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Ep47:山の洗礼


“まずい、ラーデュの群れに囲まれた・・・ミヘル、僕達は二手に別れよう!”

“駄目ね。あなたは自分の状況を一切、把握していない”

“小娘め・・・”


―――私はジグルと二人きりで旅をしている。追っ手に囲まれない様に切り捌いていくものの、ライズ達と別れている。それで他の隊が到着するのを見計らってくれる。とても覚えやすいのに、ジグルは立場を理解せずに『いや、彼は道を誤ったんだ』と言う。馬鹿ね。


“ラーデュは恐れるモノを好むという、つまらない生き物なの。ジグルと相性がいい”


―――僕はミヘルと二人きりで新天地計画の一端を任された。ライズでなくマジェス殿下ご本人からの申し出だった。ミヘルは“ライズの言う通りなら大丈夫”と愚かな判断だ。人形め。


「君は僕を信用できないのかい?」

「貴方はやはり方向を見失うのね」


―――ライズさえ居ればジグルの指示など受けなくても私は剣を奮っていた。彼は自由を与えてくれる、芯の強い人だと思っているの。だけどイーターはジグルと同じ匂いがする。そして私の剣はそれを知っている。


「私かジグル、どちらの目線が先なのか見測る方が賢明ね」

「偉そうに言う暇があれば、僕が君の剣を奮うよ。フフッ」


―――だからか「ライズが居るからミヘルは言う事を聞かないんだ」と言っていたのは・・・。僕の指示通りに剣を振って食べられてしまえば僕が「マジェス殿下、計画は成功です。僕は次期大臣となって仕えます!」と報告できたのに・・・。


「襲ってくる!」

「見失わないで」


≪やはりどちらかが譲るなんて事は在り得ない!≫

≪その、“記憶”に従って!!≫


“ピシュッ、プッ、シュピッ、ズシュァァ――、ズドォ、ブシュォ、キャイイン、”


「・・・え?」


“シュンシュン、ドスッ、ブシャアアア――、ズパ、パシュゥァア、シャン、シュピッ、”


「フキフキ・・・こんなところかしら。ジグル、ラーデュは食べられるのよ」


―――ふん、たかが護衛だからといって僕が屈すると思っているのか。お前など僕の手駒になればいいんだ。


―――いいえ、貴方の手駒にはならないわ。私が終わらせるそこで、見ていて。


「や、やるねぇ~焦ったよ食材が足りなくて。さあ、手伝ってもらうよ」

「それは導き?教えてほしい、貴方の目的を」


 骨は出汁に、肉は野草と一緒に焼き、香りを付けて味は汗を蒸発させて塩にするだけでいい。そこに貴族と貧困の境は無く、剣を扱うのであれば当然の加工で常識である。余計な言葉を使うくらいなら頭で祈っている方がいい。そうして生き物によって生かされていることが分かるようになるのだ。この“食べたことの無い量の頂き”に二人は今、居るのだ。


“ジュウウゥ――、パチパチパチ、ゴオオ――、ジュワ、”


「残りは“干し肉”にするよ。剣は時に道具となる。これも作法だ」

「剣は汁をも吸う。それは強く固くても頂きに達したとしても」


 命を求めるのは何も剣だけではない。人は誰しも空腹に追い込まれ貪るのだ。この新天地のように対価交換が得られなくとも、支給される命が穏やかな息を潜めていたとしても、二人は信仰を受け、両親の見ない間に食べるという事を学んできたのだ。それがたとえ世間体に縛られたとしても貴族と貧困者の扉は薄くも開いているのだから、生血をも飲む。


“サク、シュ、パク、モク、ブチ、ムシャムシャ”


「君は本当に女の子?まるで野営の獣みたいに食べるね?」


「貴方は本当に大人でしょうか?まるで幼子の食べ方なのですね」


「コクリ、幼子は食を知らないよ。それは蹴られても気付かないんだ」


「では、女の子は裸を知らない。それは危うい場であっても」


「君は新天地計画に招かれた。危ういのに何故選ばれたのかな?」


「危うき事、貴族でさえやがて騎士となるのです。護衛はその足場です」


“パチ、パキ、パチチ、ゴオオォゥ、パチパチ”


 二人は黙々と肉を分け紐で縛っては古い暖炉の煙へ浴びせた。新天地計画は通常の民では過酷な旅。彼等が選ばれた理由はその屈強さと頭脳があってこそ。国王マジェスによって虹の鉱石の調査はほぼ済まされているが、それで崩壊するなら地上大陸ランガスモーへ再び身を埋める以外、自然と生命溢れる中で生きた人類の選択肢はないとジグルは教えた。


“ジュウウゥ――ゥ、モクモク・・・”


「これは干し肉でなく“燻製”ですよ」


「基本さ。やがて風を浴びると干される。とても味わい深いんだ。腹持ちもいいよ」


「貴方は私へそのように文を書かせるのですか?」


「風は園、味は河、腹は道、このように記すんだよ」


「書簡は貴方、文は干し肉、謁見は幼子で試す」


 そのジグル自身が、この少女の才へ驚きを隠せていなかった。丸々暗記するのでなく、指示を使い分けて自ら言葉を使いこなす。遅れたという実感は認めざるを得ない。その尽きぬ意志をジグルは敬意をもってミヘルに対抗心を燃やしていく。だが彼女は少女、彼は大人で親子のような関係。お互い貴族となった今でも果たしてそれは許されるのだろうか。ジグルは濡れた。その有様は過去に追い込んできた兵士時代の上級兵のようだった。


“ピイイ―、グ、キュッ、グイグイ、クルッ”


「ハア、ハァ、肉を縛るというのはとても興奮するね、フウ、ハァ」

「ジグル?心肺蘇生はその程度では行われませんよ?」

「ハア、フウ、えへへ、僕は“おじさん”になったんだねぇ、息が上がるよォ~」

「新天地計画において息切れとは。ここで墓を建てますか、岩で」


 ミヘルはジグルの態度に一切動じなかった。教えは既に護衛時代に“経験している”からだ。たとえ貴族であっても騎士より強く在るのはその経験によって教えを受ける。一方、ジグルは何も知らない少女だと見下していた。大人が何をするのかも知らずに、とラーデュの群れを葬った者へ対する敬意を既に忘れていた。彼女こそ新天地計画をライズと共に受け継ぐことさえも。


「動物とは、息を荒げるので始末しなくては“シュパ、スル”」

「え!・・・見られ・・・た・・・?“ハラッ”」


――――僕の服だけ、頑丈だった筈なのに―――


ヒュウゥ――


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