Ep64:新国王の技能
時折、スタヴァー様が新王になると、試したくなる事がある話をジグルが行う。ライズは、さも面白そうに話題を広めてしまい、イーターとミヘルを呼んでしまう。イーターは、これまでの教育方針から学びを変えてみようと試みようとするし、ミヘルは己の身を守るための訓練を自分よりも若い子へ教えたがる意識を示す。
何れも、各国への書簡でのやりとりを行うまでに年月を重ね、知能も変化する様に、自らの立場を操ろうと試みる。まるで遥か遠き世界からの意志を最も高い魂へ連ねるようである。
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・ライズの場合
エイドカントリーズには伝統たる儀式が開かれている。
現王スタヴァー殿下の“親代わり”という儀式だ。
それも愛という形でお互いが受入れている。殿下となった第一皇女様、いや、スタヴァー様。偶の休みに俺は彼女を何処かへ連れてゆく。当然ながら城内に佇むある場所でしかないが、ここは侍女も近寄らぬ庭園だ。二人で秘密の話をしたり、大事な約束を叶えようとする意見を汲み交わした。スタヴァー様は「独りにしないで」と呟くと、俺は「必ず戻ってきますよ」と伝える。彼女が「愛は離れても通じるもの」と答えると、俺は「命よりも深い繋がりがありますよ」と伝える。それも約束。亡きマジェス殿下の言伝通り俺はスタヴァー様へ伝えた。すると新たな道の裏には滅びの形が見えてくる。それがたとえ滅びを招くとしても俺は彼女から離れたりはしないだろう。希望が感じられる。そう思えていたのだ。姫、殿下、いや・・・陛下。
「陛下、俺はあなたとの“誓い”を約束します」
「誓い・・・?」
「親でなくとも誓うのです。俺はきっとその魂を離すことをしないでしょう」
「ライズ、あなたはもしや私との“契り”を預言していますね?」
「親は契りを別の形に変えてしまうのです。俺はマジェス殿下へ伝えていました」
「それは“愛”ですね。あなたの魂、記憶、意志、意識の奥底にある象徴、全て知っています。あなたは、私の子、そして神の意志なのですよ。これも“愛”なのですね」
「親心、ですか。長い関係が募ります」
「ええ、きっと私を探して下さいね!」
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・ジグルの場合
僕はスタヴァー様の学問を教える係になった。まずは語学を文章に置き換えていただき、それを数式へと分散させること。そこから図解へ向かわせるという政治理論を示した。
「陛下、どうか“僕の意見と委託を文章へ置き換えます”ように・・・」
「ジグルの意見は西へ移動したのちアスタルファの地まで兵を連れ添います。そこで兵へその場を野営地にするよう伝え各国へ“我が名は正しき王、我はそなたの懐へと誘われん、間違いない”と通達を委託するのです、それから・・・」
「姫、オホン―“僕の意見はありません。是非とも姫様へ委託します”―で、如何です?」
「あら?そんな幼き声でよいのですね?」
「え・・・と、ぉ?」
「では、“意見は委託を求める3=5Clr(3歩は5兵よりも明るい)”を示します―ビッ」
「はぁ、間違い・・・ありま・・・せん、ね―ゴクリ」
何という小娘だ。僕の知能や技能、それに加え才をも超えるような素振りを見せる。僕は第一大臣としての教育係ということで彼女をそそのかそうとした。なのに、僕の痛み、苦しみを軽々と乗り越える様に計算式ですら突破する。気持ちいい、快感だ、等と思わせつつも吸い込まれるその瞳によって僕の浅はかさを理解するための言葉を放つ。好色などと向き合うよりも遥かに興奮し、この服を捥がれたような恥ずかしささえ感じられる。
貴女と向き合うとこう、すぅすぅとするんだ。生まれたての雛のような感覚で、この手中に収めたくなる様な快楽を覚えてしまう。結ばれては離れ、むくりと何かが露わとなりそうで隠す事さえ困難だ。
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・イーターの場合
恐らく11歳の頭脳では料理すら難しいだろうと、私はスタヴァー様にまず材料の分け方を教える。まずナイフで野菜を切り分け、肉を棒に刺し虹の鉱石で得た光源で焼き、鍋に投入、それから45分煮付け、最後は肉を4人分へ切り分け、皿へ野菜をも盛り付けてみる事を提案する。私の声を聞き受けるその様子、なんとも意地らしい姫様だろう。
「イーター、野菜は生だけではいけません。まず鍋に水をたっぷり入れて火を通しましょう。それから12分で取り出し、水洗いをするのです。直ぐに表面の皮を剝きますね。さて、これで甘さを引き立てられ、切り分けやすくなりました。肉は下味をつけるために香辛料と塩を5種類擦り付けます。4分間で血汁が出るでしょう?それを次に炙るのです」
「え、あのお姫様ぁ?何を言って・・・ぇ」
「仕込み、下味、加工、盛付けにおける基本常識です。炙った肉は光源の調節をします。23分で十分ですね。それで布袋で休ませ・・・」
――4時間後
「これで味が馴染みました。イーター、少し雑過ぎる方が後々の楽しみが増えるのです。あまり綺麗に仕込んでしまうと飾り付けさえ、鼻歌を聴かせられないでしょう?」
なんという娘だ。私は“何のために苦労をしてきた”のか。全て王国の血族だからとか若いからという理由で成せる業ではない。負けては居られなくなった私は、新しいメニューを彼女へ伝えていた。その筈なのに、この娘はそれらをすべて身近な料理へと変えてしまう。私はこの方、現王スタヴァー様に対して惚れていた。私の口内から“ヨダレ”が出そうで、鼻が「それを下さい」と動かしていく。眼はその彩へかぶり付くように飛び出しそうだった。なんと美しくも輝かしいのかと見惚れてしまう。これでは私の方が赤子のよう。
「あ、はァアン・・・それを、下さい・・・ジュル」
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・ミヘルの場合
私は現王スタヴァー殿下様へ剣技を教えた。それはしなるがごとく鋭い息をもつかせぬ勢いだ。それを彼女はどの様に受け入れるのだろう。心躍る。
「姫、これは相手から襲い掛かる場合に使うのです!」
「下から斜めに刺し抜くのでしょう?全体重を踏みしめてこう?」
なんと鋭いのだろう。僅か11歳の身のこなしとは思えない。私でさえこの剣技に慣れるまで5年間も費やしたというのに、作法さえ会得してみせている。まったくスタヴァー様には肝を冷やされる。どちらが剣士なのか、これでは私自身が抜かれるではないか。
「私はあなたの恋人を知っています。このように―、それ!」
「そ・・・っ、それはインフェニス・エッジ(8字の円舞い)ぃ~~!?」
「その人の名は、彼と同じ名前、今は何処かの領主―、く、えい!」
「ちょ、バタエティ・マッシュ(蝶の壊脈)――ッ!!」
未だ私でさえ習得に鍛錬の必要な剣技を彼女はあっさり遣ってのける。なんと美しくしなやかに光っているのだろう。円を交差させ相手を惑わす、或いは飛ぶモノへ重心を掛けて一気に突き上げる動作、殿下の体重では小動物にかすり傷をつけるのがやっとの筈だ!
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彼等は、この様にしてスタヴァーに巻き込まれる形となっていた。
小さきながら、作法や腕前を駆使しなくとも、自然と現れる生命の頂きが彼女を中心に駆け巡る様に連ねて往くと、彼等は今までの出来事など「どうでもよい」と認めを得ざるなかった。
・スタヴァー能力総評価会議
これ等の能力を確かめた事から、現王ヴァン・スタヴァー・ディルタ陛下の今後を占う事となる。俺達4人のスタヴァー殿下に対する総合評価を行う。だが何故かその姫様だった方がここへ居る。俺達、特にミヘルが気配を察する前に現われている。
「あのぉ、殿下ぁ~?なんでここに居るんです?」
「僕は・・・少し考えさせていただきたい・・・」
「私はいいわよ?だって姫様って強才の持主だし」
「そうですね、スタヴァー様は騎士すら危うくて」
そう、誰も彼女の成長を止める事は出来ない。何故なら彼女は才を超える神の素質を持ち合わせ、“大いなる意志さえ貫く”だろう。その眼は相手を見抜き、その鼻は何者にも動じない核心、その口は国さえも揺るがす高き声、その耳は民の声すら尊敬に値するだろう。
「なるほど、私スタヴァーは一国の中に居るにもかかわらず、皇女としての役割は少なく、強くこの庭園から脱走する事を考えており、見張りに来た七つの騎士へ近付くのも危ういですね?それならあなた方が街へ連れて行けばよいのでは?現国王のお通りだと」
マジェス殿下、俺達は彼女を甘く見ていた。亡くなる前にこれが約束なのか教えてほしいと手を前にかざしそうになった。唯々、彼女に説き伏せられる俺達はほんとうに、親代わりが出来るのだろうか?本当に教育者として如何なものだろうか?姫は俺達に少しだけ自信を与えてくれたのに不振に終わりそうだ。度々続くであろう総評価会議とは何だっけ?
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・ゲーム
ライズ、イーター、ジグル、ミヘルの4名で暇つぶしに戦略を練る形を執る。
頭脳が働かないライズにとってイーターの注意は、ジグルの指摘によって、ミヘルが心理を読むという流れとなった。
“カッチ、カッ、カチ、タ―ッ・・・パチ、ン―・・・”
「ねぇ、聞いている?――カッ」
「何を?――パチン」
「ライズはこの配置が分からないの?――タ、ツン」
「なんだよ、集中できないじゃないか~コトン」
「落着きなよ、これは計画なんだよ―パチッ」
「まったく・・・あなたは駒の位置も分からないの?ほら、右だったら私は左よ」
「う~ん、いつの間に?俺はさっき左へ駒を置いたのに何が起きているんだろう?」
「君はねぇ駒を置いたつもりだけど相手が見えていないんだね。そこは右だよね?」
「あらイーターがまた『見えない手』を使ってるわ。ライズは変わらず童心的よね」
・イーターの心境
ライズはあの頃と変わらない。まるで子供の頃に戻ったかのよう。あの時は私のほうが体が大きかったから彼を手下の様に扱っていた。それが大人になると私は教える側、ライズは甘える側。下手に教えるとワインを飲み手に負えなくなる。今は彼の方が私よりも体も心も大きくて広いのだから刺激し過ぎないようにしてあげないと。
「それは私にもできる事かしら?」
「さてね。僕達にも分からない事がある」
「そう。新たなる新天地の計画に必要な工程を組んで居るの」
誰が出来ようが出来まいが関係のない事。それを分かっていて今回の新天地計画を遂行する話を進めている。大臣達が私の体を貪るように見る事を避けている状況で、ジグルのように情報収集することが出来ない事が悔しい。ライズはその事を分かっていて、私に第二大臣を任せてしまったのだろうか、と感じる。
「第二大臣の御勤めご苦労様です」
「いえいえ、私は殿下の世話係をしている訳で、何も問題ないわ」
「そう。イーターは問題ないのですね―パチ」
「ちょっと・・・待て。一人多くないか?」
そう言えば私は子供が欲しいと思っていた。好きな人の前なら大きな態度でモノ申しても構わないと思った。殿下のように小さな妖精が訪れると、どうしても二人で同じ基盤の上で駒を動かしていたに違いない。
「私はね、子供のようになりたいと思った事があるのです」
「はぁ・・・子供のように、ですかぁ・・・」
「そう。丁度、イーター位のお姉さんが、私の母が身籠った年齢と同じくらいだったのです」
「なぁ、イーター、お前の番だけど・・・手強いぞ?―カチッ」
そう。私の前に立つことはそれなりに準備を終えたという事。あなたが第一大臣から抜けて騎士に選ばれたとしても、この心、意志は大事にしておかないと新たな計画の中で居なくなった時に、私は私で居られなくなる。虹の鉱石の事だって、他で流用されているという位で、私達の間は流用出来ない。
「イーター?今日は難しそうなお顔をしているのですね」
「そうね。今の私は難しいわ」
「ライズ、ジグル、ミヘル?チェックメイトよ」
「は、はぁ・・・」
今頃になって気付いた。もしチェックメイトなら既にこの新天地でこの身を埋めている。万が一の事が起きればライズ、あなたは只で生きて帰られない。でも、一人くらい・・・はね、いいでしょう?
「ええ。一人くらいは構わないわ」
「そうよね!一人くらいは構わないわよね!?」
「おい、イーター・・・君、誰と話しているのか分かっているのかい?」
「殿下、失礼しました。イーターは鈍いのです」
え・・・?
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こうして、ライズ一行の戦略はたった一人の小さな妖精によって見守られたのである。まるで、歯が立たない事に挑戦し得るのだとして、お互いの意志を連ねるのであった。これで、スタヴァーの能力評価は非常に高いことを理解するエイドカントリーズであった。




