12話
シャリーフはなんとか朦朧とする意識を必死に落ちないよう自分に言い聞かせながら辺りを見回しながらあずさを探した。あちこちで横倒れし火をふく車体があったり兵器の残骸が雪の上に突き刺さっていたり、遺体や負傷者の兵士がいる中でようやく倒れ動かないあずさを見つけ出した。冷たい雪の上を這いずりながらあずさへ近づくシャリーフ。そのシャリーフも全身を打ち無事ではないが自分よりあずさの心配をした。今も鼓動が緊張を鳴らし続けている。雪がまた激しく降り始め頭が雪で白く積もる中、シャリーフは白い息を吐きながらあずさの目の前まで来ると、一度彼女の手首を触れた。脈がある、そう分かると安堵すると同時に彼女へ呼び掛けた。
「あずさ! あずさ!」
しかし、返事はなく意識を失ったままでいた。
「あずさ、起きて目を覚ましてくれ。このまま眠れば君は凍死してしまう。頼む、起きてくれ」
シャリーフの必死な呼び掛けにもあずさは反応を示さない。シャリーフはこれはまずいと直感した。あずさはかなりのダメージを受けている。たった蛙が落下しただけの衝撃波だけで自分達超人は今まさに死にかけている。そして、もろに直撃したクラーケンのアンノウンは既に散ってしまった。
(これがアンノウンの戦い……)
そのアンノウンはというと既に地上に現れており、負傷者含め動けなくなった人間達をじっと見ていた。
シャリーフも戦う気概は起きなかった。むしろ絶望に近い。
シャリーフは僅かだがこのまま見逃されることを祈るしかなかった。到底、あずさを背負って逃げ出す体力も残ってはいない。それどころか自分だけ逃げることだって残ってはいなかった。
「はぁ……はぁ……」
もし、あずさが今意識を取り戻せても戦える状態でないのは明らか。それはつまり敗北を意味していた。
(あずさ……死ぬんじゃねぇぞ)
「だ……誰か……」
吹雪は強くなっていきアポピスは再び雪の中へと消えていった。
シャリーフは限界をむかえ目を閉じそのまま意識を失った。
あれからどれくらい経過しただろうか。あずさは目を開けると病院の天井が見えた。病院だと分かるのは点滴台が見えるのと、病院独特の匂いのせいだろう。上半身を起こすとやはり病室。といっても特別病室でベッドの横では椅子に座ったまま眠りについているスーツ姿のダナムがいた。自分は患者の着る格好で流石に酸素マスクまではしていなかった。呼吸は出来ていたということ。ベッドのそばにはナースコールのボタンがあり、あと床頭台にはテレビのリモコンがあった。あずさはあの後どうなったのか知りたかった。リモコンで早速テレビをつけると早速ニュース番組が流れていた。
男性アナウンサーが原稿を読み上げながら映像はスタジオから外の映像へと変わる。その映像はエジプトではなく何故か中国北京だった。あずさはアナウンサーが何喋ってるのか分からなかったからリモコンで日本語の字幕を出した。文字は早速、巨大アンノウンレベル4が出現し甚大な被害をもたらし、現在も捜索が行われています、と出た。
「私達がエジプトで戦ってる間に中国にもアンノウンが出現していたのか!? なんでまた……」
すると、テレビの音でダナムが目を覚ましそのままあずさを見た。
「あずさ! 目覚めたのね!? いつ?」
「ついさっき。それでアポピスはどうなったの?」
「アポピスはまた吹雪の中へ消えたわ」
「シャリーフや他の皆は?」
「シャリーフは無事よ。同じ病院であなたより早く目を覚ましたわ。他の人達は負傷者は皆治療を終えている。残念だけど死者も少し出たわ」
「クラーケンもやられた。あれは私とシャリーフでは無理」
「ええ。今は自分の体を優先しなさい」
「それより北京にもアンノウンが出たんだって?」
「そうよ。でも中国はアメリカや他の国の協力の申し出を断ったの。だから直ぐに待機していた2人が向かうことは出来ず被害が拡大。現在も移動速度は遅いけど上海に向かって移動中よ。人々の避難誘導は行われているけど、中国に既にいる《超人》サランとユエだけではどうにもならないみたい」
「そっちはそっちで大変なことになってたんだ」
「今はあなたの体が大事」そう言ってダナムはリモコンをとりあげテレビを消すと、医者を呼んでくるから横になって休んでなさいと言った。
「はいはい」
ダナムはそう言って病室を出た。リモコンを持ったまま。ダナムがどじをやったなら笑える話しだが、あずさはダナムの行動に不自然さを感じていた。
「何かを隠している……」
それは私に知られたくない何か。再び病室に戻ってきたダナムは医者と看護師を連れてきた。
「ねぇダナム。私に隠してることあるでしょ?」
少し間があいてから、ダナムは複雑な表情をした。あずさは嫌な予感がした。
「なに?」
「分かったわ。教える。実はあなたがアポピスと戦ってる最中にもう一つレベル4のアンノウンが出現したの」
「同時に!? それでどこ? いやまさか……」
「日本、しかも富士山の頂上に突然出現した」
「そんな!?」
「現在、その日本に近づくことが出来ない。通信は遮断され日本を囲んでシールドみたいなのを張られていてレーンの雷をもってしてもシールドを破ることは出来ないでいるの」
「なんで黙っていたの!?」
「ごめんなさい。あなたが無理して病院を出ると思ったからよ」
「そんなの当たり前よ! こんなところにいる場合じゃない」
あずさはそう言って掛け布団をはいでベッドから降りて直ぐに倒れ込んだ。
「あずさ!」ダナムが大声をあげる。他の皆も駆けつけた。
「あずさ、無理しちゃ駄目よ。あなたは衝撃波を一番近くで受けかなり遠くまで飛ばされたんだから」
「でも……」
しかし、体は思う通りに動かなかった。
「あずささん、今は痛み止めが効いてますが、全身はまだ回復できていません。今は横になって下さい」医者はかたことの日本語でそう促した。
看護師が付き添い、あずさは再びベッドに戻った。
それから色々な検査を受けたりリハビリを受けたりしたが、それ以外は暇だった。病院食はいまいちでほとんどはベッド上での生活。それがたまらなく嫌だった。早くここから出て日本に帰りたい。そしてアンノウンを倒す。医者が言うには一般の平均的なものに比べても回復は早い方だと励ましていたが、一方で焦らないよう注意された。そんなこと言われてもというのが本音である。
そんな病院生活に同じ病院に入院していたシャリーフが病室に現れてきた。
「やぁ」
あずさも軽く挨拶を返す。勿論通訳アプリを通じて。
「シャリーフはどう?」
「ああ、順調だよ。明日には退院する」
「そうなんだ。私はまだ医者に言われていない」
「目覚めたばかりなんだろ? それなのにもうリハビリしていたんだって?」
「私の国が今アンノウンが現れてるの。そんなのんびりはしていられない」
「そうだね」
「ねぇ、あのアポピスと戦ってどう思った?」
「強かった。あと、頑丈過ぎだなって。あずさは気づいた? あいつエラがあったんだ。蛙は肺呼吸でしょ? でも、多分水中でも問題ないんじゃないかな」
「エラがあったのは気づかなかった。でもあるとしたら溺れさせて倒すのは無理ね」
「水はあのアポピスには相性悪いのかもしれない」
「むしろなんだったら通じるのか」
「大丈夫だよ。いつかは倒し方も見つかるって。今軍がアポピスとの戦闘データを分析してる」
「随分かかってるね。私が寝ていたというのに。あまり期待した情報は得られなかったのかも」
シャリーフは答えなかった。それで多分彼も思っていたと気づく。
あずさは咳払いする。
「アンノウンはやはり《超人》が集結する必要があると思う」
「それ、今も囚われの身の彼女も含まれてる?」
「あんまり使えそうにない能力だから優先度は低い」
「そっか。あずさ、あんまり無理しないで医者の言うこと聞くんだよ」
「はいはい」
あずさは適当に返事した。




