9話 影の大陸(3)
着信音にダナムは目を覚まし気怠げに起き上がってからスマホの画面を覗いて、嫌な顔になった。
(うえっ)
それは上司からだった。
「はい、ダナムです」
「《超人》あずさは?」
「一緒です」
「宜しい。休暇は終わりだ。昨日『白い悪魔』が独断でロシアに入った」
「え!? 『影の大陸』にですか」
「そうだ。同行者は1人男性のみ。その男性だけが『影の大陸』から脱出し我々に連絡がいった。同行者の男が言うに調査団の報告にあった人語を喋る怪物に遭遇し戦闘になったあと、怪物達の親玉に存在がバレて『白い悪魔』はその親玉の正体を突き止めるべく1人モスクワへ向かった。同行者の証言によれば怪物達は親玉のことをチェルノボーグと呼んでいるらしい」
「チェルノボーグ……どこかで聞いたような」
「黒い神。恐らくアンノウンだろう。人語を喋るアンノウンは今回が初めてだ。アンノウンについてなにか知ることが出来るかもしれん。アンノウンの目的や……」
「?」
「あんまり言いたくはないが共存の可能性も上は考えている。何も言うよ。ともあれ我々は急いで捜索チームをつくる。君はあずさを説得しなにがなんでも連れ出すんだ」
「少しお待ち下さい。いくらなんでも危険では。人語を喋るアンノウンというだけで嫌な予感しかしません。恐らく影を覆ったのもそのアンノウンの仕業ではありませんか? 環境や異変を引き起こすレベルは既にレベル4相当の可能性がありますよね?」
「レベル4である可能性は否定しない。だが、既に『白い悪魔』が向かってしまった。《超人》にこれ以上の欠員は困るのだよ。それにこれは決定事項だ」
「……分かりました」
「宜しい」
それで電話が切れた。ダナムは溜め息を漏らした。
これからどうあずさに説得しようものか頭を悩ませながら寝っ転がった。
しかし、なんでまた『白い悪魔』がロシアなんかに向かったのか。
(情報は得られたけれど本当に勝手なんだから!)
ダナムは起き上がりまずは浴衣からスーツへと着替える。それから化粧をしまだ寝ているあずさの部屋へ向かい襖を開けた。
やはり彼女は寝ていた。
「あずさ、悪いけど起きてくれる?」
「んん?」
あずさは目を擦りながら布団から起き上がると、まだ眠そうな目でダナムを見た。
「すっごい嫌な予感」
「予感じゃないわ。任務よ」
「嫌! レベル3のアンノウン倒してからまだ日が経ってないじゃん! どんだけ働かせる気?」
「昨日『白い悪魔』が勝手にロシアに向かったの。そこで人語を喋るアンノウンと思われる親玉がいることが分かったわ」
「人語を?」
「ええ。アンノウンと対話が出来るかもしれない。それとこれ以上《超人》に欠員が出るわけにもいかないから私達が向かうことになった。というわけだから早く着替えて頂戴。あんまり時間はないわよ」
「ちょっと待てよ。私行くだなんて一言も言ってないんだけど」
「頼ってばかりなのは分かっている。それでもあなたを連れてこなきゃならないの」
「随分勝手だね」
「そうね。大人は勝手だわ。ごめんね」
「それでも私に行けと言うんだね」
「ええ。それが私の仕事だから」
「出来なかったらクビ?」
「さぁ? 他の人に代わるだけよ」
すると、あずさは溜め息を漏らした。
あずさは嫌々ながら浴衣を脱ぎ捨て着替え始める。
「もし私が条件であなたの上司も一緒にロシアに行くなら行ってもいいと言ったら?」
「そしたら上司も連れてくわよ。それこそ軍を使ってでもね。やろうか?」
「いや、いい」
半分冗談だし試そうとしたがそんな自分に嫌気が差した。
着替えが終わり支度も終えると足早に部屋を出てチェックアウトを済ませると迎えの車がやってきた。アメリカ人のスーツ姿の白人男性。後部座席に2人が乗り込むと車はスピードをあげた。
「直接ロシアに向かうの?」
あずさの問いに運転の男が答える。
「いや、一度ウクライナに向かう。ロシアへはそこで待機している米軍とウクライナ兵と合流し、彼らが君達と同行する。言っとくがあれは夜の帳が下りているのとは違って本当に暗い。外と内との連絡も遮断するから一度中に入ったら此方は確認がとれなくなる」
「分かった。それじゃチェルノボーグについて何か分かったことを教えて」
運転手はミラーであずさを一瞥した。
「いや、名前だけだ」
「チェルノボーグってさ相手を罵倒する際にチェルノボーグに殺されてしまえ、なんて言葉があるんでしょ。そういえばウクライナとロシアはかつて戦争をしていたけれど、ロシアがああなってからウクライナは平和になって復興も進んだ。随分と出来すぎた話しだと思うけどね。まるで呪いが成就されたみたいに」
「私には分からないな」
「そう」
あずさはそう返事をしたあと窓の外の景色を眺めた。
それから空港へ向かい飛行機に乗ってウクライナへと私達は向かった。
到着するなり出迎えたのは政府と兵士達だった。
それはあずさにとっていつものこと、いつもの光景になっていた。




