8話 憂いない
Sans Souci 憂いのないと刻まれたそのそばには彫刻があるその宮殿はサンスーシ宮殿。柱はコリント様式。外は段々になっているのが特徴で、いつもなら色んな国籍の観光客の姿が見えるのだが、既に警報によって誰一人としていなかった。そんな宮殿の上空を巨大な影が太陽を阻む。それは大型アンノウンだった。
「アンノウンはポツダムから動いていないわ」
「ねぇ、ドイツはさカント、ヘーゲル、ニーチェ、ハイデガー色んな哲学がいたけどさ、それからのドイツはパッとしないよね」
「ハイデガーはナチ党員だったでしょ」
「途中でおかしいと疑問はあったけど確かに歴史は消えないわね。そのせいでってのもある。あと黒ノートもだけど。言葉は歴史と同じく取り消せないからね」
「なら哲学は今どこになるのかしら?」
「アメリカとか?」
「そうなの?それより私の話聞いてた?」
「ポツダムから動いていないんでしょ?」
「そうよ。それで、ドイツがどうだって? まぁあの国は経済も厳しかったでしょ」
「経済はどこもだよ。アンノウンの出現、ロシアがなくなりエネルギー危機、あと色々」
「それでもよく人間はやってるわよ」
あずさは鼻で笑った。
「なにそれ」
「だからドイツは強いドイツを取り戻そうとしたんでしょ。そもそも《超人》が国のトップになろうもんならそれはロクなことにはならない」
「そりゃそう。憂いのない世の中を強さで補おうとしても駄目。だからドイツは間違えたし孤立した」
あずさ達を乗せたジェット機はライプツィヒ空港に着陸した。そこからポツダムまで車なら約1時間半で到着する。
空港には既にドイツ兵と政府が待機していた。
「お待ちしておりました。これから作戦本部へと我々がご案内します。《超人》ペデルセン様はあとから合流となります」
「それよりアンノウンの状況を教えてくれる?」とダナムは訊いた。
「はい、アンノウンは現在サンスーシ宮殿そばで着地してから動いておりません」
「分かったわ」
「それではこちらへ」
作戦本部に場所を移し到着してから一時間後にペデルセンが作戦本部に到着し作戦会議がその後に行われた。といっても《超人》が最前線に出てアンノウンを退治、軍は私達2人を援護するという基本にかわりはない。仕方ないとはいえ、本当に人間兵器が通用しないアンノウン相手ではたいした頼りにもならない。
(私はいつからデリバリースーパーマンになっちゃったのかな。他の連中ももっと働けよ)
その頃『白い悪魔』ともう一人の男はロシア国境付近にようやく辿り着いていた。
「本当にこの先は真っ暗闇なんだね」
「本当に行くんですか?」
「別に君はここに残っていてもいいんだよ? それよりまるで壁だな」
目の前には真っ黒な壁が国境沿いにたっているようにしか見えなかった。
「本当に先が見えない。どういう理屈なんだろうね」
「さぁ? 私にはさっぱり」
「僕は行くけど君はどうする?」
「勿論ついていきます」
「そう」
『白い悪魔』は短く返事をすると、手を伸ばした。黒い壁に指先が触れそれは貫いた。
「うん、行けるね」
『白い悪魔』は一歩踏み出し壁をすり抜けた。それを見て男も踏み出した。
こうして2人は『影の大陸』へと踏み入れたのだった。
場所変わってポツダム。
今回のアンノウン(レベル3/飛行)を相手に共闘することになったペデルセンは青年で大柄でくせ毛のあるブロンドヘア、瞳の色は綺麗な緑をしている。そんな彼の《超人》としての能力は植物操作。小さな種から急成長させ巨大な木を生み出す。それだけでなく既にある植物を操作したりできる。そんな彼の得意な戦闘方法は鳥なのか猫なのか分からないアンノウンが口を開いた時に種をぶち込み、体内から植物を急成長させ体を内部から貫くというもの。それならばとあずさはクラーケンアンノウンを出現させ、標的をとらえた鳥が口を開く。その時、口の中に種が仕込まれた特注の弾丸を発射。弾丸だけでは傷を与えることすら出来ないが、見計らうようにペデルセンは能力で体内に侵入した種を急成長させた。
異変に気づいたアンノウンは動きを止め、悶え苦しみ始めた。それから時間もかからずに喉の辺りから木が貫きながら飛び出し、吸血鬼のように血を栄養として吸い取った植物はどんどん巨木へと成長しだし頭は砕け、頭と胴を失った無残な身体は灰となって散り始めた。
「なんか私いた? これならレベル1だったんじゃない?」
そう思った直後、巨木がミシミシと音を立て始めた。
「え、あれが本体じゃなかったの?」
巨木は色を変えて不気味な紫色へと変色しだす。するとペデルセンは急に「駄目だ」と言い出した。
「なに?」
あずさとペデルセンは通信で互いに会話が離れていても可能だった。
「植物が操れなくなっていく」
「どういうことなの?」
「もしかすると俺達は勘違いをしていたかもしれない。あの鳥みたいなアンノウンじゃなく本体はもっと小さい寄生するタイプのアンノウンだ」
「はぁ!? それじゃあのアンノウンは別の寄生タイプのアンノウンに乗っ取られてたってこと!?」
「恐らくは。そしてたった今、俺の支配から完全に途切れた」
「今、それじゃあの巨木だよね」
「だけど根を張ってるからそこから土にまで侵食しだしたら取り返しがつかなくなる」
「なら、その前に大地を凍らせて寄生ごと殺す!」
あずさはペットのクラーケンアンノウン、現在は氷狼の能力〈氷属性〉を身に着けた足で地面を深く突き刺すと、一瞬で氷の大地をつくった。あの巨木ごと。
「これでどうだ」
あずさが言った間もなくして、巨木から不気味な悲鳴が轟くと、巨木は粉々に砕け、辺りは沈黙に静まり返った。
「やったみたいね。今回はちょっと厄介そうだったけどなんとかなったか」
するとイヤホンからダナムの声が届いた。「お疲れ様。念の為この辺り一帯は暫く調査が行われることになるわ」
「了解。それじゃ引き上げるよ」




