6 「全滅」という名の門出 2
あちこちの沢山の焚き火の周りで、エレナとアルベール邸の使用人たちが養成所の学生たちと共に温かいスープを配って回っている。旧ロドニア残党兵、通称「ハイエナ」たちは、生き残るためにこの僻地に『ガルディアの盾』として捨てられていたようなものだ。モランが提案した輜重部隊を連れてきたのは大正解であった。
「……これからしばらくの間は忙しくなるんだから、今のうちにしっかり食べておきなさい」
エレナの穏やかな声に、オーギュスト王からも「お荷物」扱いされていた辺境警備隊、輜重部隊の面々も、付き物が落ちたような顔で頷いた。
彼らにとって自分たちを単なる「数」ではなく「人間」として扱い、居場所を作ったのはロドニア王家ではない。中心に座る『若き事務官』なのだ。
「……それにしても、エドワード様……ガルディアに帰らなくてもよかったんですか?」
ユージンが、同じ焚き火の端で座っているガルディアのエドワードに視線を向けながら困惑していた。
バザルたちは真っ先に、エドワード王子を積年の恨みとして処刑しようとするのをユージンが止めたのだ。
ゼノスなら迷わず真っ先に首を落としていたであろう。
「……僕はね、父が恥ずかしいよ」
エドワードは、焚き火の向こうで談笑するバザルや旧ロドニア残党兵達に視線を向けた。かつて「ハイエナ」と蔑まれ、ガルディアの謀略に利用されつくした男たちだ。
「父上は……ガルディアは、彼らをただの獣だと思っている。飢えさせ、競わせ、使い古したら野垂れ死にさせる。……ハイエナは所詮ハイエナとしか扱えない男に、国を語る資格なんてないんだ」
エドワードは視線を戻し、淡々と食事を配るユージンをじっと見つめた。
「ユージン……僕は君が見ている『その先』を見たいんだ。……君なら、このハイエナたちにさえ『居場所』を与えるんだろう?捨てられた命をどうやって繋ぎ止める気だ?」
エドワードは自嘲気味に笑った……しかしその瞳には確かな熱が宿っている。
「君の作る未来が見たい」と言われたユージンだが、彼の本心はこうであった。
(え~?この不良債権ついてくんの、マジ?……嫌だなぁ。)
エドワードは少し照れくさそうに笑う。
「それにね、ユージン、君の傍に居れば何だか退屈しなさそうだしね」
エドワードの声に一同からどっと笑いが起きた。
その喧騒を少し離れた場所で、静かに地図を眺めていたモランが、スッと立ち上がった。
「……さて、皆さん。……和やかな夜食の手を少しばかり置いて聞いて下さい」
モランの落ち着いた声に、その場の空気が引き締まった。




