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Ep70:変容

 スタヴァー様の死を受入れるも、俺は反逆罪として王国から出られなくなる。各国へ赴いた功績さえも、謀反を立てた罪人として各国からも汚名を着せられる。そんな中、城内である噂が立つ。


―ヒソヒソ―

――ヒソヒソ――

(廊下の傍で聞こえる・・・何だ?)

「知っている?」

「えぇ、確か前王は議員の誰かに毒殺されたとか」

「そう。それから新天地の離れである光の束に触れたとか」


 毒殺は知らないが、ライト・オブ・ホールの影響で亡くなった事は覚えていた。確か俺達一行が先導者として4カ国に書簡を出していた頃だ。マジェス殿下率いる兵士達が、突如現れた光の束の傍へ向かってしまい、その遺伝粒子・・・つまり再構成、再構築、再生能力を得たエネルギーに触れた途端に、細胞分裂に近い状態となった原因である。


「ある大臣が侍女に毒を盛らせた。その毒からこの世のものとは思えない、エネルギーが感じられたという」

「あの大臣が王位を獲るなら、あり得ない事実ではない。この王国から見える光の束を見に行ったとか。瘴気に侵されたというが、それは全てではない事実だ」


 瘴気とは何だ?毒でさえこの地を溶かす程の威力だ。この世界は虹の鉱石のエネルギーで満たされているが、同時にライト・オブ・ホールの中に潜むダーク・オブ・ホールという肉体どころか、意志や魂をも切り裂くという毒が潜んでいた。マジェス殿下の死の真相は、スタヴァー様亡き頃から多岐に至る。そもそも殿下を誘導した人物が誰なのか、特定する必要がある。


(では、マジェス殿下の死の真相は何だ?)


 ライト・オブ・ホール説だと、マジェス殿下が議員及び大臣と話し込み、パヘクワードを占める光の束という、遺伝子を変化させる方法を示唆した人物が浮上する。確か議員・大臣両者とも貧困を仰いだ連中だと聞く。新天地計画を遂行するにあたり、闇が潜んでいる可能性はある程度心得ている。前々国王スペクティラー様が関わり闇を連れてきたとの噂もある。それ等を大臣に仕立て上げたとの噂も。それが本当なら魔道というエネルギーによる瘴気によってマジェス殿下が病に侵されたというなら、国々に散る暗殺者として君臨している可能性が高い。折角の新天地計画が上々になると都合よく本計画を遂行した人物から消し去るのだろう。


「まて・・・光の束に古来からの言い伝えがある。近寄ると、体が変容してしまい、その意志も魂も飲み込まれてしまうとの研究者の見解から産まれたという。あのライズ一行が登場してから何かと暗殺未遂が続いている様でならない。マジェス陛下はあの一行の誰かに毒殺されたのではないか?」

「そんな状態になってしまうなら、死んでしまって変容どころか、この世界すら彷徨う事も無かろう。私はあの頃、虹を感じた。スタヴァー様でしか感じ得られなかった。だが、マジェス陛下の時は何も感じられなかった。王国の不始末が祟ったんだろうな」


 毒殺説だと、マジェス殿下の死と辻褄が合わない。彼はライト・オブ・ホールへの遠征にて自らの身体が病としての状態に浸されたとしている。俺が4年間もの期間を掛けて各国へ赴いている間に、暗殺者としての動きがあった報告さえない。ただ、俺達一行が追跡者によって命を狙われていた事から、暗殺を指揮した者が居る。未だ、特定はできていないものの、その間にマジェス殿下を亡き者とするなら、俺が帰還する前に現状報告の都合など付けず、とうに亡くなるよう支配していた筈だ。新天地計画の問題点も挙げていないだろう。


「そういえば、アイザル・ディナールとかいう議員が一番目立っていた。言葉遣い、作法、それに王族との間を行き来していたが、侍女によると新天地計画の要になるのは自分自身だったと、自作自演までして妨害していたと聞くぞ?」

「本当にそうなら反旗を翻している。そうでもしないと、マジェス陛下との間にその身を割り入れることすら出来なかった筈。それに彼は、ある貴族からの伝手で王国側の学校の担任やら、王国内での議会に参入していたと聞く。ディナール家は元から詰んでいるよ」


 ディナールによる新天地計画の反論だと、俺達を先導者とする意味はない。直ぐにでもマジェス殿下に反旗を翻し、国民並びに、全ての民や王国を密告にて支配している筈。何れにしても首謀者が表に現われる筈。好色人である議員と大臣との間にジグルを挟む必要はない。新天地計画の重きは虹の鉱石と地上ランガスモーとの間にあるし、俺から直に情報提供されなくとも、自ら赴くよう設定するだろう。


「ジグル卿はどうです?何故、ライズ殿から変わり、第一大臣とされたのにわざわざ、議員を連れて、騎士を派遣するなんて正気の沙汰じゃない。それに何故、イーター殿を第二大臣から次期王妃に付け替えるのか、国民にすら理解されていないのですよ?」

「騎士ミヘル殿を最も近い側近とする為に、次期騎士との位置付けでその身を守ろうとする。ジグル卿は元々、表に出るよりも後ろでひっそりと独言を吐いているというではないですか。密かに研究所に入っているとの噂も、大臣の間で立っているとも聞きます。我々議員からすると、スタヴァー様を処刑した首謀者とされていて、あの意図のある様子は異常としか言えないのです」


 どうもジグルの姿が見えないと思えば、急な王の進退を駆け抜けていて、城内、城外のほか、各国の噂の的となっている可能性が高いからか。


 ジグルの意に反する議員が少なくとも2名は居たようだ。

 ジグル、お前は今何処に居る?この足でお前の元に向かうぞ。


「ライズ殿、下手に城内をうろつかれては困ります。なるべく噂にならぬよう行動を徹して欲しい。なにせあなたはイデアの計に加担した者と見なされているのですからね」


 理解は出来ないが、なるべく彼等の言い分を苦慮して行動しよう。今はジグルが研究施設へ向かっていたとの情報を頼りに城内をくまなく探す。もし、アイツがスタヴァー様の暗殺を行っていたとしたら、俺は兄と慕っていたジグルをこの手に掛けなくてはならない。


―ス、スタスタスタ―


(ジグル、ここか?・・・ここに居るのか?)


――エイドカントリーズ、研究施設

 扉の前には、精密なガラス模様がピコピコと動いていた。その隣に兵士が一人配置されてあり、俺が近付くと「何をしにここへ来た?」と尋ねてくる。俺が「エイドカントリーズが王の下で働く先導者なるぞ」と言葉を返すと、「証明を」と求めてくる。その求めに対してスタヴァー様でなく、両輪の愛に飢えたジグルの書簡を渡すと、ガラス模様に充て「認証した」として、俺を中の研究施設に入れてくれる。


 兵士に対し、「これは何だ?」と最後に聞くと、「これは機械だ」と答える。これが、機械というヤツなのか、と俺は大いに驚いていた。意志が伝わるというのか、この王国の仕組みに深さを怒りに反して感じるあまりである。


「ジグル、一体どこに居る?」


 とにかく、俺はジグルを探した。

 周りには機械と鉄板らしき造物が佇む。

 擬音を鳴らすもの、光を通じるもの。

 お互いがエネルギーを分け与える。

 それは虹の鉱石の性質に似ていた。


「ジグル、何処だ?」


 周囲には人間らしき生命が幾つか点在している。

 何かの実験に使われている様でもある。

 これがパイルの示した機械文明なのか。

 奥の方から会話らしき声が聞こえる。


「――で、七つの騎士を」

「ジグルゥゥ――ッ!」


 そこには、機械に阻まれるように佇むジグル・ウィナートが居た。

 スタヴァー様を守らず、汚名を晴らそうとしている顔にも近い。

 ミヘルの言う通りに俺のことを考えてくれている様子は無い。

 唯々、研究に夢中になっている一人の男がここに居る。


「ジグル、どういう事だ!」

「ん?ライズ・・・なのかい?」


 俺は今にもジグルに殴りかかろうとした。

 ソイツは慕う兄でも、志す仲間でもない、そこへ佇む国王代理。

 なぜ、お前が第一大臣から抜け出し、ヴァン一族を滅ぼすのか、と。


「あれほど民に必要だったヴァン一族を死に追いやったのはお前か?」

「頑張りは認める。でも、新天地計画には新たな王が必要だったんだよ」

「スタヴァー様を“守る”と言ったじゃないかァッ!?」

「守る?・・・守る・・・か」


 俺は何故、王国エイドカントリーズの国王の代がこうも早く支配という形で行われていたのか、と尋ねた。それは全てジグル本人による“闇の議員”との交渉が招いた事だと言い表したのだ。そして、守るのはヴァン一族でなく、国民でもなく、自身に付添う議員と大臣のみであり、利用するのは能力の高い兵士と侍女のみと言い始める。だからもう仲間と感じること自体が無理だと思った。


そして、こう切り返した。


「また話せたな、お前と。懐かしいなぁ、ジグル」

「ほんと、あの頃と変わらないね。ライズはさぁ」


 話によるとジグルは闇と議員について、科学的根拠のある眩き光を供していたという。その中に不必要である筈の闇の煌めきについて、研究者と如何にして虹の鉱石を次なる次代へ残そうかと考えていたらしい。だからといって、ヴァン一族の処分が適切とは思えない。彼等が居なくては、俺達はこうして王国にすら居なかった。そして、ジグルの建てようとしている意見すら通らなかった。その感謝すら忘れて貧困たる大地を救うと本気で言っているのか、とも窺う。昔から闇を抱えていたジグルが、闇を再び抱えようとしている。新天地計画は進行しているのに、ヴァン一族を処刑し、処分したのは何故だ?


「各国からの指示どおり。君が去った後に、危険因子は削除しろとの命が下っていたのを実行したまでだ。実行したのは僕じゃなく、魔道を操るアイザル・ディナールさ」


 この期に及んで俺を振り回すのか、と思っていた。王国の危機に瀕している時に、だ。しかも、ほんとうに魔道が関わるなら、世界の果てに在る洞窟から魔の存在が訪れてもおかしくない状況。それにお前が国王になる事をあのアイザルが仕組むはずもない。どういう訳だ?


「ディナールは、貴族と王国による闇に引き摺られたと聞くよ。それに僕の闇を再び消去するには、彼の存在が必要だったんだよ」

「そうまでして、スタヴァー様を殺したのはお前自身だろうがッ!」


 騙されない。

 そう感じての怒りである。

 だが、コイツは策士だった。


「違うよ。君がスタヴァー様に新天地計画の継承を促したせいだ。亡きマジェス様にそう促されたと聞くけど、それならなぜ二人で密会する必要があるの?」

「いいか?お前が4つの国に対する書簡の内容をミヘルに記させたからだッ!マジェス殿下はお前に悟られない様に、二人での密会を許したァッ!」

「イーターとミヘルにそれ、話したの?愕然とさせちゃったりするから?」

「――っち!」


 思わず、密会していた事を話してしまう俺。

 ジグルはキョトンとして俺を見つめる。

 騙されたのはこっちだと言わんばかりに。


「ライズ、あのね、僕はさ、この世じゃなくて、意思を継ぐ者として魂を継承したんだよ?どういう存在のものか知っている?」

「ジグル、お前は・・・何者だ?」

「魔王だよ」


“プツンッ”


 そこで、俺の意識が途絶えた。

 何故、そうなったのか覚えていない。

 記憶が一瞬にして干上がったかのようにして、気付くと一つの部屋に眠っていた事を確認した。静かな風の音が聞こえる。隣でジグルが座っている。なぜ、俺はここに居るのか、と。


「君はね、新天地計画を成功させることが出来なくて、スタヴァー様はその責任を負って自害をなされたんだよ。そして、その意志と魂をライト・オブ・ホールに掲げるように“ありがとう”と言って変容していったのさ」


 すると、ミヘルとイーターが部屋に入って来るなりこう告げた。


「今のエイドカントリーズの代行人はジグルよ。スタヴァー様に最も近い存在として、国王候補に選ばれたの」

「イーターは国王の側近として、ジグルと結ばれる事になったの。私は彼等を守るために騎士となる。でも、ジグルも含めて私達は王国側に追われる身となった・・・」

「だから、ライズ・・・僕の指示を絶対に守るんだ。そうしないと、これまで僕達4人を匿う計画が無かった事になる」


 計画・・・?


「王国から逃避する計画・・・変容を以って、逃避する・・・」


 変容・・・?

 俺達が・・・?


 何故か、ジグルの進言を素直に聞いてしまう俺だった。


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