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Ep53:約束


「哀しむな」

「しかし、俺は」

「君は英雄だ」

「お約束できません」


 約束――それは絶対的で完璧な人生とみなされる行為であり、時の流れを通して輝くものとするものである。

 人類とされる民は、稀な復活を灯す機会を作り、王族を含む人々が共に安全に暮らし、貧困に苦しまないようにすることを約束した。この過程を通じて、我々は静かに、人類が完璧な世界を支配し、大切な家族と導きを失うことなく見守るだろう――とした。


 俺達4人が新天地計画の要となってかなりの月日を過ごしていた。しかもその間にマジェス陛下自身も兵を連れて遠征し、遥かなる地へと向かっていたという。場所はオノコー高原という場所であり、放射線状に輝くライト・オブ・ホールの場を以って身を清めたとしている。だが、それから次第にマジェス殿下ご自身の身体能力が衰え、王国の研究者によると身体記憶能力まで低下し、細胞レベルで肉体的な再生まで出来なくなるという病に掛かってしまったとも告げる。通常は怪我などすれば、虹の鉱石で出来た軟膏を擦り込めば治ると言うのに、これは何度擦り付けても治らないと、研究者から証言された。エイドカントリーズに佇む虹の鉱石のたまり場でさえ、肉体の再生を施す程のエネルギーが無いためだともされている。それは各国での実験にも同じ事が言えるのだ。


 焦りが隠せない。もしも殿下の寿命に関わるのであれば、新天地計画の進行にピリオドを打つ形となる。そして、久しく会ってない第一皇女スタヴァー様や、その一族だけでなく、民達が貧困から救われる事も無く、俺の目指した事が全て消失する。


 ああ、マジェス殿下。あなたは何故こうも年齢よりも先の出来事に首を突っ込むのかと感じてしまう。


「天命は近い。くれぐれも彼女を、我が姫君を頼んだぞ」

「はい、仰せのままに。あの日が来る時まで、俺は殿下の示す計画を」

「解放されることを祈る」


 ――――


 解放。それは時を遡ること、俺がマジェス殿下に呼ばれて二人で話し合う時に在る。彼は新天地パヘクワードの調査報告を鑑みて議員達の様子をも見越し、統べたるこの血を絶やすかもしれないのだと俺に語り始める。もしもこのような形でなければ俺達は―――、


――――――カッ、カッ、カッ―――


 俺はマジェス殿下に呼ばれて個室で落ち合い、お互いじっくりと話す機会を設けられた。そして廊下を歩きながら、これまでの状況を整理する事を考えた。ジグルがミヘル自身に書簡を記させたのに各国の真意なる答えがまるで見えてこない。隠したか、破棄したか、いずれにしろ様子見である。俺はマジェス殿下の横顔を窺いつつも各国へ赴かなくてはならない。


―――ピタッ―


“―――さて・・・ライズここが私の書斎だ。ここの部屋で暫く話でもしないか”


“――はい、殿下・・・仰せのままに・・・”


 そう言うと、殿下は自身の後ろにある木の椅子に座り始めた。

 俺も用意されている椅子へ腰を掛ける。

 そう。ここは静かだ。


――――カタンッ


『ライズ・・・ここで言うのもなんだが、よく決意してくれた!』

『はい、マジェス殿下の意のままに・・・』

『だがな、国は、世界は・・・、間もなく大地と共に崩壊してゆく・・・』

『確かに、この計画案では現実と嘘を分ける事になるでしょう』

『それは私も君も彼等もスタヴァーも、そしてこの大地に棲むすべての民や生物も自然すべてもだ』


 マジェス殿下からすれば新天地計画における各国の返答は、滅びを再起へと導く手掛かりが散りばめられていたと言っていた。だからか虹の鉱石を以って更なる上空を目指さんとしているのだ。再び各国の人々がその計画に手を挙げるなら喜んで、という意を表した。


『そして君はそこへ行く。すべてが崩壊し別の世界線で再建を成すのだが果たして君はそこから還ってこられるかね?』

『はい、殿下。俺はそこへ向かい、必ず還ってきます。それは俺がこの世界線まで来た使命であるのです。恐らく光の王と闇の住人もきっとそこへ向かうでしょう』

『君は・・・?ライズよ、君こそ大いなる意志に従い世界線を越えてきた存在だろう?』


 一瞬の出来事であった。何故か俺達二人の空間は蒼黒い小さな灯達に彩られ、遠き意識の奥底にある記憶を定めていた。どこか懐かしくも冷たくて熱い火の中にその身を追い遣っている様にも感じ取れる。何が起きているのだろうか、と。


『ライズ、覚えているか?』

『勿論です』


 ―俺と殿下も胎内の星。

 ――世界線を越えてきた存在。

 ―――大いなる意志とは何かを訴えてきた。


 マジェス殿下から新天地計画のことで召集を受けて以降、壮観なる景色を歩いてきた。次第に自ら宿る魂をも感じるように。それがライト・オブ・ホールとダーク・オブ・ホールの相反する共鳴により浮き出した模様。それを殿下は“最古の王”とも“眩き王”と示していったのだ。


『では聞くが、王としてあるべき姿は何たるか?』

『民を先導し、共に慈しむ姿です』


 ――――そこで俺は生まれ、崇められてきた。

 ―――――そして星々に見守られ、交信を行ってきた。

 ――――――この様な形へと変容を遂げてきた。俺はあなたを憶えている。


『だがこの国の英雄でもあるとも私は君へ言った。そこに偽りはあるものか?』

『すべてが“嘘”だと信じたいものです』

『この世界線にある国も大地もすべて次の世界線へ向かうが、”眩き王“よ、果たしてそれでいいのかね?それとも君は神の意志に導かれし存在なのか?』

『はい、俺が王である以上、役目を果たすため彼等と崩壊と再生が繰返される』


 マジェス殿下から感じられる王の存在以上の遥かに広く強い意志をこの身に通された。戦いの日々、交信と共鳴、そこから生れてきた生命と発明の産物、これ等を飲み込む崩壊と再生とは如何なる夢と罪をも赦してしまうだろう。


『俺はもう決めています。それが神の意志の導きだとしても』

『ほう?』

『・・・しかし引っ掛かります。それはスタヴァー様の事――』

『あの子は神の巫女であったね』


 俺は『はい』と答えていた。畏怖の世界線、ジパン・バルラーという遥かなる文明と依り代、人工生命体の由縁が、なぜこの世界線に漂う事ばかりなのだろう。勘が働く。それがライト・オブ・ホールから呼ばれた端切れだったなら、それをどうして広げられたのか、あのイーターの毒の話を思い馳せ、更なる遥かな記憶を遡っていた・・・。


『なぜ親の私でも気付かないうちに強く居られたのだろう?』

『議員達の事でしょう』

『あの“闇の住人”である議員達の様子もあまりよく思っていない』


 ジグル、そしてアイザル・ディナール・・・。いずれも闇を抱えていて、闇を取り入れようとした。研究所も注目するライト・オブ・ホールとダーク・オブ・ホールから発せられる遺伝細胞がこの、新天地に降りては、破壊を繰り返す。


『確かにスタヴァー様は監視されていました。彼女に宿る“光”でしょうか・・・』

『そうだよ。だが、なにかこう――、私も引っ掛かるのだ』

『それは?』

『あの子は生まれた時から神憑りな波動をいくつも宿しているようなのだ』

『はい、彼女は神の巫女ですから』


 記憶は更に深堀りをする。彼女はある魂と結ばれる以前から、神憑り的な光を宿していた。それが世界線という宇宙を超えてまで自らの意志を様々なる生命へと宿していったのを俺は覚えていた。それも大いなる意志の一部であるとして。マジェス殿下がその波動を感じ取れるのは、恐らく親子の様な関係だからだろうとして――。


『でもこの先――たとえば今の彼女が”イデア“と呼ばれる日があったとしても、それはライト・オブ・ホールの変容なので大地の崩壊と共に消えてゆくでしょう』

『私の“意志”をスタヴァーが引き継ぐ。だが議員達はそれを“闇”と挿げ替える』

『ただ、俺が彼女の魂を世界線の向こうまで無事、連れて行く事こそが使命とあるのなら、殿下どうぞ許していただきたいのです。“一つの父”として』

『一つだけ聞く――ライズ。君はスタヴァーをあの世界線にて“愛している”と言っていた』

『愛それは親、娘、妻、人、意志、生命、記憶として』

『それは親代わりでなく、幾つもの世界線を越えてきた者同士だったと聞いた』

『それは殿下も同じでしょう。意志を分け合った存在として』

『そこには偽りはないのだろうか?』

『勿論。だから俺は今スタヴァー様の親代わりとなりました』

『よいのだな?』

『そしてスタヴァー様こそ救世主。”虹色の姫君“となる存在です』

『それがたとえ、変容を迎えても辿り着く――と、』

『仮に彼女が死んだとしても俺は生き抜きます』

『抜き貫く親、虹、死、生という形――か、』

『俺はきっと世界線の向こうで彼女を探すでしょうから―――』


“分かった―――、娘を頼んだぞ、眩き王よ――――”


我が名はエイドカントリーズの王『マジェス』である。以後そなたの『力』となる者だ!

―――――その力はそなた等の変容からいつか解き放つであろう・・・・・・!


そして、神々の末裔ヴェシェベルだった意志である。

貧困から闇を取り去ろう――。


 俺は「愛」について様々な形がある事をずっと感じていた。それがだんだん魂として近付くのを捉えていた。マジェス殿下から託された未来という形は、娘スタヴァーを想う心に置き換えていた。彼女は9歳となる。俺がそれを愛と呼ぶなら仲間も民も王族さえも飲み込んでしまうだろう。遂に俺とマジェス殿下を包む空間は更に深みを増していたのだ。


『我が娘スタヴァーを愛しているという君へ未来を託そう』

『娘として愛して居ます。ですが議員達から感じ取れる力は何でしょう?確かに俺達は新天地計画を遂げてきたつもりです。ですが、各国からの返答は新天地を独占するマジェス殿下に報復を与える事を訴えています。それで万が一処分されるとしたら?』

『彼等は闇と呼ばれるが、決してそうではない。彼等にも光を宿している処がある。だが彼女は虹の力を宿している。それは闇から光を見出すモノだ。しかし君も王の魂を宿しているのだろう?闇など照らしてしまえばよいのだ』


 闇を照らす、光を灯す、そこから抜けた先は果たして眩しい新たな世界線なのだろうか、ライト・オブ・ホールの干渉により、マジェス殿下を取り巻く空間が俺を巻き込むだけでなく、更なる深みが俺達を襲った。


『確かに。するとこの生命、自然、土地を支えている虹の鉱石の集合体をライト・オブ・ホールへと近付けなくてはなりません。それが虹と王の力なのです。殿下、今一度のご決心を求めます。やがて変容の時がやって来るかも知れません』

『確かに畏怖なる預言通りであればパヘクワードどころか、私の目指す新天地ごと崩壊するだろう。つまり避難という形で我々は変容を遂げなくてはならぬだろう。議員達の外で話すのだから娘の魂を頼んだぞ。あの子ならきっと、この先、あの地へと結ばれるだろうと思うよ。その道のりは儚く愚かで醜くも果てしない約束なのだ。ライズよ、遂げてみせよ』


 “邪魔者ディスパー”と呼ばれる存在さえも、光を灯してあげたなら素直に付いて来るのか。たとえその記憶が正しいものだとしても。


『はい、あらゆる世界線を越えてでも!』


 ――その晩、俺は夢を見た。


“追っ手が来るわ!急いで飛び込むの。この光と闇の束の中へ・・・!”

“さぁ、いくぞ皆で次の世界線へ・・・せぇの!”

“あああああぁぁあ―――ッ狭間に、闇に、光に潰される―――ッ”

“もう少しだ、きっと助けてやるから絶対にィ離れるなッ!”

“我々は――ッ抜けて見せるッ!”

“光を灯して切り抜けろォッ!”


 これが、俺自身の記憶なのか?

 受け入れた約束によって俺達一行の運命は更なる変化を見せるのだった。

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