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Ep45:雪山

 ダイヴァー、カーフ、ギュネズ、ダネルの各王国へ書簡を渡し、返答を貰った俺達一行は、何度も野生生物との遭遇に、あらゆる剣技や頭脳を駆使し、生き抜いてきた。各国への道のりどころか、帰還・貴国に至る道のりの方が遥かに危険を伴う状況に追い遣っている。確かに食料に不足はしないものの、貧困たる中での戦闘と計画に関するプレッシャーは高い。そうこうしている内に季節は変わり、雪までちらつく。


―ザッ、グ、ザッ、グ―

「ジグル、すまん。雪に埋もれてくれ」

「何の事だい?君は雪に未練でもあるの?」

「白雪の伝説を聞いた事があるわ」

「夜な夜な、屍を乗り越えた霊体が旅人を実体的に襲うとの伝説ね」


 辺りは、あっという間に雪原となる。伝説を遡るなら、これ、雪山になるまでパヘクワードにも地殻変動が起きていた。それは初期の創世紀そうせいきなる時代で地上大陸ランガスモーの民が虹の鉱石を一つ一つ浮かせてきた事から、次第に何層もの塊のエネルギーが衝突していた。その層がパヘクワードを造ったとされるが、新天地となるまでに延々と作業が繰り返されたとも云われている。それ等の残存するエネルギーが霊体と呼ばれる現象を表したのは、たった一人の民によるものだが、きんぎんの1千万年という3つの世紀を乗り越えて、宮世紀きゅうせいきとなる今では15の国が成り立ち、80万以上の生命豊かな空中大陸となっている。


「滅んだ文明だと生命の総数は130億とも云われてきたが、上空に浮くに従い、15%に縮小している」

「太古の書物によると生きる為の意志が魂となり、霊体となって浮遊するというわ。それが虹の鉱石に蓄積されて、この世界の星々を浮かせていたのかも」


「生命学理論だと、生きる為に食べ合う習慣があったのだと思う。王国パイルの伝説だと人類に至るまでの進化の過程は、異星人らしき生命が降り立ち、僕達の様な形状に変化させたし、マイクオのように半魚人の形で生き残ったともされるね」


「本当に幽霊なんて存在するのなら、私達もいずれは変容してこのパヘクワードごと浮遊しているのかも知れないわねぇ」


「つまり、俺達が立っているこの地が虹の鉱石の残骸という事になる。鉱石と別の遺伝粒子が重なって再生し、大地を創り上げた様に、只の岩片となったのだろう」


 この雪山の傾斜自体も虹の鉱石の残骸であるなら、何故パヘクワードの形状は変化しているのか。それに伴い、この空中大陸からエネルギーが噴出しているのか、これも機械工学と科学的な推進路として導かれて往くのか。もし、そうなら遥かなる上空を支配する事だって出来るに違いない。エネルギーが霊体であるならば・・・。


「ライズ、足が重いよ」


「お前、兵士やっていたんだろう?」


「ハハッ。あそこは僕の才を認めてくれなかったし、体力なんてつかないよ」


「俺達、召集を掛けられて兵士でなく、王族との繋がりを持った。そして、新天地計画の要となって今、エイドカントリーズに戻ろうとしている。各国の礎として」


「ライズ。もし、新天地計画の事が運べば、私達は更なる世界を目指せるのかしら?」


「計画から外れると、アクスドリーマヌ村に戻る事になる。あの国で生涯働かせてもらえるかもしれないが、王国の証明の期限もあるだろうから・・・」


「その点は大丈夫よ。もし、この計画が済んだら私達は大臣級に任命されるわ」


「ねぇ、ミヘル。君は大丈夫だと思うけど、僕は出来るならこの国々を支配したいよ。王族と貴族の間なんてもう、こりごりだからねぇ~」


 今頃、兵士だったらこの雪山まで遠征に出掛けているだろうか。もし、遠征したとしてもその内の何人かは凍え死ぬとも聞く。凍えてしまえば、体の全神経が麻痺し、血の流れが遅れ、生死を彷徨うだろう。そんな時に自身の意志を離れ、この雪山で何らかの生命と融合し、魂として浮遊する霊体として残るだろう。


 王国の書物によると畏怖の世界線でアイキトシロウという存在が未だにジパンを彷徨っているとも、変容してこの世界線で生きているとも、憑依しているとも。何れにしても雪山という危険な場所に足を踏み入れる度に、様々な構想が湧きたつのは何故だ。脳に無い言葉を指示しているのは何者か、俺達に計り知ることは出来ないし、そんな方法さえ分からないままだ。兵士でなく先導者として。


「そろそろ、休息する場所に着けそうだ」

「ライズ・・・待ってッ」


 どうしたのか、ミヘルが何時になく慎重だ。何かの気配を感じたような素振りを見せ、俺達の前に左手をかざした。俺も何らかの気配を察した。雪は神経を尖らせる。感覚の衰える体に反して、先程の考察を重ねるように脳が働く。冷たさが体温を察知する。4,5,7体の数。既にミヘルは交戦の構えを剣に着けていた。俺はイーターを庇うように体を下げる。ジグルは盾状の革を構える。


「ミヘル、彼等は・・・」


「野生生物よりも戦闘経験に長けている。4人のままだと劣勢。ジグルは特に」


「イーター、小剣を・・・ジグル、お前は身を守れ。隊列として分けるぞ」


「書簡の整理はまだ終わっていないんだけど?」


「ライズ、説明してよ」


「私は分かる」


 同盟を結んだ様子でエイドカントリーズまで、いびつな道で帰還するのに野生生物どころか、追っ手の様な者まで現れてくる。狙いはジグルの持つ書簡だろう。こんな時に限って新天地計画を調えようとするのに。それに追っ手を行う者でさえ貧困に苦しむ者達だろうに。何故、この様な場で、彼等と剣を交わさなくてはならないのか。


「ジグル、ミヘルと共に逃げろォ」


「君達はどうするんだいッ?」


「何とか撒くよッ」


「ライズッ、くれぐれもイーターを守ってねッ」


「ああッ。ミヘルもォ、ジグルを頼んだぞッ!」


 こうして、俺達は隊を分け、それぞれの道筋を走るのだった。

 静かに、この雪山という中で。


―タタタタッ―


―ハァ、ハァ、ハァ―


「ライズ。ミヘル達と・・・」

「必ず、落ち合うよ!」


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