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Ep50:手違い

 もう追っ手の気配はしなくなり、俺達は淡々とエイドカントリーズへと戻る。そして仲間という存在。時間の許す限り、4人で雑談をしたり周りの景色を楽しんだりして、書簡を守りつつもマジェス殿下への朗報を試みるのである。だが、時には本当はどういう気持ちで召集を受けていたのかを知る必要もあった。お互いの意志がブレない様にするためだ。


1、ジグルの嘘

 いつもの事だが、ジグルは余計な詮索をしつつも己に嘘を付きとおす。周りから変わった奴だと思われ続け、次第にその闇を深めていった。それは俺たちの目の前でも見て取れていた。なぜ、ジグルが書簡を保管するのか伝わっていなかった。


「ジグルは時々、光るものを投げたり掴んだりするけど、ソレって貰ったやつだよな?」


「そうさ。僕は召集の式典の後に、君達の前で大臣から“金の欠片”を貰ったんだ。あれはね、虹の鉱石と同じ原理で、新天地計画における鍵となるものだよ。コインの形をしているんだけどね」


「金の欠片?鍵?」


「そうさ。僕はずっと虐げられてきた。その内なる声は支配を目論んでいた。君達を利用しようとしたし、マジェス殿下も僕の足にひれ伏せるだろうと考えた。でも、上手くはいかなかった」


「だがもう、仲間だ」


「幼馴染の時とは違うし、計画の要として動いている」


「それでも不満なのか?」


「生命というのは人体的に難点がある」


 どういう意味か、と問えば、話を翻す様に言葉同士の限界を告げてくる。ジグルの中では延々と学問だらけの世界で、天文学を突き破り、己の道を貫こうとしている様にも見える。裏切りに遭い続ける背景には裏切りで返すような態度なのかも知れない。万が一にも俺達を裏切る事があるなら、それはコイツにとって正しい道なのだろうか。書簡の中身も見せられない状況で信じる。嘘を付いても信じるしかない俺の意志が、かつて友として、兄として見ていた時と変わらなければよいが。


「ジグル、幸せとは?」


「生贄さ」


2、ライズの憤り


“スッ・・・トスッ――・・・ギィ―”


『時にライズよ―。このパヘクワードに迫る圧力を感じ取れるかな――』


『全くです。只どういう訳か議員達と民に動揺が窺えました』


『重いのだ、生命というのは自ら生きる故に教えを受けそこへ向かう準備をする』


『新天地計画は空と何の関係があるのです?』


『空に届かないそれを、是非とも届けたいのだ』


 殿下はこのように仰っていたが、どうやら手違いで新天地計画の話は異なる方法へと導かれるようだ。パヘクワード自体の生命活動が活発になり、長く虹の鉱石のエネルギーを随分と消耗させてきた。それを気付いていて気付かない各国の誰もが動揺を示しており、王国エイドカントリーズに移民の問題すべてを押し付けている。その準備の為に書簡を出した筈が、そのまま返ってくるなど余りに問題だ。思う事をあまり顔に出さないマジェス殿下でさえ嘆くことだろう。俺も変わった。以前は貧困と変わらず王国を羨んでいたのに。

 これではいけない。何の為に救うのかを思い出せ。


――問題は案外近くで起きるものなんだな。

「ジグル、何故俺だけ秘密告知にする?一応は殿下の側近なんだぞ!」

「だからね、ミヘルに伝え損ねたんだよ?君が変な顔するからさあ?」


 どういう事だ、彼女は確かにジグルへ各国の書簡を確かめていた筈だ。それを誤魔化すように俺の顔にマジェス殿下を重ねている様にも伺わせる。その書簡を確かめようとするとコイツがそれを妨げ彼女だけに確認させている。お前は幼馴染で仲間じゃなかったのか?


「俺はそれ程に変じゃないぞ?お前もさァ空を眺めてみろよ、その頭脳で」


 少し悪戯を考えた。もし、書簡の内容に偽りがなければ空を向き考えていく。万が一の事があるように、計画には計画という裏切りもある。時が迫っていることに焦りを憶えさせておく必要はある。書簡の事を俺に話さない理由があるのか、ジグルよ。


「あ、ライズほら!惑星ビピュラーだよっ!?」


 なんと清々しい表情か。万が一の事もなく裏切りもなかった。どうやら俺の思い過ごしの様だ。書簡を見せてくれないのも俺が彼等をある意味で従えている為なんだと考えよう。人間なら過ちや手違いを起こすものだし、もう少し体を軽く持とう。


「あれ?何もない―――ぞ・・・。ん?あ、居ない―ッ逃げたな―ァ!?」


3、思惑


 ――そこは草原のある山道だった。


 ジグルが書簡の内容を見せたくないのは分かる。


 だが俺も文を読み解けるようになり、書簡に対する重要性を理解するに変わった。


 俺とミヘルが先導してイーターがジグルを引っ張る。どうやら体力的に問題がある様だ。ジグルはかつて兵士だったと聞いていたが、年齢の割には老化している。


 何故コイツだけが長い旅を経て慣れてこないのか、それはミヘルもイーターも不思議そうに見ていた。


「ジグル、その重い表情をやめたら?」


「イーター、ミヘル、君達には無数の才を感じ取れないよ」


「意味はあるの?」


「この草原には秘密があるんだ。教えてあげよう」


「分かった。聞くよ」


―――この『可憐な花と暦』には大草原に迷うとある・・・


192の年。古びた遺跡にギールという青年がおりました。彼は外に出た事がありませんでした。そこには雨の音しか聞こえておらず、彼の体はツタのように細くなりとても立てません。そこで彼は石畳に群がるコムシ虫を見てしまいます。それ等は道を創りました。道なき道へ円を歪めて直進させていきます。そこでギールはお腹が空きました。コムシ虫を一口含むとなんとも甘くて苦く、それは彼の母の味と似ていました。そこで振返ります。


ギール、お母さんのごはんを思い出したのなら外でも味わって御覧なさい?


203の年。ギールは外へ出たいことを思い出し、やっと家の扉を開けてしまいます。そこには広い草原と多岐なる道筋が見えます。彼は母の言葉に迷いました。もし本当に道があったなら僕は迷わなかったと後悔し始めたのです。そんな時、ギールの前に可憐な花が咲いていました。彼はそこへ鼻を近付けてみると、その身体は土の様に増えたではありませんか。道がどうであろうと姿はギールのまま。道を選ばずとも導かれたのです。


―――終わり。


「――これはおとぎ話だった。ミヘルお前は?分かる?」

「うん分かる。そうなのね。ジグルは何も教えないわね」


“ハア、ハァ・・・ちょっと・・・ヒィ・・・待ってよ、ふゥ~”


「おとぎ話よりも遅いおとぎ話に出てきそうだ」

「私達よりも一回り年を取っているからね」


 そこは“迷いの草原”とも呼ばれる地帯であった。歩く途中に体力を失い進むことを諦めた旅人も居ると噂されていた。マジェス殿下の率いていた地形調査隊から渡されたこの地図では、凹凸状で蛇行、広さも4個体の長屋が3つ並ぶほどだった。それなのにジグルが王国方面へと進む方向とは別の話を持ち掛けてくる。


「なぁ、君はさ、もしこのまま冒険を続けるとしたら騎士の道は諦めるのかい?」


「騎士?まだ話も無い内に?そうだなぁ、あの王国の場合、姫はともかく、実権を持っている連中で保てているし、今は冒険を続ける先導者として生きていればいい」


 騎士の道、それは王族の元で兵を行うことを意味する。そうなれば冒険心や求められた意見に対する自己判断など許されないだろう。そこに人の意志と記憶は不必要とされる。道に迷うとはそういう要素が含まれているのだ。俺に騎士など無縁だろうが、帰還すると?


「何だか腑に落ちないね。僕もあの王国には随分走らされた。人形みたいに」


「俺達はエイドカントリーズに雇われている“七つの騎士”か?なら、人形なわけがない。殿下も認めてくれたろ?」


「そうね。方角を指す羅針盤の針がそれに当たる。磁力を制御できないの」


「ミヘルの言う通り、“人形なら制御できない”わ。道が狂っていたからね」


――――――人形、この僕が?


4、ミヘルの洞察


 変わらず、私はジグルの手記を報告書として纏めている。だけど10字1行に対して1,054項もの文にしなくてはならなかった。なぜそこまでマジェス殿下へ嫉妬するのか、一度貧困の身に落とされようやく貴族の座を取り戻したのにどうして再び自らの手を下さないのか、それが示すものは彼自身にしか分からないらしい。でも私なら分かる。

 彼は私の“器質”によって目覚めようとしている!


――式典の後


“ザワザワ・・・ザワザワ・・・”

『それ本当なのか?』

『もちろん本当だよ?僕は聞いたんだ。計画の事を、陛下の意図をね』

『なぜ、あなただけに計画と陛下の意図が伝えられているのです?』

『確かに変ね。陛下は私達“ライズ一行へ伝える”と言っていたのよ?』


 それは闇。あなたはいつもそう。自分の手柄だけを人へ示すの。その手はお茶の作法でさえ理解し得ているはず。なのに手を汚すようにマジェス殿下の計画を、自分だけに知らせてくれたように告げてくる。そんなに手柄が欲しいなら私をわざわざ使わなくてもよかったのではないの?そのような態度をとるから私はライズとイーターへ話をするの・・・。


「ライズ・・・実はジグルと」

「何だって?じゃあ奴は俺達の動向を調べていたと・・・」

「ミヘルの言う通り、彼は各王国へ書簡を出しているわ・・・どうしようか?」

「今は黙っておこう。いずれ国は変わるだろうから」


 その記憶の奥底に眠る、民を支えていた意志によって!


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