Ep68:さよならスタヴァーまた会おう
「アムニム、どうかした?」
「いや、不思議な意志に導かれてね・・・」
民達は亡きそれぞれの魂の行方を追い続けた。
ヴァン・スタヴァー・ディルタの魂は王国エイドカントリーズの中だけでなく、全ての大地を駆け抜けた。それどころか上空の遥か向こうの宇宙と呼ばれる空間、果てを金色の太陽を放ちたて、全ての生命と共感を果たしているのである。それはまるで霧を呼んでいる様にも宇宙は見守る。そして地上と新天地に雨が降る。民は空を崇める様に雨を浴びた。それはイデア・サンシャインとして処刑されたスタヴァーを懐かしむよう。
民は慌てて商品に布を差し洗濯物を入れた。それは国が泣いているかのよう。民は雨の音を感じた。それは王国の立場を抜け出してまで家に訪れる少女の悲しみのよう。そして、昼の3の時を時計が教える頃に雨が止み、王国の上空には7通りの虹が掛かっていた。それは赤でも青でも黄色でも白でも黒でもなく、祝福を称えるかのように新天地を励ましていた。そこで民は気付いた。新たなる新天地は何処かと虹に問う。すると虹は魂を躍らせた。
踊った魂に民の体温が動いてゆくと民は他の民と手を繋ぎ、足を弾ませ踊り始める。そこには詩を歌うモノも居てスタヴァーの死を乗り越えるサインでもあった。
―――――
・ライズ・フォングランとの共鳴
――さらに1年後、王国エイドカントリーズ城門付近の馬小屋に七色の輝きが空を覆っていた。俺が王国エイドカントリーズから新天地計画の協力要請の修正と、各国の新天地計画への承諾を得ること、2年の月日が経っていた。未だ王国に起きた事など知らずに、目を輝かせ帰還するのだが、民の表情が明るく感じられたので、何か心待ちにしていた出来事でも起きていた様子に窺えた。俺が旅経つ前と比較して文句の一つも聞こえてこなかった。
そこで俺は一人の男に尋ねた。
「こんにちは、おじさん。何か良い兆しや出来事でも?」
「ははは、君は知らんのかい?あの空を見てごらん」
空を見ても曇った空に一粒の虹を帯びた光しか見当たらなかった。だが、目を凝らしてよく見れば何とも眩しく感じられた。それは晴天の朝の太陽よりも祝福してくれるかのよう。希望とか体温をも感じられるのだ。
「とても空気が澄んでいて美味しいや・・・」
「そら、そうだろうよ!何せ国が変わったのだからな~」
”それは、彼女の魂が空を覆ったという。
それは空気と水をも覆ったから美味いんだ。
スタヴァー様の魂が我等と、共鳴を果たしていったよ!”
「おじさん、何を言っているんだ?」
「あ・・・あぁ、知らないのかい。ひと騒ぎあってね」
「ひと騒ぎ?」
「国王、スタヴァー様が亡くなったんだよ」
「それは・・・どういう?」
その民から聞くに、王国内で反乱分子なる存在が現われ、スタヴァー様が城下街の中心にある台の上で木製の十字架に貼り付けられ、剣や槍に弓矢の的となり、火炙りの刑に処されたという。理由は闇の存在である魔道の者達と手を組み、王国内の虹の鉱石を利用して各国との機密取り引きを行ったとして、ヴァン一族は危険分子として処分されるという決議を行ったとされる。
また、闇の住人との手引きは亡きスペクティラー王が行い、王国の大臣として取り計らいをしたとも噂が流れ、国民の不信を煽ったばかりか、亡きマジェス殿下が新天地計画として持ち上げたのも、闇との手引きをする為だったとのことで、貧困の事など考えずに、虹の鉱石を悪用したとも。
その後継者たるスタヴァー様が全ての責任を取り、虹の鉱石を移動させて、王族だけを遥かなる上空とされる宇宙、新天地となる場所へ赴くために七つの騎士と筆頭に、兵を動かし、新たな命を生み出すとの事で、民達が新たな王を選び、処刑することにしたとの報せがあったとも話している。
俺がエイドカントリーズを離れている間に、国政状況は悪化。王国は民を見捨ててまで虹の鉱石を使用し、人間を使い、研究と実験を繰返してきた事が、何よりの不信を招いたとしている。だが、民達は大いにスタヴァー様を称えており、王国側と闘ったというが、七つの騎士の前にひれ伏したともされる。
愛する人よ、我が子よ。
貴女は死んでしまったのか?
民を欺いて来たというそれは?
ほんとうにそうなのか?
俺と貴女の導きは間違いではなかった筈だッ!!
「魂との共鳴とは何だったんだ?」
急な出来事が信じられず、俺はエイドカントリーズ城へ戻った。ダイヴァー、ギュネズ、カーフ、ダネル各国における書簡の報告もした。そこにジグルの姿は無かったが、イーターとミヘルだけが俺と対話する。
「スタヴァー様の死は本当なのかッ?」
「えぇ、本当よ・・・あなたの居ない間に王政が急変したの・・・」
「なぜ、彼女が死ななくてはならないッ?それに、俺は必ず帰って来ると約束した!」
「ライズ、スタヴァー様は死を受入れたのです・・・もう、ヴァン一族の役目は終わった事を内密に訴えていたとも聞きました・・・」
「受け入れただとッ!!」
俺はイーターに強く言葉を放ち、ミヘルの襟元を掴み、そのまま彼女の首元を閉めるように持ち上げた。スタヴァー様の死が今にも信じられなかった為だ。彼女の笑顔、素直さ、愛らしさ、王たる気品、貴族寄り高貴な作法、何れにおいても愛おしかった。別れる際にも俺の身を案じ、ご自身は「大丈夫だから・・・」と言葉を連ねていた。なのに――ッ!
「・・・ジグルは何をやっていた?俺はあいつにスタヴァー様の付き人をするように伝えた筈だ!イーター、お前はあの方の第二大臣だぞ?何をしていた!それにミヘル、お前も騎士になったのならあの方の身を守る方向へ・・・死は本当なのか?」
俺はスタヴァー様の死が未だに信じられなかった。そこで何故ジグルが新たな研究を始めているのか、ライト・オブ・ホールと虹の鉱石との共鳴を行うと新天地計画が更なる一歩を踏み出すと語る議員がなぜ、スタヴァー様の処刑を後押ししたのか、七つの騎士さえ部下に指示を出さずそれを手助けするなど、全てが謎のままでそれがとても“怖い事”なのだと予感させた。俺にとってその共鳴とは壊滅的な意を称えるように捉えられたのだ。
「ジグルは今、どこに居る?」
「怒らないで・・・今、葬儀の準備を――」
「体を失った!あの子の小さな体をッ!どうして葬儀などの準備をッ!!」
「ライズ・・・ごめんなさい」
「魂の変容が起きたの。それで国民達は新天地計画における心構えが出来たそう。何かに包まれている様だとか、虹に包まれている様だとか・・・」
「虹・・・包まれている・・・変容・・・」
「落着いて。今、ジグルを責めても何にもならない。だって今の政治はすべて、彼に委ねられていて、簡単に外に出られないのよ・・・」
そうか。ジグルを責めるよりも、俺は新天地計画の溝を埋めた事をまず民達と理解しなくてはならない。国政状況が悪化した事も理解していた筈なのに、何故かジグルに対してだけ、頭に血が上るような感覚を覚える。幼馴染だったから?それとも同期だったし、仲間と信じて、なるべく感情的にならない様に励んでいたからか。これも虹の鉱石のエネルギーが俺を導き変容を迎えるよう促している様にも感じる。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
「ライズ?」
突如、息が乱れた。初めてエイドカントリーズで就任したときに、息が乱れたのと同じ感覚だ。虹の鉱石のエネルギーに体が耐えきれず、髪が変色したし、体調不良に陥った状態と似ている。
「上空に幾つか虹の鉱石を配置しているせいね」
「ライズ、あなたは未だ体が慣れていないのです」
「帰って来たばかりでね・・・」
“ゴッ”
―――コオオオオオォ―――ッ
“さぁ、逃げるんだ。この光の中へ・・・!”
“はやく、追っ手が来るわ!さぁ飛び込んで!!”
“おい、待てよ・・・ッ!?うわぁぁァァア―――ッ!!!”
これはまるで予知夢の様だった。眩い光によって俺とイーターにジグルの3人の体を包み上げ、黒い刃がこの身を切り裂き分解してゆく。その速度はあまりに早く一瞬で済むようだった。あの焼けつくような痛み、傷はそこから抜けてすぐ無かったことになる。あの子、スタヴァー様の声に従い、今度は俺がすべてを導いてゆかなければならなくなった。
そう。あの子の遺言を俺が受入れなければならない。
脳裏に荒れ狂う磁気嵐のようにして・・・。
「ライズ?」
「ハァ、何でもない。驚いただけだ・・・」
「今、ジグルがスタヴァー様に加担した事について、言い訳をしてくれているの」
「言い訳というか、ライズは反逆者の扱い。きっと大丈夫だと思うけど・・・」
「俺が、反逆者か・・・暫く不自由だな」
こうして新天地計画は事が運び掛けるものの、内乱的となり、各国へ対する意見が出来なくなっていた。エイドカントリーズは王を失い、新たな王を決める状況に在る。そうしなければ、人類は遥かなる上空へ到達することは出来ないだろう。
『ライズ・・・あの約束を、覚えていますか?』
はい。
女王たる貴女との契りを以って――。




