7話
ここは中国、上海。今や中国の道を走る車の約8割以上が自動運転である。 (中国当局によると)そんな進化が止まらない中国で太ったピチピチの黒のTシャツに半ズボン、ビーチサンダルの男がいた。そいつは屋台ある豚まんと、炒飯を買うと店が立ち並ぶ通りにある『転生院』という看板が掲げてある店へと入った。病院みたいな待合室と受け付けのある部屋を通り過ぎて奥に向かうと手術台のある部屋へ繋がっており、そこに白衣を着た30歳くらいの女が椅子に座って男の帰りを待っていた。
「遅い」
そう言って手を伸ばした。袋を渡すとそこから豚まんを取り出し大きな口でがぶり。細い体に妖艶な女はここで患者をいじっている。だがこの女、医師というわけではない。女が施すのは患者が今の肉体を捨て生まれ変わる転生術。つまりこの女《超人》の能力を使って金を稼いでいたのだ。
「ユエさん、ドイツの《超人》の野郎アンノウンにやられ死んだようです」
「首相だろ? なんだあいつくたばったのか」
「先程首都で。ドイツはアンノウンに荒らされ壊滅寸前のようで」
「どうせアメリカが出るだろ。ついでに芋づる式で日本や他の国も続くでしょ」
「それがアメリカは出ないみたいですよ」
「ほぉ。しかしヨーロッパはそうもいかないんじゃないのか」
「ヨーロッパはあいつが首相になってから外交は滅茶苦茶だったじゃないですか。まぁ、でもドイツを見捨てたりはしないでしょうが」
「イタリアは被害にあったばかりだったか。足並みは最悪か」
「まぁそんなところです。それにドイツの《大異変》もありますし」
「ドイツには不可思議に不幸が起きる。ドイツに関わるとその国も不幸となる、か」
「噂ですけどね」
「まぁ、私にはどうでもいいことだけどね」
そう言いながら豚まんを食べ終えてしまった。
「しかしチェンよ、なんで私にその話しをする?」
「まぁそのドイツからあなたに依頼が来てるんですよ」
「ふーん」
「ドイツはあなたの能力で《人ならざる進化》兵を生み出しアンノウンからドイツを取り出したいんだそうで」
「勿論答えはNO」
「まぁ分かってましたが念の為知らせただけですよ」
「私が今欲しいのは金じゃない。見所のある患者だよ。あんたも死にたくなったらいつでも手術してやるよ」
「まだ遠慮しておきます」
チェンが断るとユエは笑った。
元々、ドイツで起きる負の歴史についての意識が薄れていた。そこにはいつまでも過去にとらわれたくないという意識が増えていったからだ。それは政治にも現れていた。それを利用したのがドイツの《超人》である。未来をつくる者として政界入りした彼は早い段階で重要なポスト、それから首相へと登りつめた。
日本は早い段階に安倍が謝罪の連鎖に終止符(子孫に謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない)をとろうとした。
そこにあったのは未来志向であるわけだが、それはドイツにもそれが起きていた。
ただ、それは歴史認識の継承を止めるという話ではない。ないのだが、その継承が薄れていた。
そんな中での《超人》の首相誕生であるわけだが、当然として超人としての能力があったわけで、《超人》を担ぎ上げた者は権力を持ち、《超人》は1人の王様状態という歪を生み出した。
ドイツの首相は他国のヨーロッパにドイツへの貢献を求めていた。《超人》の力を借りたいならという理由。しかしそれは同盟としてではない。
ドイツが孤立するのは早かったし誰もがそう予見できた。
それでも《超人》がやられドイツに被害が出れば他国は軍を派遣せねばならない。それが例え人間の兵器では通用しないアンノウンという敵であっても。
「というわけだから悪いけどドイツに出現したアンノウンを退治してくれる?」
ダナムはあずさにそう頼んだ。
「本当に簡単に言ってくれるよ」
「信用してるからよ」
(本当軽い人だ)
ダナムが用意したプライベートジェットに乗り込み、ドイツにつくまであずさは寛いでいた。目の前には機内食とは思えないステーキが出て、読んでいた本を閉じ、それを食べ始めた。
「その本面白い?」
「感興もそそらない」
「あっそ」
「そういえば今回の作戦他誰が来るわけ?」
「ノルウェーから」
「へぇー意外。初めて一緒になるかも。アメリカは?」
「米軍は出動するわよ」
「2人は動かないのね」
「ドイツの《超人》がやられ警戒してるのよ上は」
「レベル4?」
「そうしょっちゅう出てもらっても困るわ。一様レベル3って話よ」
「それで私達2人にやらせよってこと?ちょっとブラック過ぎない?」
「勿論、最悪核兵器を使用するわ」
「え、ドイツは」
「それは交渉中よ」
「それで、今回のアンノウンはどんな奴なの?」
ダナムはタブレットに画像を出してからそれをあずさに渡してきた。受け取ったあずさが見ると、ドイツの首都を破壊して回る大型アンノウンの姿が写っている。
「こいつは突然空から降ってきたそうよ」
それはコウモリの耳をした猫のような頭に胴体は巨大な鳥という異形な怪物だった。
「飛ぶの?」
あずさは翼を見てそう訊いた。
「えぇ飛ぶわよ。飛ぶ系のアンノウンはレーンが捕らえたサンダーバード以来かしら」
「飛ぶ系か……」
「今アンノウンは首都を破壊して回った後移動を開始、ポツダムへ向かったわ」
「ベルリンから近いね。全部破壊して回るつもり?」
「さぁ」
「アンノウンってさエヴァの使徒的なものなのかと考えたりもしたけどさ、やっぱ違う感じがするんだよね」
「人類を滅ぼす系?」
「レベル4のアンノウンは縄張りみたいになんかあまり動かないしさ、アンノウンの目的ってなんなんだろうね」
「確かに……」
その頃『白い悪魔』と呼ばれる《超人》ともう一人の男は険阻な道をなんなく歩いていた。こういった道でも2人は慣れた足取りだった。
ロシアまでのまともな道はだいたい国連や軍が管理していて立ち入りが禁じられている。2人が歩く道は監視のほとんど緩い場所。まぁ、見つかっても《超人》ならどうとでもなるのだが。
「『影の大陸』で何を見るんです?」
「怪物の群れがあるならそれを束ねる王がいる筈だ」
「まさか」
「王を倒せば新たな王が生まれる」
「悪魔の次は影の王ですか」
「影の大王だよ」
「そのまま魔王と呼ばれるようになるんじゃないですか」
男は冗談のつもりで言ったのだが《超人》は面白いねと思わぬ答えが返ってきた。
「悪魔から魔王へねぇ。ならなってやろう魔王へ!」
言わなきゃよかったと男は後悔した。




