4 亡霊の糾弾
バザルは泥まみれの両手で己の胸元を搔きむしり、獣のような咆哮を上げた。
「何故……なぜだッ!なぜ貴方は、我らを見捨てて生き残ったのだ、アルベール!!」
見開かれた眼からは、涙と混じった執念が滴り落ちる。
「あの日……主君ゼノス様と共に散るのが貴方の誇りではなかったのか!我ら四千の同胞が、各々の名を捨て、泥を啜り、人間であることさえ止めてまで、あの御方の影を追い続けていたというのに……!なぜ貴方は、そんな隠居した老いぼれのような姿で、無様に生きながらえているのだっ!!」
アルベールは動じない。
ただ、その鋭い眼光の奥に、深い後悔とそれ以上の「揺るぎない覚悟」を宿し、静かに背後を……自分の「命」よりも重い宝物を守るように一歩引いた。
「……答えろ!なぜ生き延びた!なぜ我らを見捨てたのだ、アルベール!!」
血を吐くようなバザルの叫びに対して、アルベールは深く、重い声で告げた。
「……バザルよ。私が生き恥を晒し、泥を啜って守り抜いた『答え』は……」
バザルの視線が、アルベールの指先を追い、その背後に佇む「事務服の青年」に停まる。
「な……ッ⁈」
バザルの心臓が、一瞬、脈打つのを忘れた。呼吸が止まる。
(……あ……あ……あああ……ッ!!)
視界が歪む、そこに立っていたのは……。
それは、彼らがかつて命を捧げ、共に地獄を見た……若き日の『覇王ゼノス』そのものだった。
ユージンは、自分に向けられた視線を「書類の不備」を指摘されるような居心地の悪さとして捉え、精一杯の引きつった営業スマイルで口を開いた。
「……あ、えっと……。……初めまして。アルベールの息子のユージンです」
その声が、湿原の静寂に落ちた。
「「「………………ッ!!!」」」
「アルベールの息子」という言葉。それは、あのアルベール隊長が、二十年間、自分たちを捨てて逃げたのではなく、「アステリオンの希望(ゼノス再来)」を誰にも見つからないようにに必死に育み、守り抜いてきたのだという、あまりに眩しすぎる真実の証明であった。
「……生きて……生きておられた……」
バザルが、糸の切れた人形のように泥の中に崩れ落ちた。
「……ゼノス……いえ、若君……ッ!……隊長……アルベール隊長……貴方は、これを……この『希望』を守るために、泥を啜り続けていたのですか……ッ!!」
バザルだけではない。
「ハイエナ」と呼ばれ、略奪でしか命を繋げなかった男たちが、武器を投げ出してまるで子供のように声をあげて泣き始めた。彼らにとってユージンの存在は「救済」そのものだった。
背後では、アルベールが拳を血がにじむほど握りしめ、嗚咽を堪えて立っていた。モランは、顔を隠しながら、肩を激しく震わせている。
旧ロドニアの戦士達が感動の再会を果たし喜んでいるその中で……場の空気が全く分からない、ユージンとガストンがこそこそと、二人でマヌケな会話をしていたのだった。
「おい、ユージン……これは一体どういうことだ?お前の『はじめまして』で皆、泣き出してこっちに向かって何か祈っているぞ?……まるで新手の新興宗教みたいだ……この異様な雰囲気は一体……」
「……兄さん、俺、何か変だった?……大丈夫だと思ったんだけど。見ていて怖えんだけど……早く終わってくれないかな、これ……」
たぶん、ガストンとユージン……浮いてます(笑)エドワードはまだ荷台の上?




