Ep59:七つの騎士
「ではジグル殿、大臣の言伝をお頼み申す・・・」
「うん、任せて頂くよ」
エイドカントリーズでのある時に、僕は大臣の好色に付き合いながらも、今後この国で活動する手段を得ようとしていた。マジェス殿下亡きあと、スタヴァー様が継承するとの報せがあった為にだ。本当は自分の研究に没頭したいけど、目前に“闇”という研究対象が訪れている。その中でも新天地計画を立て直すかどうかも問われている。議員から大臣へ取り次ぐのにちょうど時間を持て余していた処だ。
―コン、コン―
「ライズ、ライズ、居るかい?」
――誰だ?――
「僕だよ。ジグル。入っていいかい?」
――構わないよ。入ってくれ――
ライズは時折、スタヴァー様の傍へ身を置いている。僕達4人で集まる事は暫く無さそうだったけど、取り次ぎ用件がある時はこうして先導者であるライズに報告をする。そうしないとミヘルに命を狙われかねないから。
「ライズ、大臣達は虹の鉱石について、パイルの技術を応用している」
「それで他国との繋がりを?」
「うん、一応はね。ただ、本来なら民の使う衣服などに使えるんだけど、人体に影響しないかどうか、虹の鉱石の再生エネルギーを点滴剤にして注入している様だよ」
「そんな事を?すると、ランガスモーでマイクオ・シーブルのような感じで長寿になる?それとも、更なる上空世界での呼吸が可能なのか?」
「どちらにも変化するらしいよ。只ね、人工生命体として生きるから、通常の人間の寿命を超えてしまうと、脳がその強烈な負荷に耐え切れず破裂はする様だね」
「生物上での生命学理論では臨界点を突破するから、限界線を収めるといいのか・・・あとは?」
「この国には機械生命体が幾つか・・・」
「あの機械生命体の話が本当に?」
「そう。でも、それじゃ人形だよね」
「それは情報不足だ。人形が動くわけが無いだろう?」
「そうとも限らないんじゃないかな」
僕はライズへ伝えた。“人形はどうしても壊れる運命だった”と。
ミヘルだけでは駄目だ。人形は人形らしく居なければ、この国の大地に最もらしい指揮者は現れないだろう、とも伝えた。するとライズから「人形は機械なのか」と聞かれる。更に「お前の望む闇は光よりも濁るのか」とも尋ねられる。殿下、いや・・・マジェス亡き今、闇に隠れる魔道が必要だった。
「さてね。じゃ、僕はこれ位で・・・」
「また、隠している事があればいつでも言いに来いよ」
「ライズ、僕は闇を光に変えるつもりだよ」
ライズの元から去ると、再び表情を変える。
そのままの表情で居ると、逃れられない悪魔に身を浸しそうになる。
僕の身は意志に反して生きている。
人形などに殺されてなるものか。
そう、思っていた矢先に僕は一人の大臣の居場所へと向かう。
情報が無ければこのエイドカントリーズは成り立たない。
他国との関係を知らなくては。
「メヌエール大臣」
「ジグルかァ~!ま、待って居たよォ~!?」
この好色の駒に僕の体は貪られるものの、魂までは売らなかった。
元・貧困だった頃よりも元・王族で貴族へ成り下がった時よりもこの王国へ取りつく方が僕にとって居心地が良い。何せ、才が認められると思うなら尚更だ。
「“カチャカチャ、スッ”――で、議員との対立があったそうだな?」
「はい。僕達4人では融通が利かず――“シュル、スウー”」
メヌエールは僕の言い分を理解してくれていた。書簡を得て、ライズに渡すまでに各国の状況を書き直したのも彼の闇の中での出来事。彼の言う通りにしていれば、他の大臣達にも取り込む意見を述べることが出来る。密かに、このようにして逢っている内に僕の居場所は増えていく気さえしていた。議員を介さなくとも、僕が直接大臣に身を捧げていれば自ずと僕自身の頂きを手にすることが出来る。
駒は駒らしく、人形は人形らしく居ればいいのだとばかり考えていた。そうしないと、亡くなった両親の愛を受入れられないのだとして――。
「ジグル、いやウィナート卿とでも呼びたいなぁ」
「大臣、お戯れを・・・アレはどうしていましょう?」
「う~ん?アレは再び“ドッグ”に入ったよ」
「ドッグですか。壊れたのですね」
――ある一室の研究所には、機械工学を専門とした研究施設とされる設備がずらりと並んでいた。それは王国の地下道に設置された巨大な一室である。パイルのあの迷宮のような場所にも城8階分は在ろうと思われる場所があった。このエイドカントリーズにも備えられている事は、この4年余りの期間の中で知ることが出来た。
薄暗くて、鉄材や動力管が煙突状に設置されている場所。
電圧も虹の鉱石の人工的偽造エネルギーから送られてくる。
「この研究ラボで“製造”された生命は109体余りでした。しかし、人工エネルギーに切り替えた事で遥かに製造した数が減少した訳です。それも被り物が無ければ・・・」
「虹の鉱石で叩いた鉄がそれを守っているのだよね?」
「はい、ジグル様。あの生命体は臨界点を突破してしまう前に“鎧”として防いだのです」
「少し、話してもいいかな?」
「鎖で繋いでいるので、恐らくは」
さぁ、僕にその異形を見せて欲しい。
それは鎧を脱ぐと皮膚を浮き立ちた肉で満ち溢れているのだろう?
話せるものなら話すがいい。
「機械よ。何故お前達は言葉を介さないのだ」
―ヴォヴォおおぉ――ォオ―
「ふん。起動音で話している・・・それも、虹の鉱石のエネルギーの影響か。それとも虹の鉱石自体がお前達を動かしているのか」
―ヴォガあぁ――アグガァァ――ッ―
「まァ、よい。何れにせよお前達の命令はたった一つなのだ。暴走はするなよォ~?」
少し言葉を継げるだけでこの反応。恐らく抵抗と矛盾する動きを放とうとしているのだろう。人体としては恰好は良いけど、命令に逆らえないような“記憶媒体”を脳に埋め込んでいる。今まで生きていた鍛え抜かれた兵士の末路だけど、民達はコレに逆らえない。
「ねぇ、これのパワーはどの位なのかな?」
「通常の兵士の15倍。剣技などでは騎士の更に上を行くでしょうが、制御は・・・」
「ライト・オブ・ホール」
「はい。計画に順応するレベルには制御可能ですね」
もしまともに動くなら、ミヘルよりは使えそうだ。万が一の命の保障にはなりそうだし、いっその事、これほどの数が量産されるなら、恐らくは大陸中を支配する事さえ出来るだろうか。使えればの話だけど、遥かなる上空を支配するなら、僕は僕の支配を行いたい。今は無理だとしても。
「それで、パイルの技術を使ってみて、コレは何という位置付けにしようかな?」
「そういえば、スペクティラー様が亡くなる前に、パイルから得た暗号があるそうです。たしか、あの時は10の世界線と言っていましたね」
「10の世界線?」
「はい。その数番目に闇が潜むとパイルの伝記には語られていましたが・・・」
「7番目かな?」
「ああ、そういえば7番目とか・・・」
ああ、上手く動いてくれればその暗号で呼び続ける事を許すよ。
――――七つの騎士と。




