9話 影の大陸(4)
あずさにとってウクライナは初めてとなる。そんなウクライナはかつてロシアからの侵攻を受け戦争をしていたわけだが、そのロシアがああなってからはウクライナはすっかり平和を取り戻しかつての活気を取り戻していた。一方で独立広場では今もウクライナの旗と共に祈りを捧げる者達がいた。
そんな街並みは綺麗な建物が多く、戦争での爪痕はもうほとんど復興を終えていた。その街並みを黒塗りの車で移動中のあずさ達は車内から外を眺めていた。すると、あずさはダナムに訊ねる。
「もし、あの異変がそのチェルノボーグとかいうアンノウンの仕業だとしたら私達がそれを倒すことにウクライナはどう思うのかな」
「さぁ? ウクライナだってチェルノボーグが自分達にも牙を向かないとは思っていないでしょ。絶対の安全があるわけじゃない。それに、ロシアとウクライナは確かに昔は戦争をしていたけれど、だからって人間関係まで断絶してたわけではないでしょ。ロシアに家族や友人がいたウクライナ人だっていたでしょうから」
「ふーん」
あずさ達はキーウで各国の政治家達が集い会議が行われ、現状について話し合われると、また移動を開始しロシアとの国境付近ドンバス地方まで軍の護衛を受けながら向かった。
そこはかつて戦争で被害を受けた場所であり、ルハンスク州とドネツク州をロシアが支配拡大した場所である。一般市民を殺害しておきながらロシア人はロシアが来たことで市民は歓声をあげて喜んだと思っている。そして、ロシアは当然の自衛の権利を行使したものであると考えていた。
国ごとに認識が異なることはあるし、それが共通認識として一致していないことは明らかだ。その認識論に間違ってるだの正しくないだのと述べたところで平和は訪れやしないことは歴史が示している。それは即ち人間が戦争を克服出来ないという意味でもある。人間の頭の中で戦争がある限り。
あずさは気になっていた。ロシアの侵攻はザポリッジャ州とヘルソン州まで及び、前線はルハンスク州からヘルソン州までのラインとなる。なのに、影の範囲はウクライナに都合よくルハンスク州は含まれていない。
「影の範囲が気になるんだよな」移動中に地図を見ながらあずさはそう呟いた。
「この範囲のラインが綺麗過ぎるんだよ。なんでアンノウンがわざわざそんなことをすると思う?」
「ウクライナはチェルノボーグは知らないと言っていたわね」
「信じるの?」
「ウクライナとアンノウンであるチェルノボーグと繋がりがある証拠はないわ。私も立場がある以上、憶測でものを言えたりはしないわ」
「私個人には」
「そうね。ここでの会話は漏らさないってことなら我々政府は今中国に対し警戒態勢をとっているわ。レーンは中国に備えこれから暫くは待機になるけれど」
「中国?」
「ええ。中国にアンノウンがいるのが分かった」
「へぇ。ニュースにはなってないけど」
「そのアンノウンは機械タイプで中国がどうやったかは不明だけどそれをコントロール下に置いたというの」
「はぁ?」
「だから言葉を喋るチェルノボーグが何故ロシアを狙ったのか、あなたの疑念がゼロではないわね。今、言えるのはそれくらいかしら」
「なんで中国のこと皆に……いや、中国にまだ悟られてないのか。情報が漏れたことを」
「そう。だから知らないフリをかます」
「成る程ね」
「だからロシアへの調査はあずさに頑張ってもらいたいの」
「他の《超人》は無しってこて?」
「レーンとルーシーは今は無理。モンゴルの《超人》へは依頼したけど多分来ないわね」
「モンゴルも無関係じゃないでしょ」
「どうも中国にいるみたいよ」
「中国?」
「余計なことしなければいいんだけど」
「いや、するでしょ。でなきゃわざわざ中国に行かないでしょ」
ダナムは否定できず思わず溜め息をもらした。
「それじゃ私は一人でチェルノボーグと『白い悪魔』の二つの任務同時にやらなきゃならないわけ?」
「モスクワに行けば二つは早く見つけられる」
「それは分かったけれどさ……あんまりこき使わないでよね。今の聞いただけでもう帰りたくなったよ」
「そう言わないでお願い」
「別に断ったところで日米関係に亀裂が走るわけでもないでしょ。だとしたら私がわざわざ出向く理由もないでしょ」
「本来わね。でも、あなたの貢献は信頼に直結している。世界でのあなたの評価気にしてる?」
「どうでもいい」
「英雄よ。今やあなたが依頼すれば国が動く。軍隊だって動く。あなたが動けば兵士はついていくし、危険なところへも行くわ」
「そんなのいい」
「あなたはそうでも、もうそうなっちゃったのよ。だからあなたの発言一つで政治家のクビが決まるし、予算もつくし、機密情報も必要なら手に入る」
「なんか裏社会のボスみたいじゃん私。なのにこんなに働かされるの?」
「『白い悪魔』は優先事項だけど撤退の判断はあなたに任せるわ。それでどうかしら? 報酬は欲しのがあったら言って」
「そう言われると物欲失うんだよなぁ。それより休みたいね」
「本当に欲しがらないわね。古い本のコレクションとかあなたの趣味も地味だし」
「うるさいなぁ」




