Ep65:ジグルの闇
ライズ。君は僕が指示を出したにもかかわらず、その身を呈してまで本当にその美しさを魅せてくれるね。思わず漏れそうな気がしたよ。僕はね、君が居ないと何だかとても寂しくて大臣職を、本書を読む事だけに費やしそうだ。お願だからもう少しだけ居て欲しいな。頼むよ。
「ライズが今、席を外している。本書にはこう記してある」
【遍く太陽】
宇宙という天文学の中に、太陽という存在があった。太陽の中には小さな黒点があり、更に輝かせる光があるという。その光によって新たな闇を巻き込む時に、小さなプロミネンツが現れるとされている。その更なる小さな闇の中には、二つの生命が降り立ち、新天地なる境地を生んだという。余りにも多くの数を産んだため、時には同じ思考を張り巡らせ、時には驚倒させ、時には燦燦たる大地の発明に至らせたという。やがて二つの分配をした生命達が新たに迎えるのは、失われた文明。その中身に在る文化によって様々な流浪帯となり、かつての宇宙を巻き込むような世界構図が生命によって照らされたとされる。今少し、その中にある闇の中の光から成るエネルギーを受けとらせてほしいと、神は願う。よって、天文学的には太陽、宇宙、光、闇、神の順に従って新たな生命の頂きを得たのだった。
―著者:ダクス・ウォーラム―
「ジグル、あなたも暇なのね。少しはライズを見習ったらどう?」
「だって、僕達が未だに“冒険”に出られないのはおかしいだろう?そう思って、幾つか楽しめる本書を漁ってみたところさ」
「なんて本書なの?」
「『愛する魂』さ。これ、一つの血を、契りあう事で新たな生命を産むという不思議な本書なんだよ。面白いからイーターも読んでみる?」
「愛する・・・ふぅん、どれ」
【愛する魂】
蹴られて踏まれて奪われて尚も立つ雑草のように、新たなる未来予想図を立てたとされる学者が存在した。彼は虹の鉱石の原理と分子構造を理解し、やがて核となる鉱石を発明したという。それは新たな生命を生み出すための愛の形であり、新たな雑草科学さえ生み出すような、空気も水も不要とする大地の礎。それ等のように人類も同じであれば、単なる奪い合いをするのではなく、受け入れてみる事が大切である。もう一つのところで、学者である彼は一つの到達点に導かれた。それは魔核とされる名前の鉱石であり、一つのエネルギーから二つのエネルギーを表すという理。かつては繋がろうとして、かつては繋がったものの離れてしまい、記憶が定かでなくなる程の愛を受入れたなら、再び繋がるであろう魔術によって、二つの魂は惹かれあう意志として働いてゆくだろう。
―著者:パイル・G・ウィナート―
「パイル・G・ウィナート・・・はて・・・」
「ウィナートは一つだけじゃない。複数居るんだよ。僕も失われた生命によって再び蘇る時は近くに居る誰かを愛するに違いない。まぁ、君にとっては価値のない事だと思うけどね」
っち、この女は人工生命体についても知らないんだね。僕は折角の機会だからと言ってイーターに二つの名を呼ばせる事にした。一つはザモース・エンプスティ、一つはモノゴトリーとして伝える事にする。もしかすると僕の暗示するキーワードに応答するかも知れないから、敢えて命令は伏せておこう。
「イーター、生命体とは、人工的であったり機械的であったりして、便利な機能を果たそうとしている。以前に議員と対峙した時に、新天地計画の訪れを伝えてみただろう?あれ、少しだけ細工を施しておいたんだ」
「ウィナート故の、傑作集を説いただけじゃないの?」
「君は何も分かっていないね。その上を遥かに凌ぐエネルギー体が存在する事を――」
そう。研究施設には、以前マイクオ・シーブルから採取した血液を利用して、虹の鉱石の成分を含ませた鉱石を瞬間製造してみたんだ。それを粉にしてワインに含ませたところ、死去寸前の生命体が異常反応を起こしてしまって、元気になった例もあるけど、2日間で細胞が増幅され、巨大化して一気に破裂してしまった。
「じゃぁ、あなたはエイドカントリーズにある研究施設を使って、新天地計画の要をライズの代わりにちゃんと請け負っている訳ね」
「その通り。新天地計画には人工的な生命体を配置する事で、新たな生命を生み出す役割を担えるというね、大変貴重な技術をこのエイドカントリーズに施したのがこの僕」
「さすが、ランガスモーに行っただけの事はあるわ。指示したのはあなただけど、行動したのはライズね」
そうさ。あの研究施設で僕は機械生命体なる技術を応用して、人類とする一つの兵士を誕生させた。数は240体に過ぎないけど、稼働できるのは7体となっている。通常の兵士の15倍のエネルギーを運用できることから、3600人分の兵士の働きが可能だ。現在だと105人の兵士に匹敵する。人工生命体では補えない、虹の鉱石による人体の再生技術を超寿命だと換算し、その移植手術である機械生命体へ変化させれば、全国の兵士をマイクオ・シーブル並みの生体状態にさせることも出来るし、新たな指標とする事も可能。
「あなたも悪趣味ね。もう少し自然的に考えられないの?」
「それは、ダネルの役割だろう?自然科学に精通する生命学理論に徹しているのはあの皇妃くらいだよ」
「そう。それで愛って何よ?もう、私達は“過去”の年齢には戻れないのよ?」
「うん、少し準備が必要でね。あと少しだけ付き合ってくれないかな?」
そうそう、パイルの技術を運用・転用して研究施設の中で虹の鉱石と移植可能な媒体を作成する事に成功したんだよね。ライズが沢山、僕に魅せてくれたから、ご褒美として三つだけ試作品を作ってみたんだ。この鉱石を利用しさえすれば、新たな生命の形を生み出す事も可能さ。変容したとしても、同じ結果を埋める代物だとして発明したんだけどね。
「それって、大臣としての役割なの?まるで話にならないじゃないの」
「でも、君は“好きな人との子供が欲しい”という顔をしているじゃないか」
「第二大臣になったとしても、青春は謳歌したいものよ」
「もし、“過去”に戻れるとしたらどうする?」
「え・・・?」
僕とイーターは少なからずも、愛し合った期間があった事を最近になって思い出していた。そりゃ、あれだけ大臣との愛撫を楽しんだもの。思い出さない訳にはいかないよ。僕の記憶は意志と異なり、魂の繋がりを感じている。かつて母を感じて居たように、今度は愛として受け入れておくれよ。そんな僕から君へプレゼントを用意しようと、衣服のポケットを弄っているんだよ?
「イーター」
「何よ?」
「僕、あの頃のお弁当、とても気に入っていてね」
「今更!」
「もう一度作ってくれないかな?」
「ミヘルにでも作って貰えば?」
ふん。僕とミヘルだと?あの人形ごときに何が出来るというんだ。多くの苦渋をあの娘に味わされたし、いつか支配してやろうとも考えた。彼女さえ何とか出来たなら、このような場所へイーターを招待したりはしない。だからこうして、パイルの技術とディナール一族の技術を応用して作った、鉱石を君にプレゼントしようとしているんだ。恨んでいるよ、この魔性の女を。現状的にライズを裏切って涙一つも流さない筈なのだから。
「イーター、君へ魔核鉱石を注入するよ。もし子を宿したら名前は・・・」
「そうね、名前はビードでどうかしら?」
「え?」
「だって“イグル”って名前だと本当にあなたと繋がっているみたいじゃない。そんなの嫌だから、折角だけど私はあなたの指示など受けないわ」
「ちょ、とォ・・・そうじゃなくてねぇ」
「ふん、昔みたいにいくとは思わない事ね。万が一、融合する事があると後々あなたに大変な思いをさせると考えるから、親切心で教えてあげているのよ??」
「んと、えっとォ、君に魔核鉱石を注入するのは腕と子宮のところだよ?そこから子供を宿すんだ。すると人工生命体として誕生するから、それを新天地計画の礎―パチンッ」
「一言でいうわ。“やめておけ”・・・と」
「は!そ、そうだよォ、僕がイーターを傷付ける訳ないじゃないかぁ!ゴスッ―、ん”?」
「さて・・・その弄っているハレモノは締まっておきなさい。汚液がうつるわ?」
仕方ない。彼女を眠らせたのち、魔核鉱石を注入しておこう。睡眠麻草液も仕込んでおくか。一応彼女だけでは計画実行に支障をきたすかもしれないので、ミヘルにも同様の手筈で仕込んでみよう。僕の研究材料、実験生物にさえ成ってくれれば無駄にはならないだろう。ライズはどうしよう。そうだ、汚名返上に向かうのだから、他の民にも魔核鉱石を仕込んでおこう。まずは議員と七つの騎士を動かすことが重要だから、策を練ろう。
僕は直接的な対決(性交渉)は望まない主義なんだ・・・。
だからもっと、量産しなくちゃね。
ね?お父さん、お母さん。
“よくやったね”って頭を撫でておくれよぉ~?
えへ!




