5 「全滅」という名の門出 1
「……で、ルシウス様……か。……ユージン、お前、亡国の王子様だったかのよ?へーーっ」
パチパチと爆ぜる焚き火の音が、静まり返った国境の夜に響く。ここは、「かつてのロドニア」でもなく「現在のガルディア」でもない、地図の狭間に落ちた空白地。所属も階級も捨てて集まった者たちが集まっている。
ガストンが干し肉を齧りながら、隣のユージンを肘で小突く。その顔には、驚きよりも「やっぱりな」という愉快そうな色が浮かんでいた。
「やめてくれよっ!兄さんまで……。あのなぁ、『ゼノスの孫』と言われたって、実際に会ったこともねえし……会ってたって分かるわけないじゃん。」
「……おう、そこの輜重兵。……言葉が過ぎるぞ。……ルシウス様はアステリオンの正当なる血脈。我らが命を捧げる唯一の主だ。……そのお身体に気安く触れるなど、不敬であろう」
焚き火の反対側で静かに座っていたバザルが、ボロボロの鎧を軋ませて立ち上がった。バザルの背後に控える兵たちからもカタカタと鎧が鳴る不気味な威圧感が漏れ出している。
「あ?……大丈夫ですよ、……バザルさん……でしたっけ?……義父に子供の頃から一緒に仕込まれきた兄貴分なんです」
ガストンは、負けじと胸を張るが、バザルの圧力に周囲の学生たちは顔を青くして縮み上がっている。そこへ、ユージンが静かに手を上げた。
「まあまあ、バザルさん……今日はもういいじゃないですか。……無礼講ですよ」
ユージンはバザルを穏やかに見つめた。
「それに……ガストン兄さんやアルベールたちが居なければ、僕は今日まで生き延びて、貴方方に出会うこともありませんでした。……彼らの無礼は、僕への信頼の裏返しとして僕が許可します。……いいですね?」
二十歳そこそこの若き主の言葉……だが、バザルは沈黙した後、深く、深く頭を下げた。
「……若がそう仰るならば……我が失礼を仕った、輜重長殿」
「いいってことよ、バザル殿。さあ、メシだ、メシだ……食ってくれよ」




