Ep61:裏切り
「ライズ殿、通達です」
俺の思惑とは一体、何処へと向かったのだろうか。かつての離反よりも近くに寄ろうとしているこの感覚を忘れることは出来ない。この書簡の意味を噛みしめて、一つの流れを裏切る出来事が密かに行われようとしているとは、予想だに付かなかった。それでも希望を持たなくてはならない。虹色の姫君ヴァン・スタヴァー・ディルタ、愛する人よ。
~4か国、審問会議において~
ライズ・フォングラン一行殿。
エイドカントリーズの主軸、ヴァン・マジェス・ディルタ王の悲報、慎んで生命の根源たる意志への繋がりを称えんことを。
さて、貴国は次代の王として第一皇女と新天地計画における審議を唱えるとしている。また、新たなる大地を求めんがあまり、各国における書簡を手違えたとする。各国の内、ダイヴァー、ギュネズ、カーフ、ダネル王国のほうでは虹の鉱石の技術を転用しているとのこと。貴公は各国の先導者であり、要とされている。
だが、この度はジグル・ウィナート及び、ミヘル・アントレアをこちらへ向かわせたとする記述がある。元々、地上大陸ランガスモーにて虹の鉱石を分け与えたのがこの新天地たるパヘクワードである事には変わりない。審問では亡国パイルが関わるとする。
如何にして虹の鉱石の分配を行うとするのか、直ちに返事を待つ次第。
また、各国を巻き込んでまで貧困たるパヘクワードを救うのか真意ある返答を、第一皇女より行われんことを願う。
――――
俺は通達を確認すると、各国へ赴く事となるが、この幼いスタヴァー様との計画遂行に一通の書簡を作成しなくてはならなかった。それに、まだ葬儀を済ませる前である。彼女の民に対する心意気、世界を見据える神童たる様子。どれを取っても隙がない。だが、ほんとうにそれでよかったのだろうか、と心配の目を彼女に向ける俺だった。
「スタヴァー様お一人では抱えきれない状況では?」
「いいの。私はあなたに守ってもらえた。それだけで幸せです」
「いつでもジグル大臣に相談して頂ければ、何かと役に立てると・・・」
「ありがとう、ライズ」
書簡の示しはスタヴァー様率いる、秘書官によって準備された。いずれこの国を守るために筆頭しなくては、今後の成長と更なる上空への対策が出来なくなる。王座を新天地計画を継承した、亡き、マジェス殿下の想いが一気に彼女の肩へのしかかる。
「スタヴァー様、ご無理を・・・」
「いいの。ライズ、出来たわ」
「お疲れ様です。では早速拝見させて頂くことに・・・」
―王国エイドカントリーズ、新王ヴァン・スタヴァー・ディルタが示す―
新天地計画における案件
前告に変わり、虹の鉱石の分配方法を変える事をここへ申し出る。
確かに我が国にはパヘクワードに求められる浮力が、更なる上空のモノに準ずるモノではなかった事はこの書簡を以って謝罪する。しかしながら虹の鉱石は中身でなく外の硬度を重点に置くことで更なる上空への浮力に準ずるモノだと分かった。
まず、我が国の調査兵を派遣したところ、各地に埋められる虹の鉱石が7割少なく見積もられた。
次に、虹の鉱石の硬度を純度に置き換える事で僅か¹4.5hgのみで10名を更なる新天地へ送ることが可能だったと判明した。※¹hgはznの12倍の質量。
ダイヴァー王の返答から蝶は腕の皮を利用しているに過ぎなく、虹の鉱石の分配量を更に増やずとも、僅かな鉱石の成分だけで民3,450に浮力を与える事も可能。
カーフ王女の返答から有意義な内容であれば、0.1hgの分量だけで装飾品へ多くの微生物を薬品にすることも可能。
ギュネズ王の返答から発想を転換すれば、虹の鉱石の浮力を各兵士、民の衣服へ転用する事も可能。
ダネル皇妃の返答から子供じみた事さえも受け入れるのであれば、自然再生の技術が自ずと大地の空気を取入れられる事も可能。
このことから軽く運動する程度で、脱落する大地を復興へ導くことも出来るだろう。
先代ヴァン・マジェス・ディルタ王が再び時を駆けるような新天地計画であるが、各国とも協力を是非とも要請したく再び参上した。
――――
「ご苦労様です。姫様。では、これは俺が預かっておきますね」
「頼むわ。私の愛する人・・・いえ、お父さん」
姫様はかなり無茶をされるご様子。俺は早速詫びを入れる為の4か国へ対する書簡を持って、ジグルと相談する事にした。何れにしても俺が今、大臣から外れて姫様からも離れてしまい、新天地計画での主役を彼に任せなければ、俺でもこの計画における問題を解決できそうにない。大丈夫だ。イーター、ミヘルも居る。
一方、ジグルと議員が、何らかの話をしている事を俺は知らない。あいつの事だから自らの身を呈してまで彼等との交渉事を円満に持ち込むだろう。ジグル、お前だけが頼りだ。
「――以上の点からして、私はライズ・フォングラン大臣の代わりに第一大臣を引き受ける事にしますが、異論はありませんね?」
「おかしいね。新天地計画を成就させられない決議がもたらされたというのに、未だに諦めが付かないのかなぁ」
「オホン!ジグル第二大臣の仰るようにライズ殿に身を預けるのはどうかな?私としては虹の鉱石の運用原理が分かれば、技術提供などほかの国と連携して、使用するのが得策と思われるし、この大地を浮かせるエネルギーを再び滅んだ地上から得るという形で構わないと考えるのだよ」
「しかし――」
「私も、ジグル大臣の言う通り、ライズ殿に身を任せて、ジグル殿の代わりにイーター殿に第二大臣への昇格の機会を与えるというのは得策と思われます」
「ディナール、君は?」
「議員の私めが?いえいえ、構いませんよ。フォングラン殿に任せてしまえば、あとは私達で話を固めていけばいいのだから。ねぇ、ウィナート殿?」
「では、これにて決議する」
俺はジグルの指示を待ち、再び地上大陸の方から向かう事にした。
そして、マジェス殿下の葬儀は盛大に行われた。
殿下。俺は今、成長しているでしょうか。
もし、そぐわぬ結果になれば、俺を――
―――意志が迷っているのだな、王よ。
私はお前に任せたばかりだぞ?この、大いなる意志に従い、お前も運命を受入れるのだ。そうすれば、遥かなる旅路へと向かうことが出来るだろう。記憶と宇宙の起源に従って見守っているよ。魂が彷徨わぬように。
突如、マジェス殿下に近い声が脳裏にこだました。
それも、近くに居る様な感じが伝わる。
殿下でない、誰かの声で、何者かの意志が流れて来る――
「ライズ、民達の前よ?」
「あぁ、イーター、すまない」
「あと、ジグルから指示が来ているわ」
「うん」
―ジグルより―
ライズ。大臣と議員達へ虹の鉱石のエネルギー供給技術を提供する様に、と言葉を連ねてみた。議員達の6割が賛成で、大臣達の9割が異論なしと言っていたよ。まずはダイヴァー、ギュネズ、カーフ、ダネルの4か国へ向かう前に地上大陸ランガスモーの軌跡を追うといい。期間的には問題ないし、君なら大丈夫だろう。
――――
ジグルの言伝である指示書によると、古来からパイルは預言たる出来事を観測していたそうだ。そして、史実に在るような闇の出来事についてやや、詳しい様子。学士オード・ナスワイは生きていないため、マイクオ・シーブルに尋ねる事になるだろう。
「ライズ、大丈夫ですか?」
「あぁ、ミヘル、大丈夫だ」
「スタヴァー様は私達に任せて」
「ありがとう。頼むよ」
だから、姫様・・・一時の間、俺が居ないからと言って「愛して」いないと思わないでほしい。俺が旅経つそこへ、貴女との約束は絶対でなくとも果てにある事を願う。
――卿。首尾はどうかな?
――えぇ、滞りなく計画に向かっております。
――流石、自慢の才を活かせるだけの事はある。
――まぁ、頼もしい仲間が居ますし、穴へ落ちない限りは大丈夫でしょう。
――新天地よりも、あの“魔女”を活かしてはならぬよ。
――無論で・・・




