Ep52:各国へ対して
「ジグルじゃなく、ミヘル・・・?」
マジェス殿下から各国からの書簡の中身を確かめ合った。裏切りにも近いその内容に慌てるが、信じて事を収める以外方法は無さそうだった。例えそれが真実であったとしても静かに誤解を解くことを優先させる。折角、認められたのに、不遇に終わり貧困を救えないのなら何の為の新天地計画なのだろうとも。とにかく仲間を責めるのでなく、同じ立場・目線から終始を見直そうと殿下から提案された。
“コンコン・・・少し宜しいでしょうか・・・”
「ん、誰だね?」
「俺です、ライズ・フォングランです」
「ライズ・・・、君か・・・入りたまえ・・・」
俺が殿下の個室に入るなり、そこは暖炉の明かり以外灯されていなかった。状況から察するに沈んだ空気とするのだろう。マジェス殿下のその椅子にうなだれた様子を見ていると、かつて招かれた頃を思い起こす。あの時に俺達4人は彼に対してこの命を預け、新天地計画を成功させてみせると誓った筈だ。
“パキ、パチ・・・チ・・・パチチ・・・”
「殿下、何とお詫び申し上げてよいのか・・・」
「よい、よいのだ。頭を上げてくれぬかな」
殿下・・・いや、王が余り見せない表情を俺には打ち明ける。それほど意見に対立が放たれてしまうと、話を立ち直らせるための議論は免れない。もしも彼がそれでも計画を進めたいというなら、俺は力を貸そうと思う。この身は既に王国の為に在るのだから。
「この度の新天地計画、不穏に落ちたのだ。それは我がマジェスの責務だった。それを君達一行に任せた。どういう形で書簡を与えたにしろ、反対意見は免れぬ。次の手を打たねばならぬのだ!・・・すまないが、君に助力を得たい。ライズ、行ってくれるか?」
「行きます。そして今度こそ自分で這い上がるのです!」
分かった。
君の記憶に従うよ――。
――――
一方で、俺達は個別の部屋を与えられていた。マジェス殿下との個室での一件が終わり、イーターとミヘルが俺を呼び出した。ジグルが行方不明となったというのだ。なぜか一人で行動したがる癖がある様で、暫く席を外している気がした。書簡の事もあるし、信じて告げられないため、彼女達に呼ばれた通り、ジグルの個室へ伺う事にした。何か、隠し事をしているのではないかと予感した。
―コン、コン―
「ジグル、居るか?」
おかしい。返事がない。何処かへ出かけたのなら一言でも用件を伝えているはず。それも行方不明になるのなら尚更だ。やはり俺達を仲間とも思っていないのか。裏切られたとはいえ、余り詮索しない様にしようとすればするほど、無理が祟りそうだった。返事もないし、扉が開いていないことを確認する。だが、キィ・・・と音を立て部屋が開いていることが確認できた。鍵もしないまま出掛けるのはおかしい。入るぞ。
「ライズ」
「イーター?」
「何かあるかも知れないから、少し調べてみましょう」
「あ、あぁ・・・」
「イーター、私も調べてみたい」
俺達はジグルの個室の扉をそっと開け、室内をくまなく調べる。その私室と呼ばれる本棚は内容の少ない資料に、木製で出来たベッドが一つ、石で出来た暖炉、書斎とも言えない枯れ木の机や、資料と呼べるような書物も無く、殺風景で、寂しさというよりも闇を感じる。幼い頃に俺と暮らしていた部屋と反転したような物悲しさを醸し出していた。
「ライズ?」
「どうした?」
「一枚しかないけど読めそう」
「ミヘル、頼む」
【ジグルの手記】
――お父さん、お母さんへ。
あれから僕は新天地パヘクワードの世界へ魂の変容を遂げてきた。
え?友達は居ないのかって?ああ、彼はね“特殊”なんだ。どうやら王国の主導者となると謳っていたのだけど、僕はあの頃と変わらず研究と実験に勤しんでいてね、だけど殿下はそんな僕を認めてくれなくて困ってしまって、彼等に相談したらねとうとう手を打てたんだ。そして手に入れたよ。この力で宇宙を超えられるよう願うよ。だから―――
――だから!
どうか、戻ってきてほしい。
どうか、僕と食事を楽しんでほしい。
どうか、僕の姿を見てほしい。
そして――――どうか、
頭を撫でて褒めてくれないかな―――よくやったねって!
「“パタ―”・・・ジグル、そんな事の為に・・・“ギュッ”」
これが、ジグル・ウィナートの記憶??
それは愛撫もない光に滅びた砂漠だった・・・ッ!
もはや、アイツを庇う両親は・・・この世に居ないッ!!
「ライズ・・・これはマジェス殿下に報じるべきよ」
「これを報じたところで、各国との信頼が崩れるとでも?」
「ミヘル・・・」
「ライズ、イーター、私は確かに彼の書簡を代筆したわ。でも、それで仲間の信頼が崩れる訳ではない。それにあの晩――」
――あの晩の小屋にて。
―ハラッ、ヒュウゥ~―
『ぁウァ・・・ミヘル・・・僕の服をどうするつもりだ・・・?』
『“ギュッ―”あなたの被った痛みを解いてあげる。その書簡を以って』
『確かに君に書簡の手直しや、暴行を奮ったかもしれない・・・けれどもし、』
『奪われない事実と奪われる真実というものがあるの。それを才で覆う事はできない』
『じゃァ、僕はどうすれば・・・??』
『これまでの服を脱いで、大臣に就く事ね。そして、これまでの闇を光へ変えるの。命が惜しいなら尚更、私のこれまでを否定しないように“―チャッ”』
『はわぁ・・・わかったよォ・・・きっと君達の意見に逆らわないよう誓うよォゥ!!』
――現在。
「――という経緯があったのだけど、やはり飢えていたのね、習慣に」
「じゃぁ、アイツは誰かと密接しているという?」
「そう。議員、大臣と連絡を繋ぎ結局、私達は新天地計画の要となる。そして、貧困なる新天地パヘクワードからマジェス殿下の通り、どこかへ移るの。だから信じて」
「・・・分かったよ。殿下に報じなくとも事が動くことを信じよう」
この手記を見る限り、ジグルは新たな愛撫を求めて、議員、大臣に取り次ぐ手段を策していた。可能性として、ジグルは己の身をこれまでの痛みと同じ刺激を欲し、自ら築いた頭脳と才で各国を結ぶだろう。だが、俺自身もマジェス殿下の通り、各国へ向かわなくてはならない。
先導者としてアイツを信じて――。




