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ロドニア再建記 4 お転婆姫と事務長官(専属騎士)  作者: AKIRA


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7 「全滅」という名の門出 3

 焚き火の爆ぜる音が、重苦しい沈黙の中で響く。

モランが語るのは「全滅」というシナリオ。それは単なる逃走計画ではなく、過去を葬り、新しい亡霊として生まれ変わるための儀式だった。


モランは手にした枯れ枝で、足元の灰を無造作に払った。そこに現れたのは、国境付近の険しい地形図だ。


「……さて、諸君、今から私たちの『死に際』の打ち合わせをしましょうか」


モランの声は、夜の冷気を含んで低く響く。


国境付近の深い森は、今や巨大な儀式の場のようだった。見渡す限り、闇の底に百を超える焚き火が点在している。一つ一つの火を囲むのは、かつて「過去に四本爪を誇った兵たち」「アルベール養成所の仲間たち」「ロドニア輜重部隊たち」「ロドニア辺境警備隊たち」の面々だ。五十人ほどで一つの焚き火を囲んでいた。

中央の焚き火、そこには、モラン、バザル、エドワード、ユージン、アルベール、エレナ、ガストンと各部署のリーダー的存在がいる。


「……始めましょうか」


モランが低く告げると、まず中央の五十人がその言葉を飲み込んだ。

モランが語る「全滅作戦」。それは静かに、しかし確実な熱量をもって、隣の焚き火、さらにその奥の焚き火へと、伝令たちの口を通じて波紋(リレー)のように広がっていく。


「……我々は明日、死ぬ」

「……土砂の下で全滅するのだ」


その言葉が森の奥へと伝わるたび、あちこちで爆ぜていた焚き火の音が、兵達の「静寂」に飲み込まれていく。四千五百程の人間が、一斉に息を呑み、拳を握りしめる気配が、湿った夜の空気を震わせた。


ユージンは、髪をかき上げ、遠くの火影を見つめた。百の焚き火は、まるで地に落ちた百の(アステリオン)だ。


「……バザル、聞こえますか」


ユージンが呟く。

中央から広がった「全滅」の通達が、森の端まで届いたその瞬間。

四千五百人が、示し合わせた訳でもなく、一斉に立ち上がったのだ。

ガシャン、と錆びた鎧が鳴る音が、重なり合って地鳴りのような轟音となる。百の焚き火に照らされたその影が巨大な一つの壁となってユージンを包囲した。


「……全員、伝わったようですね」


ユージンの声は小さかったが、不思議と四千五百の耳に届くような静かな覇気があった。


「明日、みなさんの名前は名簿(リスト)から消えます。……ですが、ご安心ください。新しく書き上げる帳簿には、貴方たち全員の席を用意します……誰一人漏らさずに」


焚き火の明かりが、兵達の頬を伝う涙を照らし出す。

沢山の人々が、それぞれの焚き火の前で音もなく、しかし深い忠誠を込めて、一斉に胸に拳を叩きつけた。


「さあ、お預けだった酒を出そう。我々の新しい門出だ」


ガストンは馬車から酒樽を出してきた。安物の蒸留酒だが、兵士たちの士気は上がる。

その夜、森を揺らしたのは風の音ではない。

一度死に、若き王に拾われた四千五百もの亡霊たちが上げる「沈黙の咆哮」だった。


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