仕事をしていて、テーブルに今日の朝刊を置いたりポットの水を補充していた。リビングは広くソファーや一人暮らしには大き過ぎるテレビがある。どの家具も真新しい。それも当然でここに住み始めたのも家具もそれ程経っていないからだ。そんな贅沢なリビングには大きな窓があって青空が見えるのだが、その遠くには戦闘機が飛んでいた。しかし、部屋は静かだった。

「ねぇ、ちょっと外へ出ない? 美味しい店があるの。そこのオッソブーコがオススメなんだけど、どう?」

 ダナムはあずさに聞こえる声で言った。

「行くよ」

 あずさは着替え終わってリビングに現れた。それはダナムの予想通りだった。あずさは機能性や快適さを優先するタイプだ。それはアメリカ的ともいえる。ジーンズにTシャツ姿の彼女を見てから鞄は? と訊いた。

「財布は持ち歩かない。全部スマホ」

「いいわね。それじゃ行きましょ」

「うん。それよりダナムはスーツだけど仕事は?」

「今日は午後からよ」

「ふーん」

「実は相談に乗って欲しいの」

「恋愛相談?」

「違うわよ。ルーシーのことで」

「ルーシー? なにかあったの?」

「どうも私に隠し事があるみたいなのよ」

「そうなの?」

「それでまずあなたから訊いてみようと思ってね」

「そう言われても私にはさっぱり。最後に会ったのだってペデルセンの結婚式だもん。電話くらいだよそれ以降に喋ったのは」

「その時なにか変わったとか気づくことはなかった?」

「別に」

「それじゃなにを隠してるのかしら」

「サプライズとか?」

「何の?」

「誕生日とか?」

「もう過ぎました」

「ならさ、直接訊けばいいじゃん」

「訊いたわよ。でも、はぐらかされてね」

「ダナムが?」

「そうよ。そこであなたから訊いて欲しいの。私のいる前でね」

「成る程ね。まぁ訊くくらいなら構わないよ」





 あずさはエレベーターに乗り、一階へと降りた。現在、あずさがいる巨大な施設はアメリカにあり、その広大な敷地の外は色んな国の人達と技術が集結して、アンノウンに対抗する新兵器の開発や暮らしの為の工業の生産など、活気に溢れていた。それはアメリカのあちこちで見られ再びものづくりのアメリカになっていた。

 だが忘れてはならない。一度アメリカ帝国の終焉をむかえ多極化したことを。それは国際秩序を仕切る覇権、アメリカでなくなったということだが、それは安全保障より経済という米国優位の自国中心主義的傾向になったからである。

 それが再びアメリカの時代が訪れている。だが、明らかに違うのは覇権のあり方だ。かつては民主主義平和論としての、民主主義国家同士は互いに戦うことがないゆえ、平和の為に民主主義国家に転換させようとした。その為の軍事力強化というものがあって、それは拡大強化と繋がる。だが、それは実現できずむしろ現地政府や住民の反米を募らせた。

 今はアンノウンという共通の敵に連帯している。人種をこえて。





 ダナムのコルベットに乗って外に出ると、予約してある店へ向かった。

 店に入ったあとの注文はダナムにあずさは任せた。

 注文したものがくるまであずさはスマホでルーシーに電話をかけた。暫く待っていると電話が繋がった。

「ルーシー? 元気?」

「うん。どうしたの?」

「実はさルーシーに訊きたいことがあって」

「私に?」

「実はさっきダナムがうちのところに来てさ、ルーシーがなにか自分に隠し事してるんじゃないかって私に訊いてきたんだよ」

 ダナムはガクリと頬杖していた頭を落とす。

「なにそれ?」

「本当になにそれだよね。でもさ、そう言われると気になっちゃってさ。それで電話したの」

「そうなんだ。別に隠し事なんてないよ。ただ、レーンが……」

「レーン? あいつがどうかしたの?」

「なんか調子悪いみたい。でもダナムには言っちゃ駄目だよ。レーンに黙ってろって言われてるから」

「なんで?」

「調子悪いってのは体調じゃなくて能力の方で、最近不調みたい。電化製品を間違って壊したり逆に能力を出したい時にタイムラグが起きたり。レーンは直ぐに絶好調に戻るからって言ってるけど、多分世間にそれを知られたらっていう方が不安で言い出せないんだと思う」

「成る程ねぇ。でもそんなこと過去にもあったの?」

「ううん。私も今のところないんだけど」

「私も。でも、分かった。ありがとう教えてくれて」

(ごめんルーシー。もうダナムに会話聞かれてるんだ)

「それじゃあずさも気をつけてね」

「うん。それじゃ」

 そう言って電話を切った。

 ダナムは腕を組んで目を瞑っていた。

「どうするのさ?」

「考え中。でも、その状態なら暫くアンノウン相手には出せないわね」

「そりゃそうでしょ」

「問題は原因がなにか、そしてそれは元に戻るのか」

 レーンの能力は戦力として頼りになる。それが厳しいとなれば危機的状況といえた。




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