9話 影の大陸
『白い悪魔』ともう一人の男は暗視装置を身に着け暗闇の中を進んだ。最初は森の中だった。電波は通っておらずネットは使えない。
「ロシアという国がこうして消える前人口は約1億4千万人いた。それが大異変が起きてからロシア人がどこへ消えたのか分かっていない」
「まだ『影の大陸』のどこかで生存しているという説があるようですが」
「それなら君は生存者がどれくらいいると思う? 半分? 四分の一?」
「ゼロではないと思ってます」
「随分と少ない数だな」苦笑しながら『白い悪魔』は言った。
現在、かつてロシアだった『影の大陸』に接している国で通過出来るルートは北欧の調査団が使ったフィンランドからと、カザフスタンにベラルーシのルート。《超人》がいるモンゴルは『影の大陸』を恐れ巨大な壁2枚を建造しており通過は不可能。ウクライナも『影の大陸』を恐れ常に見張りが立っている。
2人はベラルーシから『影の大陸』へ侵入し、とりあえずそこからモスクワだった場所まで向かう。あの調査団もサンクトペテルブルクからモスクワを目指そうとしていたらしい。
モスクワといえば赤の広場、モスクワ・シティとかが有名になるだろう。
ベラルーシからモスクワまでかつては列車が通っていた。だが、勿論現在は使われていない。
歩くなると相当な距離になる。休める場所を途中で見つけ休むしかないが2人の内1人は《超人》そしてもう1人は元軍人で一般人の平均より体力がある。それよりこの『影の大陸』にいったいなにがあるのかが問題であった。男は拳銃と手榴弾を装備してある。《超人》の彼は問題ないだろうが。
「少し寒いですね」
「そう?」
「今夏ですよ。いくら元はロシアと言っても」
「なら異変のせいかもね。それよりランタはさロシアについてどれくらい知ってる?」
「大国、寒い、ボルシチ、ピロシキ」
「途中から食べ物になったよ」
「自分はあんまりです」
「そうか。それじゃもうすぐ森を抜けそうだけど、その先にある建物とか知らないよね」
「街ですか?」
「いや……巨大な城が見える」
「はい?」
その頃あずさはドイツから日本へ帰国し複数ある別荘のうち北海道へと来ていた。そして何故かダナムもついてきた。
「なんでついて来たのよ。当分アンノウンは相手にしないから」
「それは分かったわ。ただ、北海道はロシアと近いから」
「ああ……『影の大陸』だっけ? 調査団が向かったけど結構やられたんでしょ? アンノウンでもいたの?」
「喋る人型の化け物よ。クマが二本脚で立って喋ってるって言ったら分かる?」
「うん」
「まぁ、実際は色んな獣の人型なんだけど。それに見つかって必死に逃げてきたのよ」
「それでロシア人はいたわけ?」
「調査中は残念ながら見つからなかったと聞いているわ」
「なら、ほぼ生存者の可能性はなくなったんじゃない?」
「周辺国は早い対応を国連に求めているわ。日本もその一つよ」
「でも、北海道は平和だね」
あずさの言う通り、札幌は日常に普通に人々は暮らしていた。
「そりゃいざとなれば日本には《超人》がいるからでしょ。頼りにしてるわよ」
「しなくていい。でもさ、ロシアはあのままなんだよね」
「そうね。むしろ中がどうなっているのかが分からないのは厄介な問題よ。報告では獣は群れをなして人間のような街をつくっていて、まるでそこに住んでいるかのようだったって」
「だとしたらそれを束ねるリーダーがいる筈だよ」
「恐らくね。そんなのが襲ってきたらとんでもないことよ」
「アンノウンに比べたらたいしたことないでしょ?」
「そう?」
「それより話しかわるけど韓国でとらえたジェニーだっけ? あいつあの後どうなったの」
「完全沈黙。ご飯は食べるみたい」
「そう」
(ドイツの超人が死んで10人いた超人が9人。うちジェニーはとらわれ中。となると8人と考えるべきだけど、協力的じゃない奴が結構いるから、もしレベル4のアンノウンと戦うことになったらこれ以上超人が減るのはまずい。そもそも最近新たな超人が現れてこないけどなにか理由でもあるのか……)
超人が現れるきっかけが分からない以上現れてくれるのを待つしかない。
「そういえばお腹空いたわね」
「いや食べに行けばいいじゃん」
「何言ってるの。あなたも行くのよ」
「は?」
「私海鮮丼がいい」
「ダナムの奢りな」
「ええ。そのつもりよ。もうタクシーも呼んであるから」
「準備いいな」
あずさ達がタクシーに乗り込み移動する中、ロシアにいる『白い悪魔』はまさにその人語を喋る獣と戦っていた。
「こりゃ驚いた。獣の城だったとは」
空を浮遊しながら獣達を見下ろした。獣達は槍や弓を持って投げたが、それは突風によって弾かれた。
「見よ! これが超人の持つ力だ。《輪廻魔界》!」
城をのみ込む巨大な竜巻が全てを吸い上げ風の細かい刃によって斬り裂かれる。城は無残に粉々に破壊され跡形もなくなってしまった。
「ハハハハハ」高笑いする『白い悪魔』の目を盗み走って逃げる一体の鬼のような面に悪魔のような角を持った獣がいた。
「無論、一体だけ生き残ったのは運なんかじゃなく情報を聞き出す為なんだけどね。《風印》!」
風が吹き、生き残った一体を風が囲んだ。それはまるで風の檻。
それを遠くから見ていたのはランタだった。
「流石というかいつ見ても《超人》の持つ力は凄い」
『白い悪魔』は捕らえた一体に近づいた。
「さぁ、聞かせてもらうよ。お前達の目的を」




