9話 影の大陸(2)
とあるパーティ会場。その螺旋の階段から降りてきたのは光沢ある黒髪をなびかせ妖艶な美貌で女まで虜にする《超人》ユエだった。豪奢なドレスに高価な宝石を身に着け、普段の白衣姿とは一変金持ちの美女に見える。
というよりこのパーティ会場に来れるのは成り金みたいなキラキラした人達ばかり。そしてユエはその人達に人気があった。彼女が認めさえすれば新しい体が手に入るからだ。
「ユエ様! どうか私をお救い下さい!」
1人の老人が近づいてきた。ボディガードがそれを止めるが老人は必死だった。
「私は医者から末期癌と宣告され余命も僅か。このままだと私は死んでしまう! どれだけ財を築き、街や国に貢献して福祉施設にも支援をしてきても神は私をお救いにならない。いや、あなたこそが神だ!」
(愚かな年寄り。善をなして救いを求めるなんて神への交渉、黒魔術そのものだということが分からないのかしら。神があなたの声に耳を貸すかどうかはあなたが決めることではないでしょ。ましてや私を神扱いとは)
「ご老人、私は神などではありませんしこの力は神より授かりしものだとも思いません。この力は私のもの。私がどう使うかは神とは無縁。当然、あなたが善であろうと悪であろうと人はそもそもどちらかに偏っているわけではないでしょう」
「そ、それでは私はどうしたらいいのでしょうか? 金ならあります」
ユエは呆れた顔をした。
「そもそも私はあなたには興味がありません。分かります? 金、宝石なら私も持ってます。乞食みたいな物乞いを私がするとでも?」
「い、いえ滅相も」話し途中ユエは遮る。
「私は私が興味がある人だけ私の能力を使う。だから、警備員。連れ出して頂戴」
「まっ、待ってくれ!」
しかし、警備員は老人の言葉を無視して連れ出す。老人は最後まで暴れ抵抗していたが、屈強なボディガードにはかなわなかった。
ユエは邪魔虫が消えてせいせいした直後、背後に寒気がした。
「私の背後をとるなんて死にたいの?」
突然、何もない空間からモヤが現れそこから姿を現したのは外套を身に纏った30過ぎ茶髪の女性モンゴル《超人》サランだった。刃先を首の付け根に当てたまま「相変わらず会議には出ずくだらないことしてるのね」と挑発しだした。
「そういうあなたはアンノウンにやられ怪我をしたんじゃなくて?」
「ええ。不意をとるのは簡単でも技が跳ね返されるとは思っていなかった。これは私の油断」
「それで死ななくてよかったわね」
(なんでこいつがこんな場所に現れるのよ)
ユエは情報で事前にサランの能力は知っていた。サランの能力は自身の姿を消し、その間身に起きる音すら消してしまう能力。隠密みたいな能力でユエにとって危険人物リストの上位に位置していた。
「何しに来た。あなたも体が欲しくなったとか?」
「何故中国に現れたアンノウンを放置しているの?」
「ああ、あれのこと? 何が問題なわけ?」
「本気で言ってるの?」
「だからなに? 当局がアンノウンを従えたなら、それはあずさやレーンがアンノウンをペットにしているのと変わりがないじゃない」
「機械タイプのアンノウンなのよ」
「利用出来るものは利用する。でもとかもしも話はどうでもいい。それよりいいの? 《超人》が事前の通告も無しにこの国に来たらまずいことになるくらい分からない?」
「問題ないわ。私の能力じゃ当局は捕らえられないもの」
「あっそ。それよりさ、いつまで刃物突きつけてくるつもり?」
「あなたには協力してもらうわよ。当然機械タイプのアンノウン絡みよ」
「どうして私があんたに協力しなきゃならないわけさ」
「あら、当局が機械アンノウンで《超人》あずさの命を狙っていることくらいこっちは突き止めてるのよ」
「あれはあいつが中国と台湾の問題に首をつっこんだからでしょうが。それで当局に目をつけられたのは自業自得でしょ。私には関係ない話しよ」
「沈黙するってことは同じ穴の狢って言われるの知らなかった?」
「私に当局を裏切れとでも言うつもり」
「あら、そう言ってるのが分からなかった?」
「どうしてあの女を庇うのよ。別にあなたと日本の《超人》と仲なんてそこまで親しくなかったでしょ」
「《超人》あずさはアンノウンの討伐では私達より遥か格上。ずっと頂点よ。それがいなくなればどうなるか。もし、レベル4のアンノウンに動きがあった時、当局のアンノウンではどうにもならないわ。あなたの能力でも私のもよ。つまり、あずさは必須」
「あら意外。あなたがそこまで言うなんて」
「事実よ」
その頃、北海道にいるあずさとダナムはダナムの奢りで海鮮を食べ、何故かその流れで旅館に宿泊することとなった。
浴衣姿になったダナム達が出迎えた部屋には既に酒肴が整っていた。2人が席につくとあずさはダナムに訊ねる。
「それで、ダナムは仕事しないでここにいていいわけ?」
「あら、私にだって休暇くらいはあるわよ」
「休暇なんだ」
「仕事は他の人達がやってくれるわ。今はそうね、私の同僚がエジプトに向かって異変の調査をすることになってるわね」
「エジプトって雪が降る異常気象のあれ?」
「そう。まぁ、前回も調査してるけどなにもつかめなかったしどうだろうね」
「ふーん」
今、エジプトは砂漠のかわりに雪が積もっている。
「雪は積もっていく一方だし砂より大変だね」
「そうね。世の中どうしてバランスよくならないのかしら」
「なんかさ、地球が環境を変えて新たな生命体アンノウンを迎え入れてたりしてね。お前達人間は地球を汚すことしかしないからくたばって全員アンノウンの餌にされてさ、それでアンノウンの星になるんだよ」
「アンノウンはどこからやってくるのよ」
「宇宙からじゃないんでしょ。なら地球しかないじゃん」
「ゴジラか」
「近いよね。大怪獣の時代がやってくる」
「冗談じゃないよ。そう簡単に人間くたばってやるかって話しよ」
「てか、もう飲んでるよ」
「でも、あなたが前に言ってたアンノウンの目的、私達人類を抹殺する使徒的じゃない気がするっていうのと繋がってくるわね。レベル4は完全に縄張りが住処になってるし」
「あり得なくはないでしょ?」
「それはそれで困った話しよ」
時同じくして場所はロシア。『白い悪魔』ともう一人の男はスモレンスクにいて、そこからモスクワへと向かっている途中、獣達の城を見つけそれを破壊、そこにいた怪物一体を生け捕りにし情報を聞き出していた。
「それでモスクワにお前達の親玉がいるんだな」
「ああ……そうだ」
聞き出す為に死なない程度に拷問を受けた怪物はあちこち体から血を流していた。
「そいつに名前はあるのか」
「『夜の王』と呼んでいる」
「チェルノボーグ? 黒い神の名だろそれは。確かスラヴ神話だったか? お前達は人間の言葉を喋るだけじゃなく人間の知識も持っているようだが、どこでそれを知ったんだ」
「俺達はチェルノボーグから生まれた。その時点で俺達はチェルノボーグから知識が与えられる」
「それはどんな奴だ」
「行けば分かる」
「つまりデカいんだな」
「そうだ。そして、お前達人間はあの方にやられるだけだ」
「俺でもか?」
「そうだ。どの人間だろうとあの方を倒すことは出来ない。ここにいた連中もそうだ。ロシアが真っ黒に覆われた時連中はあの方に核兵器を使用したが、あの方はそのエネルギーを捕食した」
「となるとモスクワは汚染されてるのか」
「街は無事だ。残さずあの方はたいらげた」
「それじゃロシア人はどうした? ここにもいた筈だ」
「抵抗する者は全員殺し食った。降伏した者はチェルノボーグのいるモスクワに集められた」
「それじゃ訊くがお前達の目的はなんだ?」
「俺達は俺達の住処をつくる。人間は不要」
「侵略者か」
「違う。もう既にチェルノボーグのもの。人間負けて降伏した」
「そうかよ。ならそのチェルノボーグについてもう少し聞かせてもらおうか」
その時怪物はニヤリとした後、突然声質が変化しより低い声になった。
「モスクワに来い。そこで待っているぞ」
直後、怪物は口から大量の血を吐き出し、そのまま絶命した。
「今のは……」
「親玉に気づかれた」
「どうしますか!?」
「招待されたんじゃ行くしかないな」
「本気ですか?」
「お前は引き返せ。今の情報を他に伝えるんだ」
『白い悪魔』はそう言うと1人でモスクワへと向かいだした。




