Ep73:別れと意志
ハァ、ハァ・・・兵士時代と違い、体力の衰えが激しい。自分の周りに駒が居なければもっと大変な事になっていた筈だ。これまでの愛撫、これまでの放産を行って尚も、計画の為に逃げ纏う。あと少し、あと少しだけでいいから時間をおくれ。もう直ぐなんだッ!
“さぁ、こっちだイーター。俺達も変容を遂げよう・・・ん?誰だ!”
“僕、僕だよォ、剣を引いてくれないか?”
“ジグル・・・あなた一体なぜここへ・・・来たの?”
“ふふ、ミヘルの事で手間をかけたな。君達もはやく変容してくれよ、と言いに来た”
ライズとイーターは兵の足音が聴こえる前に、ライト・オブ・ホールへその身を差し出した。まるで穴に落ちるような恰好なのに、どう落ちるのかに少し興味があった。それは“仲間だった事を偽る”ことを意味する。だけど僕にはエイドカントリーズへ戻りやり遂げる事がまだ残るのだった。
「二人とも、僕を恨まないでおくれよ」
僕はエイトカントリーズに残り、議員と魔道に潜むエネルギーを研究。機械人形の七つの騎士を従え、闇の住人へ移植改造、魔動機器として各地へ設置する。これ等を3年でやり遂げた。上空に置いて行く虹の鉱石は世界を運ぶための通電基の役目を果たすだろう。これで残り4年間となった。この世界線全体の変容、つまり崩壊を与える事に時間を費やす事も出来るだろう。それから人工生命体と機械生命体の理論と原理を頭へ入れて置き、記憶だけ変容しない様に魔核鉱石を¹0.003mgだけ耳の穴へ注射しておく。だがそれは、のた打ち回るほどの痛みでもなく、僕は平然と“新たな生を受けた喜び”を得られたのだった。※¹mgはznの9分の1の質量。
「既に魔核鉱石を含み魔道を発せられるから、神経系が傷みを感じなくなった」
当然だ。僕に与えられた知識は、発明を――
「“キョロキョロ”・・・だけど、再生能力を得ることも出来ている」
そう。暗がりの中で見つけた欲求と不満をぶつけろ!
「これなら記憶の欠損は無いかな・・・」
大丈夫。もう、僕を邪魔する存在は居ないさ。
“――スタスタスタ、ガチャ・・・”
そこへ現れたのは闇の住人、つまり議員の2人だった。だが彼等には名前が無いのでナンバーネームで呼ぶことにしている。例えば左の彼が№9で右の彼女が№85としよう。
「№9、君が新規第一大臣で王様だ」
「心得ました。私が第一大臣で貴方の息子です」
「№85、君は新規王妃だね」
「受入れました。私は№9、貴方の妃です」
これから彼等も変容されるため、恐らく記憶を失うだろう。だから彼等にも魔核鉱石を注射して置くことにする。それで万が一事故が起きたとしても記憶の変換が始まらない限り、僕を確かめてくれる事だろう望みを叶えて居たい。№9の遺伝子を№85が受入れ、その身に魂を宿してもらう。変換による再生が始まると遺伝子変更を成されると、僕の意志に応じてくれるだろう事を伝えておきたい。願わくば、僕の頭脳を受け継いでほしい。
「君達二人は、一つの部屋で子を作って、僕のことを伝えてほしい」
「王よ、その可能性は91.5%と推測・分析します」
「君達は出来る。頼むよ?」
彼等ナンバーネームへ僕、ジグル・ウィナートはあなたの“父”であり“覇王”でした、と教えておく事にした。胎内へ覚えさせるにその“詩は必須条件”である事を説いておく。すると何故か彼等は拒絶反応を起こし始めた。そこで僕は考えた。彼等を機械生命体の脳へ置き換える事を。そうすればお互いを認め合い、胎児を得る事だろう。
――2年後
ナンバーネーム達は見事に子を授けていた。崇めるはジグル・ウィナートという王たる存在のあることを“神”だと訴えた。これで国を統べると魔道機器を“魔道増幅装置”へ置き換えることが出来るだろう。だが“所詮は人の形”である。彼等を虹の鉱石で造った大型文式機器へ住まわせて、子供は残り2年間で僕の頭脳を植え付けて置く予定とした。その頃にこの世界線の崩壊が始まるだろう事を、議員でもあるナンバーネームにも伝えておく。
“各国、各ナンバーネームへ告ぐ”
“この世界の覇王が、お前達の父である”
“我らが父、ジグル・ウィナート様の演説を始める”
ダーク・オブ・ホールとライト・オブ・ホールの転移型電磁波による信号装置を各ナンバーネームへと施してある。その追跡機能は歩くよりも走るよりも遥かに早い文明の経路を窺わせる。それは地上ランガスモーから新天地への移動手段を改良・発展へと導いた。
「え~~君達ィ!いいかぁァ~いッ!?」
これから育ち変わりゆく君達“世界”へジグル・ウィナートが告ぐ。
その身に刻まれた記憶が覚えていることだろう意を伝える。
我は君達の父であり王、そして君達の先導者である。
是非とも我の頭脳、人の形となりたまえ。
10の世界線の創生主を統べるのだ!
「そして名乗るがよい。我らが神、“インシュビー・ツイン”を!」
“ザワザワ・・・父、いん・・・しゅびー・・・ついん?・・・ガヤガヤ”
―――フリだけでいいんだよ?
こうして、僕は民達を陥れた。わざとじゃない。只、これまでの経緯が複雑すぎた。パイルで生まれた僕の先祖が、パヘクワードに来てウィナート家を誕生させた。誕生させたはいいが王族だった事から、貴族に成り下がり、やがて僕が生まれる頃に闇の動きが活発になった。そこに僕達親子が入ってしまい、ウィナートの小父と小母の下に引き取られ、貧困の道へと向かった。一時期はフォングラン家に引き取られたけど、自力で本を漁り、遂に王国へ向かえると思ったら、今度は兵士に成り下がり、いずれも僕の体を貪られてしまう。そして、民達が行った事は、王族と貴族に反旗を翻す事だ。これは僕にとって大きな動機となった。だって、僕が闇に彩られる頃にはもう、計画が始まっていたのだからね、民達を動かすのは僕自身だと悟ったよ。
「もう、ディナールもヴァンもウィナートも関係ないさ。哀れなる新天地計画よ、異なる世界で再び働かせ給えよ!」
雛だった僕。
弱かった僕。
愛撫され歓び、裸となり、やがて本質に彷徨う。
そんな僕が好きさ。
こんなに大きくなってさ。
―コン、コン―
「ジグル陛下、準備は整いました」
「そう。今、開けるよ」
だから・・・もう、いいよね?
愛しているよ、僕のジグル・・・。




