Ep60:新天地計画の通達
亡きマジェス殿下の遺言。
それは、俺とジグルを大臣として執り立てるという内容だった。
新天地計画を継承するという形で、生前に一筆記していたと、議員達から聞かされたが、不明な理由で事が動くことにイーターが疑問に感じていた。
勿論、俺も不穏な動きと感じているが、殿下の遺言の一つとして、先導者なる俺が受け取らない訳にはいかなかった。
「何だか妙よねぇ。あの殿下が・・・」
「そう?一顔向けた方が各国にも示しがつくと思うわ?」
「いえ。私がいつまで世話係なのかという意味よ」
「いいんじゃないかな。イーターらしくて」
「そうだね。イーターは冷酷で、判断力もいいほうだし」
「ちょっと、あなた達はそれ以外の良点を見いだせないの?」
先導者たるもの、民を引き連れる程の威力はないが、他の大臣に事を任せる位なら安泰に近い道を示すことが出来るだろう。例えばスタヴァー様が次の王となる為に、下作りをしなくてはならない。何故なら、他の議員・大臣の多くはマジェス殿下との交流を妨げてきたのだから、当然そうなる。彼女なら第一皇女としての知識と経験がある事だし、恐らくは計画について何らかの措置を取ろうと奮闘するかも。
「いいえ。私は継承はしました。奮闘はしていません」
「スタヴァー様ァ~、お戯れを!」
「ね、ライズ」
「はい」
「追い出しちゃって」
9歳という年齢の為か、少し我儘でお転婆なところがある。それでも尚、民の事を思いやる気持ちは変わっていなかった様だ。身勝手さは自ずと引いてゆくだろう。だからこそ、マジェス殿下の葬儀の前に、俺は彼女と冒険ごっこのように、城下街を散策したり、城内の庭園巡りをするなど遊び心の様な点を育てようとしていたのだ。
ちなみに、世話係は俺一人と殿下は言伝していた。
「ライズ・フォングラン殿は?」
「ヴァン・スタヴァー・ディルタ姫様と行動を共にしている処です」
王国内に噂が経つほどに、俺達の仲は急速に早まっているように感じる。かつて4歳児の大人の様な振る舞いをする幼き少女は、更なる新天地の希望とならんが為に象徴たる形となって、国民達を城内に案内するように振る舞う。貧困が故に協調的な姿勢を灯せば、自ずと間違いの在る政治体制を整えられるであろう事だろうとして。
―ハァ、ハァ、ライズ様ぁァ~―
「ん?侍女のメシュリアスじゃないですか?」
「えぇ、本当ですね。何だろう・・・」
侍女は俺達二人の前に息を切らせながら、何かの用件を伝えたそうにしている。一体、何が起きたのかと尋ねてみると、俺の故郷のイシュペータス王国の方から一通の手紙が送られて来たらしい。国の領地のアクスドリーマヌ村の平民区アーシュリーとの記しがある。
「ふぅ・・・ん、久しいですね」
「どうしたの?」
「父からです」
父・リディズから手紙を託された配達員が兵士、執務室を伝い、俺の方へ渡されてゆく。以前なら大臣を通しての通達だったが、大臣に昇格した俺に直接届くことになった。父は俺にこの様に伝えている。
~リディズ・フォングランより~
ライズ、お前にもそろそろ愛する者が必要となるだろう。なに、家族は元気だ。そうそう、お爺ちゃんとお婆ちゃんと母さんは最近になって畑を作っている。私が仕事に行っている間にだ。そして、お前の弟のイルンと妹のエーシャも元気にしているよ。イルンは兵士になると言って出て行ったし、エーシャは結婚相手も見つかった。心配ない。ある程度の貧困なら耐えられるが、今頃新たな王国の使命に奮闘しているのだろう、と思う。何があっても私達は一つだ。お前にも新たな伴侶が出来ていると願うよ。必ずその意志と魂は民と共に――。
(父さん・・・)
父亡きスタヴァー様を傍に、遠く離れた俺の父が、将来的な事を綴ってくれる。子供でなく大人として認められている、そんな気がした。母も弟妹も随分と年齢を重ねている様である。そして、祖父母も。
「あなたも一度故郷へ帰られる方がいいわね」
「ははは、姫様。俺は貴女の元を離れる訳にはいかないのです」
「父の事を思って?それとも私自身を思ってのこと?」
「はい。ご理解の早いところ、俺の母に近いですね」
エイドカントリーズで得られた『貧困と民の流れ』は特に、家族との愛を基軸とする、思いやる心は今のスタヴァー様にとって必要な部分である。永くマジェス殿下や王妃様と別々に暮らしていた事もあり、愛情を過不足なく与える事も大事だと母・フルレが言っていた気がする。
「ふふ、スタヴァー様も何れ愛する人が目の前に現れる事でしょうね?」
「何を言っているのです?既にここにいるではないの?」
(俺は親代わりですよ、姫様・・・)
一方で、葬儀を前に様々な動向が窺える。
他の民の事や、計画を見定めもしない議員の行動が時折と目立って居たのである。
一番適役としていたジグルが議員と大臣の間を通して、俺達との関係を固めようとしている様である。その身を呈しながらも、計画の実行役であるスタヴァー様の命を狙う者もいたほど、このエイドカントリーズにも腐敗の一手が見受けられていた。
「ライズ、ここに居たのかい?」
「今、スタヴァー様と会っていた処だ」
「そう。実はね、この城の中に大臣と議員を取りまとめる様に居座っている者が居てね、彼が新天地計画の失敗を笑っていたというんだよ」
「どういう事だよ?」
「内密者が居たんだ。密偵を使って僕達を追い掛けてきたあの、例の・・・」
「ダイヴァーとエイドカントリーズの仲を引き裂こうとした例の」
「うん。話によるとディナール家が関連して居るらしいよ」
ディナールと言えば、アイザルという議員が居る。彼はアンジェル高等学校の教師に招かれた貴族。働きもしない貧困の政治の間を通していた者だ。彼からはジグルと似た闇を感じられていた。彼が一体どんな関係を?
「彼は“世界の果てにある洞窟”から現れた一族さ」
「ジグル、なぜ彼はエイドカントリーズに?」
「パイルの記録を遡ると深い歴史があると研究員は言っていた」
「確か、ウィナート一族以外は関連なかったような・・・?」
「うん?『古来の民・貴族とは?』に記されていたよね」
「王族と貴族とは“近しい”が、ディナールは金世紀に生まれたとか」
「前に話した、闇の住人という意味でね」
ジグルは大臣との間で、研究施設と王国図書館を往復し、新天地計画とかかわりのある虹の鉱石について追調査を行っていたという。また、魔道の出現から、闇の住人という存在が各国へ潜入しつつもあり、エイドカントリーズの技術転用を行っているとした。そこから何故か、ジグルの口からライト・オブ・ホールのほかにダーク・オブ・ホールという言葉が放たれた。あれは対なるエネルギーで虹の鉱石とランガスモーに起きた太古の文明との関連は有るが、ディナールとの繋がりは何だ?
「人体的に実験の検証を行ったところ、機械的な生命体が開発されている。その中で、唯一ディナール一族がウィナート一族よりも深い歴史を踏んでいて、機械生命体というものを魔道で動かす試験運用をしていたそうなんだ」
だが、ディナールと機械との関りはスタヴァー様が抱える新天地計画の継承と、何ら関係のない話だと思った。
「生命体としての活動源は虹の鉱石から手に入れるものだ。だけど、滅びゆく世界、ランガスモーがパヘクワードを支える程の資源がない事を考えれば、更なる新天地へ向かう方が得策で、人工生命体では抱えきれない問題を機械的に行えば、通常の兵士の15倍、活動できると云うね」
確かに、他国との連携が整えば、パヘクワード側の資源を更なる新天地へ送り込み、民達は着実に宇宙空間での資源を活用できるだろう。だが、それには通常の人体から魂を人工生命体に移植し、機械的活動をさせる場合は人工成体なる身体向上を求めなければならない。それをパヘクワード全ての技術を応用するのに、なぜディナール一族が技術を転用できるのか?ジグルの表情から少しだけ、笑いを含むような態度が見られた。
「ジグル、何故だ?」
「ディナール一族は僕等の祖先で、宇宙生命体とも云われていた。そこで本国パヘクワードでも機械での生命体を実験する事にした。ウィナート一族がパイル王国随一の技術力を持つ訳でもなくてね、ディナールが最も古い生命学理論を解明していたと在る」
では、ジグルのその根拠は?ディナールと言えば議員であるアイザルしか居ない。残念ながら彼は好色ではなく、ジグルとの関りさえない。すると、闇の住人である可能性を探らなくてはならない。だが、大臣である俺はマジェス殿下の葬儀を済ませた後すぐに、各国を巡って書簡の直しを行わなくてはならない。そうなると、俺の代役が必要になる。誰がスタヴァー様に仕える?何か、闇の煙のようなものが俺自身に流れ込んだ気がした。
「ジグル、俺の代役は出来そうか?」
「君は何を言っているのかな。僕は今の立場よりも上になれるかも知れないんだよ。僕に任せるなら、一度イーターとミヘルに頼むといい。ディナールとは僕個人が関わる事も出来るかも知れないしね」
俺はジグルに頭を下げた。このままでは、新天地計画の要として生きることが出来ないからだ。貧困は避けられないものの、長い時を掛ければ、時代と共に成功するかも知れない。今のスタヴァー様ならマジェス殿下に代わり、民達を導くことも出来るだろう。
ただ、ジグルが不敵な笑みをしている点を除いては――。
――調理場の離れで、イーターはこれまでの経験を活かし、王国の栄養指導を行っている。ずば抜けた頭脳のお陰で、少ない食材を膨らませる方法や、味付けの代わりに香りを足すなどの工夫を凝らしていた。そんな中で、俺は彼女に大臣の代役について相談を行った。
「そう。ジグルがそんな事をねぇ」
「あいつが適任とも考えた。だが、お前の方が俺の代役に適任と感じている」
「ミヘルは何て?」
「まだ相談していない」
「そう。じゃあ私が出来る事はスタヴァー様の環境面を教育することになるわ」
「大臣は?」
「ジグルに任せちゃった方がいいわね」
確かにジグルの方が、外部より内部での情報共有と交換が可能だ。姫様の世話役をするとすれば、学問だけになる。イーターは教育係として適任だとすれば、彼女の身の周りから、作法まで教えることが出来る。ミヘルは貴族・王族間での作法、躾、剣技に卓越している。そうなれば、ジグルを第二候補、イーターを第一候補、ミヘルは別だな。
ただ、イーターは調教するような感じがしてスタヴァー様が逃げそうな予感がする・・・。
「そうだよな・・・ミヘルにも相談しなくちゃいけないよな」
「そうそう。ライズ、頑張って!」
――城内の離れに剣技訓練所がある。そこで彼女は必至で剣技指導を行っていた。俺達4人の中で洞察力に優れ、体力自慢も出来る。もう少しで20の年になるが・・・。
―ギィン、カァーン―
“そこ、右、左と変則的に躱す!”
“ハッ、ダァッ”
「ミヘル!」
「うん?ライズ。どうしたの?」
俺は自分が居ない間にミヘルに大臣の護衛役を頼んだ。
ミヘルの剣技さえあれば、魔道を放つ闇の者からスタヴァー様を守ってくれそうだから。
「それを“暗殺者”という」
「暗殺者?」
「大丈夫よ。守りは任せて」
「ジグルとイーターにも確認してあるが・・・」
「ジグルは泳がせておくの。イーターは独自で動ける」
「ミヘル、お前は?」
「暫くジグルを探ろうと思う」
「じゃぁ、俺は――」
新天地を脅かすディナールの存在、科学的な技術を転用した機械生命体、ジグルの動向、イーターの調教、ミヘルの剣技、これらが揃ってしまうと内乱的になりそうだ。果たしてスタヴァー様を守ることが出来るだろうか。
――庭園
「スタヴァー様、俺は往かねばなりません」
「お父様はどうされるの?」
「父のリディズは俺を見守るでしょう。ですから、冒険の話は一旦終わりにしますね」
「うふふ、ライズらしいわ」
「スタヴァー様、失礼します――」
一人の兵士が庭園に入る。
片手に分厚い革状の書簡を持って。
「ライズ殿、通達です」
「俺に?」
中身を見ると、それは新天地計画における案件なる書簡で、ダイヴァー、ギュネズ、カーフ、ダネル各国の様子を窺わせる内容だった。
心境が変わったのか?
とにかく確認してみよう・・・。




