Ep74:崩壊の果て、行方に
更に2年の月日が流れた。
闇の住人の魔道が一度に各国へ感染を始める頃、そのエネルギーはランガスモーの大地でなく、この新天地パヘクワードだけを覆っていく。各地に機械生命体を模した魔道増幅装置を魔核鉱石で更に増幅。幾つものダーク・オブ・ホールの柱を作らせた。崩壊とは歓喜と再生を促すための工程だ。必ずや成功させたい事だけを考えた。
「これ等がライト・オブ・ホールに集まると、分解、変容が同時に起きる」
ライト・オブ・バーストというのは闇の形を象っている。その力は大地をも揺らし上空をも歪めた。光の束と闇の槍のその比ではなくなっていた。何故このような事をするかというと新天地計画に基づく宇宙移民計画よりも、遥かに強い遺伝子で変容を遂げられる事が分かったからである。もし、その遺伝子がそのエネルギーの中で混じるとあらゆる生命、自然、文明、資材を創ることまで出来るようになる。そうすれば確かな完成度を誇る新天地が現れるだろうと考えた結果だ。
「ライト・オブ・バースト。別名“闇の災厄”」
「これを促せば遥か遠くの世界線を超えるに違いない」
「でも、誰も居ないのではいけないな・・・ズビッ」
なんだか寒い。全身の体温が抜けてゆくのが分かった。そして手元を見ると体の線を象る形が崩れてゆく。丸だったモノが四角に、三角だったモノは楕円形に、長方形だったものが線に替わる。それは痛みを伴うモノだけど魔核鉱石を注入した体には応えない。それなのに体は痛みを覚えてゆくようだった。それでも思考を巡らせる事は出来ている。
「もしかすると、変容した先で通常よりも強い痛みを感じてしまうかも?」
「そうなると、通常の生命体では居られなくなる・・・あ!」
「コレだ。これを僕へ移植しておこう」
それは人工生命体と呼ばれた機械生命体という手法。痛みを感じないのであれば自らの肉体を切開することもでき、手術も成功するだろうという勘が冴えた。別名、生体移植というもの。これで自らの痛みを克服することが出来るだろう。だが――、
「――僕一人では――そう、だよねぇ、移植は無理ィ・・・」
既に大臣も執刀者たちも変容に備えて各自部屋に篭りきり、僕の部屋には誰も入ってこないよう指示しているのだった。生命体の移植術。つまり次代の世界線というそこでなら、素材さえ在れば手術が可能だと判断しよう。ただ一つだけ難点がある。
「ブルブル・・・骨格が変容を起こすので、足が固まるかも知れない」
「それは先々、科学の発展をしている場所へ託そう・・・ジュル、」
「もう、カタカタ・・・体らしい身辺では無くなっている」
それは変容。既に脳でもないその意識と記憶が働く。かなりのエネルギーが僕の体を突き通すのも感じられ、その身は出血と分裂をくりかえし、くっついては離れる現象を起こしている。記憶と意識の残るこの頭脳から眼を介さなくても見えてしまうのだ。それは透き通った人間のような形。気持ち悪いけど我慢して見過ごしておこうと感じていた。
“ヒュン、ピュ、ビチビチ・・・、ミキミチミリ・・・”
―面白い感覚だね~、
―再構築・再構成と広がり、
―体は繋がってゆくよォ・・・
“ピチュン、パチパチ、ピキピキ、シュ、シュオン――”
バラバラだった体が一つにまとまり始めると新たな空間に辿り着く。そして変容も終完し抜け出たそこでようやく、自身の体温を感じ取れたのだった。それなのにそこには大地らしき何モノも見当たらない――、
――ここは・・・?新しい世界線――なのか・・・?
そこはまるで光と闇そのもの。その空間のどこにも太陽はなく生命らしい形が見当たらない。マジェス殿下の示した宇宙空間の一説には、“大地の遥か上空たる外に煌めく様々なる光体と闇蒼が広がる”と記されていた。
(・・・だが何故僕は、息をしているのだろう?)
鼻をすする動作や身震いさえしないし、空気と風もないこの空間で僕は呼吸をしている。
これこそが僕の結集たる魔核鉱石の効果である。お陰で“導線”というモノを巡らせられた。温度を感じられたのも、その体内からの合図で寒さに応じ、血液が神経を刺激して循環を始めて居る為だろう、と推測できた。しかもここは虚空であり圧迫感も感じられない。
(人工生命体だと、虹の鉱石の光体反応で推進する)
生身に魔核鉱石では“推進”なんて事は起きてくれない。それなのに僕は、脳から働く手あたり次第を試そうとしている。ライト・オブ・バーストによって再生される過程がこの身に起きゆく。魔核鉱石の働きをより活性化させているために思考が喜びを感じてゆく。
(でも声は・・・出せ――、声で?体が?・・・進むのかなぁ~)
「「お~~い」」と声を出してみるが、その響きで空間が動く訳でもないし反動さえ起きず、まるきりその方向へと進まない。この空間でさえ自動的に肺と心臓が連なり動くように、その脈拍の変換をしてゆくのを感じ取れた。そのためか、酸素が脳から全身を伝ってゆくのを感じ取れていく。そう、感じる事も思うことも考えられる事も体に対する命令だって出来ている。それで両手足を平泳ぎのようにさせても推進とはいかなかった。
(―息が上がらない―。この空間に対する魔核鉱石の実験は、成功したのだね――)
自らの身に起きる事に夢中で辺りの現象にも気付かず、その思考が回る頃に時が過ぎるのをようやく感じ取ることも出来るようになった。そこで気が付いたのはボヤリと光る数多の塊と自らの立ち位置だった。
ん?――あれは・・・
星・・・、止まっている――。
眩く膨張と微縮を――、息をしている?
それに、足場が――、ない?
闇の災厄とは、ライトもダークも感じられない力場の空間だと考え得るような状況に僕はこの身を置いている。これが、これこそが“ブラックホールの胎内”だというのか、と自らの興奮を抑え切れなくなっていた。それはまるで赤子が気持ちのよかった所や、目前に在るモノを探し這い上がろうとする様に、何も感じられない筈の体が疼くのだ。
これが僕の記憶・・・
これは僕の意識・・・
だから僕は決めたよ?
ここが僕の居所で僕のすべて・・・
ここが僕の『お母さん』なのですね!―――
“―――さようなら友よ。そして、また会おう!”
―――――――――――――――――ジグルより―
サンシャイン―5―輝きの世界線「新天地パヘクワード」編 ―完―




