Ep57:さいごの約束
各国との誤解を解く前にエイドカントリーズ内の政治が破城する。そして、マジェス殿下の放った新天地計画に亀裂が走る。俺との深い記憶の奥底の中を探ると、殿下自身の容態が急変し、娘のスタヴァーを後継者として選ぶと、王国の未来が固まる予感がしたのだった。それが“約束”である。
俺とジグル、イーター、ミヘルとの今後について王国の未来を占った。恐らくは闇の存在たる災厄が蝕んでいると、内乱さえ予感させる。殿下の安泰・平穏を願うと、更なる不安を過らせる。何故に同じ意志が生まれ、俺達の様な生命に宿っているのか、遥かなる上空はそれを見守る様である。
そんな思いにふけっていたある日の事・・・ミヘルは「時代の流れに反して、民達の意識が変わろうとしている」と告げる。同時にイーターは「変化の兆しがこのパヘクワードを包んでいる」と表すのに対してジグルは「貧困を救うという理想よりも、このまま静かに見守る形が望ましい」と失態を持ち直す様に意見する。
時折、俺からスタヴァーを街へ誘って連れて行く。侍女にも兵士にも断りを入れて、彼女のより、自然な形を見守った。城下の街に色んな人々が交差する。貧困ではあるが、王族であるスタヴァーと会話している内に元気になったとか、故郷に戻りたいが、身内の不幸を感じるとスタヴァーが料理を教えて欲しいと聞くと、故郷の味を教えたりした。
まだ、小さな少女である姫様が、王となるまでに民達との触れ合いを大切にすると、民達も「この王なら付いていく」のだろう。それは、政治的な意味でも、兵を交えた話とも、全く異なる意味で魂が繋がるという様子。中には懸命にヴァン一族を見守る大臣だって付いている。他の議員や大臣と異なり、光を示すようだった。
「スタヴァー様、お変わりはないですか?」
「えぇ、マキュリー。勿論よ」
「よかった。ライズ殿、姫様を宜しくお頼みします」
この様な対話になるまで長く掛かった。何れは王国だけでなく、全国の未来を引継ぐとして、俺達は彼女に力を預ける事だろう。
――それから1カ月後
“―――陛下ァ!息が・・・くっ、”
大臣マキュリーはマジェス殿下の容態を見て唇を詰みしめる。それほど殿下の異変らしきソレはその体を蝕んでしまっているのか。あまりにもその蝕む変化が速くも感じ取れる。
それに仲間の内、俺だけが呼ばれたのも、あの約束を託すためだろうと、もうすぐ殿下は息を引き取るのだろうとも、様々な思いが脳の片外を突き抜け掻ける。
「ユリヤ―ッ、ハルトルゥ、ヒルディ!医者を!」
“フゥ、ハァ―いいか―ウゥ、あの子との――約束だけはァ―ぐっ!”
俺は殿下の傍に寄り添った。余りにもその手の血液の通る箇所から、漆黒のような斑点を滲み広げてゆく様子がとても速く、マジェス殿下自身が辛く感じられる。その寝床の端にはスタヴァー様も見守るような眼差しを彼に向けている。
「殿下、俺はここに、彼女もここに・・・さァ、姫様・・・」
「お父様・・・蝕むそれは光体でなく闇体なのです・・・」
それはライト・オブ・ホールにも浸食したであろう漆黒の線である。そこから漏れる電磁波が流れるとかなり遠くの生命をも蝕むとされているそれが、闇体と聞いた。だからもう、マジェス殿下は間もなく息を引き取るだろう。俺に眠るであろう王の魂に呼応するかのように。
“ス――スタヴァーか――!ゥぐ!ライズゥ、頼む―ゥア!”
「殿下――、俺は、ここに居ます―ッ」
“ど、どうか―ゼェゼェ!忘れないで――いでぐでぇ――お”―王よォ!“
「はい、俺は忘れません!たとえこの身と魂が変容を迎えたとしても――ッ」
“良かったあ―・・ァ、が――、ハッ―・・・カ、クン”
「くっ、マジェス殿下・・・やがて“再び”を」
「・・・父上ぇ・・・」
大臣、侍女、俺、愛娘に寄り添われ彼、エイドカントリーズ国王、ヴァン・マジェス・ディルタ陛下はその49年の生涯を魂の変容として遂げていったのだった。俺達も彼の意志を受け継ぐ時がもう、間もなくやってくる事だろう。
「お・・・遅かった・・・陛下ァァァァ―・・・ッ」
「ええ、殿下の意志は・・・きっと次代へ、きっと!」
――我、闇の集いし虹の化身よ、形よ、魔道の光を放つのだ・・・
この国を闇の狭間へ誘え―――騎士となれ―――ッ!
・・・闇へ向かって眩き閃光が放たれる!
―――貴方に代わって俺が、スタヴァー様をお守ります!
だが、もう腐敗するこの地から貧困を救うことさえ叶わぬことを知ると、俺の目的はただ一つと成っていた。
このまま、闇に支配され、終わる事は“赦されない”として――。




