9話 影の大陸(5)
《超人》ジェニーは現在とある施設に収監されていた。窓がなく監視カメラで24時間監視されプライバシーもないような密室で囚人のような扱いを受けていた。といってもここは刑務所でも拘置所というわけでもない。監視するのは軍服を着た兵士であることからも刑務官とは違う。外部との電話や面会は禁じられ取り調べ以外にろくに会話などなかった。これも能力で逃走を避ける処置で、足には枷までつけられていた。あと、軍が入獄される前の身体検査後に体にGPSを埋め込んだからも人権を明らかに無視してきている。まだ肉体的拷問は無いが運動時間に外に出る機会さえ与えられないことからもこれは一種の精神的拷問といえた。
それでもジェニーは向こうから持ちかけられた交渉条件を断っていた。
内容は協力に応じる引き換えにここから出すというものだった。
どう考えてもそれで自由を得られるわけではなかった。場所がここから他に移るだけ。ただ、環境がグレードアップするくらい。服も囚人服のような地味なものではなく自由でかつ報酬も約束されたが連中の言いなりになるのはごめんだった。どんな命令が下されるのか分かりもしないものにほいほいと契約はしない。
向こうも焦ってはいないのか必要以上にはしつこく契約をせまることはしなかった。
ジェニーは壁にもたれ掛かり虚空をただ凝視していた。
場所変わりあずさのいるウクライナ。
ウクライナからロシアへ近いのはロストフ州。その中心部は高層ビルもあり、影にのまれる前ならばトロリーバスも走っているような場所、それ以外に事前情報を得られながらも、大異変以降どうなっているのか分からない為、異変後のロストフは皆初となる。
戦闘機による援護は出来ない為、地上部隊の編成で装甲車4台で向かう。うち、あずさとダナムは3台目に乗り込み、一列で進行する。光は影の中なら照らせる。敵は暗闇にいることからも強い光に耐性がない可能性もある為、閃光弾など強い光の武器も用意し、時間通り出発、暗闇の壁の向こう側へ踏み入れた。
潜入開始から約10分が経過。敵との接触は無し。このままモスクワへ進行。道はずっと整備されていないせいかボロボロで車内は揺れが続いた。外の様子は確認できる範囲では人の気配無し。廃虚の建物が光に当てられ見えるだけだ。
「モスクワからはさかなり距離あるよね。遠いよね?」
「そうね。1000キロ以上かしら」
「半日はかかるじゃん! もっと近場から行けなかったの?」
「モスクワに行くだけが任務ではないのよ。こっから行くルートは調査でも初めてになるの。生存者の調査も任務のうちよ」
「ダナムは生存者がいると思う?」
「ゼロとは言えないわね」
「そりゃそうだろうけど」
その後もあずさはブツブツと小言を呟いた。
それから一時間は経った。
「尻が痛い」
「まだヴォロネジすら通過していないわよ」
「うへっ」
「しっかりして頂戴」
「分かってるよ。それで、ヴォロネジってどんなところ?」
「うーん……美しい場所」
「凄いざっくりだね」
「まぁ、今はどうなってるか分からないけど、生存者がいなければ今通った場所と変わらず廃虚でしょうね」
「生存者か。その割には本気で調査しないよね。異変が起きてからだいぶ経ってるし、もっと早く出来たんじゃない?」
「無人機が使えない以上ドローンでの調査も出来ない。空からの援護もない中地上部隊を突入しても被害を増やすだけだとしてあんまり進まなかったのは事実ね」
「つまり《超人》がいなくては元々難しいと」
「そういうこと。かといって無闇に《超人》を投入して数少ない《超人》が失われるのは損失しかないわ」
「それでも向かうのはレベル4のアンノウンの想定と勝手野郎のせいってわけね」
「そうそう。あとは進んでなかった情報が得られたこと」
「その割には兵力少なくない? 戦車とかさ」
「戦車が役に立つかしら? 道もどうなってるか」
「無人の多脚戦車」
「だから通信が使えないんだって」
「ああ、そうか」
「あなたしかいないのよ。敵をやれるのは」
その頃、『白い悪魔』はモスクワにようやく踏み入れた。風の力で空を飛んできたぶん体力は消耗したが、無駄な戦闘は避けることが出来た。とはいえ……
「これは」
想定外。
モスクワに入って直ぐに見えたのは中心部の空から放たれる光芒。
「チェルノボーグと聞いて光と相反する存在かと思って見たら、まさかあの光がチェルノボーグとは。随分眩しい奴だ」
モスクワ中心部、既に姿を変え禍々しい黒城へと姿を変えたクレムリン。その空周囲は広範囲にロシアその空を夜の帷より暗く外の光を遮断。そんな空の中心、闇に放つ光現る。
アンノウン/レベル4 チェルノボーグ
そして、その真下にはおびただしい数の獣達の姿があり、それは数十万をこえる数。
戦わずとも分かる。無理だ。あれを相手に巨大な光を倒すのはあまりに無謀。
「あのロシアが負けるわけだ」




