Ep51:―帰還― マジェス殿下の遺言
宇宙はその記憶の奥底に眠る、強い意志によって分類された存在である。その遺伝粒子における生命から幾つもの星を創り、お互いを貪りつつも文明を発展させてきた。遂には世界線をも乗り越えて、人類の希望たる宇宙の頂きを目指す事を考えた。それも創造主たる神の分身、意志である。
――――
――王国エイドカントリーズの正門前
長い旅、4年間もの期間を掛けた4か国に対する書簡の示し。ようやくマジェス陛下の表す新天地計画についてお互いの意見を述べられた。輝かしい上空の遥か向こうに存在するかも知れない、新たな虹の鉱石のエネルギーを牽引し、パヘクワード側の空中大陸を引き寄せるといった、無謀な試みが伝わっているのかどうか、未だ、書簡の内容は封をされている状態であった。
「先導者ライズ一行の帰還である」
「皆、称えよ」
正門から城下町、城内へと通される。350人にも及ぶ民に迎えられながらも、兵士の誘導によってマジェス殿下の下へと通される。城内は静かで依然と同じく兵士と侍女たちが廊下を行き来している。マジェス殿下は広間の奥の方の玉座に座っていた。
「ライズ一行をお連れしました」
「ふむ。ご苦労・・・そして、ライズ。久しいな」
「殿下もお元気で、相変わらずですね」
「少々老けたがね」
お互いの生存を確認する。
あれほどの年月を掛けて各国の返事を待って居たのだ。
そこでようやくジグルから書簡を俺の手に渡される。
マジェス殿下に俺から書簡を渡す。
その感覚、静かだ。
「殿下、これを・・・」
「書簡の件、確かに」
間に兵士が入り、俺から殿下のもとへ書簡を渡される。
その封を開けずに預かる事にしたようだ。
すると、マジェス殿下は――、
「新天地計画の栄誉を称える!」
と言って、俺達を迎えるのだった。
改めて。
――エイドカントリーズ城下町広場
――――栄誉を称える!我が前へ跪けッ!
「ご苦労だった。君は立派に役目を果たしたのだ。よくぞ使命を果たしてくれたな」
「ハッ!」
何度も広場の王座付近の足元を確かめる。そして俺はジグル、イーター、ミヘルを連れて王国エイドカントリーズへ帰還を遂げた。確かに俺達は新天地計画の為に各国へと向い、マジェス殿下の意を書簡として表明してきた。だが本当に俺は使命を果たしたのだろうか、そこだけが引っ掛かった。それでも殿下は兵と民と共に迎え入れてくれた。
「陛下、これでようやく・・・」
「なるほど・・・これで晴れて計画が整ったのだな。まずは、礼を言わせてほしい」
マジェス殿下のもとへ側近の兵士が一つの手紙を寄越し、書簡の内容を一読するよう促す。確かに新天地計画の準備としては整った。だが各国の返事については、この空の下にある城下町の真っただ中でなく、後にその返事を知らせる様にと言葉を受けていた。あと少しのところで議員達が執拗に議論を繰返すであろう予感をも漂わせる。それならと別の部屋を用意するとマジェス殿下から通達があったのだ。
「そうか、ならば――、私が君の願いを受け止めてあげよう。望みは何かね?」
「議員達に、大臣達に言葉を掛けてください。それも単に言葉を掛けるのでなく、先を読んで欲しいのです。そして、俺の出身地、アクスドリーマヌ村だけでなく、全ての貧困から救ってほしいのです」
「私の命令で動くなら、出来得る限りの事はしよう」
俺は皆の意を纏めて新天地計画の遂行のお礼を受け賜わり、そして望みを伝えることにした。だが、そこで何故かマジェス殿下の顔色が良くない事を気付かせる。俺達の居ない間に何があったのか、そこが気になるところだ。だから俺の報告を先ず伝えさせて貰えないかと、この広場の元で伝えるのであった。それは議員達と仲間の誰かが怪しいからだ。その様な状況で栄誉を受入れる事など、今の俺達には出来ないことを殿下へ伝えた。
「いいだろう、では先程の称賛は一旦取り下げよう」
“ザワザワ・・・一体、どういう訳なんだ?・・・ヒソヒソ・・・”
「民達よ、どうか静粛にッ!では、ライズ一行並びに全人よ!」
「“―ビシッ―”・・・ハッ、国王マジェス殿下ッ!」
「この場の解散を申し出る!」
「ハッ!」
「ライズ・・・後で報告を聞くよ。書簡は一旦、君に戻しておくとしよう」
「ハッ!」
――翌日。
俺は久しぶりに王国エイドカントリーズへ帰還した。必ずやマジェス殿下の新天地計画における遂行と成功を望むため、各国への謁見、下見を行ったところ、各国からよい返事を頂くことが出来たと実感している。その書簡の内容はジグル曰くミヘルが記したと聞くが、城内のマジェス殿下の部屋で確認する事になる。
「マジェス殿下、4年間お待たせしました」
「遠征、ご苦労だった・・・それで?」
「これ等、書簡が各国の返答です。どうぞお確かめ頂きたいと思います」
「ふむぅ・・・」
書簡の内容に対して、マジェス殿下は一通り目を通した。
表情からして少し瞼を見開く様子があり、疑問に思うまでもなく数刻の時を掛けて確認する。その動物の皮で出来た紙が、これまでの成果を指し示す。ようやく、ここまで来たのだと俺自身が実感していたのだ。マジェス殿下もそう感じているに違いないと。
「ふむ。ライズ、君も再び見てみるとよい“サ―”」
“再び見て”とは?マジェス殿下は俺も初見なる書簡の返答に対し、神妙な面持ちを表していた。どうも彼の計画における移民的な要素に引っ掛かりが見られたようだ。それは突然この新天地から更なる上空へ向かうようなもの。どうして虹の鉱石で収集、加工を施し各地へ埋められようか。それに事のほど、危機的な状況だとは誰も気付かないだろう。
「“ス―”では、拝見致します・・・“ハラッ”」
―国王エイドカントリーズ、ヴァン・マジェス・ディルタ国王陛下へ報告―
新天地計画先導者、ライズ・フォングランはジグルの代官とイーターの適切な衛生管理の元、各国の謁見に参上致しました。書簡報告のミヘル・アントレアは欠員します。
ダイヴァー国王は虹の鉱石を横取りし、カーフ王女は自ら独占を掲げ、ギュネズ王は協議後争う姿勢を表し、ダネル皇女は計画を利用し、自然崩壊を促すことを告げられます。
その総兵力348名。
対して我が王国は我ら一行を含め206名。
しかし我が国エイドカントリーズは、人工生命体からなる機械生命体を従えており、七つの騎士の兵力を利用すれば間違いなく勝てるでしょう。
これなら王族、貴族は貧困の支持を得る事も容易でしょう。
我が国が虹の鉱石を巡り、その新天地で同士討ちをするなら各国はきっと、マジェス殿下の新天地計画の破滅を促す事でしょう。どうか協議、検討の程、宜しくお願い致します。
―新天地計画、先導代筆報告責任者ミヘル・アントレア―
俺はジグルの手記による書簡を確かめたつもりだった。
だが、内容はミヘルの名が記されている。
これは、約束が違うと感じた。
話にならないとも考えた。
責任を取るしかない。
――そう。俺個人の責任だった。
「ライズ、責任を感じるのは分かる。だが、一度の事を各国と交わした以上は後に引く事。もう一度、計画の最善策を練ろう」
「ですが・・・」
「これが仲間というものだ。信じるのみだ」
「はぁ・・・」
「後で私の個室へ来るがいい」
これもマジェス殿下の遺言として受け入れなければならない事に、俺は大事な何かを失った気がした。それでも尚、信じる事。それを教えてくれたのは遥かなる意志を通じて示してくれるヴァン・マジェス・ディルタ以外、居なかった。




