Ep43:協力者
~国王ヴァン・マジェス・ディルタより~
よくやった。各王国から協力を得ることが出来た。
君達はこの計画の、国の要である。これからも貧困に喘ぐ者達が現れるだろう。だが、慌てず計画の遂行に向かってほしい。年月は長い。野生生物に出逢った場合は気を付けて欲しい。それから、ライズ。君はこの計画の“先導者”である。その責務を誇りに思ってほしい。心配などあれば、秘書官に遣いを寄越す用意がある。エイドカントリーズを故郷と思って甘えて貰えると我が方も嬉しいよ。以上。
――――
短な期間のなか、国同士を縦横する日々。
エイドカントリーズに戻っては、他の国の下へ発つ。
それは執務室から頼まれた兵士にも同じ事が言える。
物事は同時に動いている。
新天地計画の長い旅路の中、マジェス殿下の書簡の代筆を頼まれる。
それは4つの王国に対しての新天地計画への勧誘を行うと言うもの。
いずれの国も虹の鉱石に対しての意欲が強く、また研究熱心な学者も多い。
しかし語学力だけ優秀な俺では、書簡を書くことも出来ない。
難点こそが課題に匹敵するというが、その通りかも知れない。
俺達は要だから。
そして――、
“――――なァ頼むよォ!”
「おい、ジグルお前さあ、おれの代わりに字を書いておいてくれ」
「明日まででいいかい?君の字は相変わらず僕でも読みにくいよ」
王国エイドカントリーズから離れて時が流れるも、余りにも堅苦しい言葉を並べる事は各国へ失礼かと思うのだった。俺は言葉を選ぶのが得意だった。それも今や即答する方に変わってしまった。それもマジェス殿下に話を持ち掛けられ答えていたのが不自然な位に。
「ほんと、あの国王はいい迷惑だよ。自分じゃ話を付けないし。だから頼むよ、な?」
「ちょっとォ、ライズ!あなたまた開き直って彼だけに書かせるつもり?」
「ごめんなさい、イーター、そうじゃない・・・あ、おいィ逃げるなってぇ~!」
「そりゃ逃げるさ。君はこの計画をまとめるリーダーだ。反則だよ?」
「反則ね。さて、と・・・説教はイーターに任せて私また調べものをするね」
ジグルどころかミヘルに書簡を書き記して貰っている。俺が間に入ってしまうと言葉に詰まるのだそうだ。だからイーターはミヘルの負担が少なくなるように、別の要件を頼んでいく。俺は“先導者では無かったのか”と時折、空の惑星に向かって言い聞かせてしまう。ミヘルも仲間同士の連帯行動になれていったせいか、言葉遣いも徐々に柔らかになってゆく。これも大いなる意志の表れか。
「そうね、ミヘルはあの王国を調べていてね。アンタ達ほら、そこで書くの!」
「イーター、分かった、書くからさ、説教はアイツだけしてくれ」
「あの・・・僕も、説教される側なの・・・??」
皆、すまない。これも訓練だと思ってくれ。俺が一人だとその書簡どころか計画の纏められる要素が活かされてこない。話の弾むお前達なら必ず光が見えて来る筈なんだ。頼む。
「あのねぇ、一言いい?」
――“キミ”はこういう時に限って誰かが居ないと困るのだろう?――
図星を突かれつつも、先導者と仲間という関係は強い絆で表れてゆくものだと信じていく。式典から数年経過して往くほどそれが伝わり易く胸を借りることも出来る。立場、年齢などを乗り越えて俺達は結成されているのだ。
まず、新天地計画の内容を改めて伝える行文を纏めておきたい。一応ミヘルに頼もうとするが、その内容の事柄について意見を述べられるジグルを介す必要があった。だがあいつは突然、用を足したいといって木陰から向こうの岩場へと向っていく。そんな最中で時間が出来たので、その度に必要な自然と心を通わせるための準備運動を始めたのだった。そういえば、用を足すのに草原に隠れてしなくなった。一心同体のような形を取る様になっていた。俺達って結構、遥かなる上空とされる宇宙の導きに同感しているような感じがする。
“―――ねぇ・・・”
「この木陰で居ると瞑想しているみたいよね?」
「瞑想?何を言っているんだ?」
「だって、この空圧じゃあ、脳が参ってしまうんでしょう?」
「俺は今、冒険するために足を屈伸させているところだよォ~?」
「そうなの。せいぜい筋が潰れないよう気を付ける事ね」
昼の1の時を過ぎてもジグルは戻ってこなかった。一体何があったのかは分からないが、恐らく周辺の調査へ出かけたのだろうと思う。せめて一言くらいあればよかった。そんな時だった。皮布に文字を記していたミヘルから話があったのだ。
「102、103、104・・・105ォ」
「ほんと、変わらないねぇ~あなたって運動バカなのかしら・・・」
「あの二人とも?少しね、話があるんだけども、いいかしら?」
「120、121・・・ん?例の計画のこと?そういえばジグルは何処へ?」
「分かったわミヘル。ちょっと待っていてね?ジグルも呼ばなくちゃいけないから」
「ええ。時間は重要なのね」
「そう、時間は重要なの」
――7の夜が過ぎた
俺達は書簡をどのようにして各国へ渡すのかを考える前に、一時の休息をとるのだった。俺はジグルの学問を基にミヘルにマジェス殿下の言伝を記してもらい、イーターは調理係をしてくれている。この先も山を越えていかなければ各国へ辿り着くことも厳しいからだ。そんな事を考えるばかりだし、せめて気の置ける時間を作っておきたかった。
“――ちょっとォあなたはッ!また口からこぼして――、もう――ッ!”
「まあまあ、イーターそう、怒らなくていいよ。ね、ね?ミヘル」
「そうね、彼のいつもの癖だから直せと言っても治らない。ささ、また調べモノ!」
「んっ?・・・モグモグ。んん~?ジグルぅ俺に変なもん食わせたなぁ~?ごくん!」
「ちょっとォ?ライズぅ―!?僕の大切な本にワインこぼしているよォ――っ!??」
「悪い、本に暗号が隠されている時に、ワインの化学反応が暗号を浮き出すのを見た」
3人がどよめいた。俺がこんなまともに推理をするのかとも、科学なんて機械的な事をなぜ理解できるのか、と。かつて俺はマジェス殿下から2年間、地上ランガスモーの解析調査を頼まれていた。俺と行動を共に3人とも付いて来ていた筈だ。そんな折に見つけた書物には暗号が記されていた。誤って海水に落とすと全ての文が暗号として露わになった。
「それが地上ランガスモーに眠る虹の鉱石の原石だったという訳だ」
「へぇ、凄いのねぇ・・・」
「君にしては記憶力がいい方だね」
「同感ね。さぁ、私はまた書簡の書き写しをしないと――」
――13の朝を迎える
まだ書簡の方は仕上がらないのか、と心配になってきた。俺はその状況を確かめたくなってミヘルの所へ座らせてもらった。彼女は俺のその“見せてくれ”という態度を察知したようで、“あなたは主導者だから確認してもいい”と言ってくれたのだ。その内容はマジェス殿下の“新天地計画とは奪い合うモノではない”との内容で、彼の意とやや異なる威厳らしさ。項目ごとに記されていたそれはジグルの10文字から導かれたもの。俺の方から殿下らしくもっと減らして構わない内容をミヘルに教え、書簡が完成に近づいたのだった。
―――トントントンッ
「じゃあ何だと言うんだい?ミヘルと君は情報交換してたってこと?」
「あぁ、俺はお前の学問に頼ってばかりだからな、イーターが飯作っている間だが」
「丁度、僕も君を探していたんだけどミヘルもイーターも付き合ってくれないし」
「何?あんたは?変なこと言わないでよ、もう!」
それは情報交換という容易い意見では纏まらなかった。万が一イーターの意見を取り入れていたら、ジグルが早速書き直すだろう事を憶えていたからだ。書簡の多くは俺の判断でジグルへ任せていたが、コイツはそれをミヘルに代筆させている。各国へそれがマジェス殿下の示す通りに伝わらないではその“意義”はなく、何らかの処分を下される事だろう。
「クスッ、これも『有意義』なことさ、こうやって話して食べる他に誰も居ない」
「『有意義』・・・う~ん、確かにそうねぇ・・・って、アンタはつまみ食い禁止!」
”へぇ、そういうことォ~。
つまみ食い。それは有意義な事。君が教えてくれた。
イーター、ライズを見張っておいておくれよォ~?”
「ジグル?何を独り言を言っているんだ?」
「さて・・・さぁさぁ、仕上げるよ」
そして、エイドカントリーズに戻った時の事である。
新天地計画において、ジグルという“策士”を傍に置いておいていいのか、と不思議に不安を示す。時にマジェス殿下はこのように仰られていたのだが・・・。
“カチャ―、スー・・・コク、ク、ゴク・・・ストッ―、”
「よいかライズよ。新天地計画というのはこの重さに耐え得る生命の爆発を示すのだよ」
「“スト―”空に向かう何かを用いて軽くなる生命の循環をしめすのですか?」
「虹の鉱石はこの新天地パヘクワードを浮かせている。だがそれも爆発によって分解するのだ。するとソレはどこへ向かうと思う?空より遥か遠き彼方へと向かうのだ“―クイ”」
重さに耐え得る生命の爆発、その影響で人の身が軽くも循環を始めると、浮けば分解するとも話す。マジェス殿下との話は誰にも話していない。
「だが、一度浮けば地上にも恩恵をもたらすのだ。その地上とは新たな地を示す」
これ等も彼の策なのだろうか、俺達も道を迷わせ時を掛けてきた。それをジグルは自ら預かった計画の書簡だからといって俺には見せてくれない。嫌なんだよな・・・、そういうのって・・・。
――――
「では、俺達生命がこの地を踏んでいたのも、虹の鉱石の力で更なる空を目指したものこそ、新天地計画の真の姿だったと殿下は仰るのですね?」
「ご名答。君は呑み込みが早いのだな。19歳でこの王国で勤め知識を得たのに“何らかの『神の意志』によって導かれていた”のか・・・今は23年目だと調べてある」
「それは誰かの意志によって定められたのです。俺はその意志をただの駒、石のように動けば計画を運べるのです。貴方は45年目に第一皇女を授かり、先代国王殿下スペクティラー様が亡くなられ、ご子息である貴方、マジェス殿下は46年目にして議員達の反旗に襲われた・・・」
「そう、私は今、47歳を迎えた。だからこそ君に道標を与えたかった。どうせ私の事―、その後に病に掛かるよ・・・そう、人の体では限界がありその導きに応じられぬのだ。知っておるか?この王国の資料、数多なる記憶、人工生命体および機械生命体というモノを――」
「あの王国パイルよりも詳しい報告の内容と近いのでしょうか?」
「その通りだ。ジグルが席を外している時にしか伝えられないが、聞いてくれるかな?」
「はい」
ジグルは常にエイドカントリーズ城の本を読み漁っていた。そこには何が記されていたのかと尋ねると「君にはまだ早いんだ」といって話をしてくれない。もしかすると俺達は各国からすればただの駒で石のように詰められていくのか。こうして道標を与えられたというのに、生命でなく文明的な話をしていたマジェス殿下。何か不穏な予感がする。
その思惑とは別に――、
「ダイヴァー、カーフ、ギュネズ、ダネルに向かってはくれないか?」
・・・と、殿下から伝えられる。
殿下の事だ。事を急ぐ様子が垣間見られる。あの競争意識の高い国々に協力を仰ぐ様子は見て取れたので、話は一気に加速しそうである。不穏な予感を残して・・・。
――ある日のこと、ジグルが図書室で資料を漁って居る様子を見掛けた。その表情には不穏な空気が感じられる。幼き頃より、式典から仲間となっていた頃よりも更に、闇を覆うような光の渦を放っている様子だった。俺は目を背け、ジグルに一件の用を伝えた。
「ジグル」
「何だい?」
「今からあの仲の悪い4つの国に向かうぞ」
「なぜだい?」
「お前はこれまでの実績から王国で才を買われたんだろう?大臣に・・・」
「え?」
「不安なら俺が先導してやるから、行こうぜ?」
すると、ジグルは室内の天井を眺めて、繰り返し俺を除くような仕草を行った。それも無表情で首を傾げ、何かを確かめる様子だった。大臣と近しくなってマジェス殿下に認められたが、かといってジグルの才を買ったのは大臣だった筈だ。これほど栄誉ある呼びかけはない。
「ふぅん、うぅ~~・・・ん、何だかね君は勘違いしているよねぇ・・・」
「違うのか?」
「違うよ。マジェス陛下いや、殿下から才を買われたんだ」
「なにッ?」
「僕に頭を垂れる様に『お前はパイル王族の埃だからエイドカントリーズを救って欲しい』とねぇ~」
――――
不思議だ。ジグルがマジェス殿下と直接話していたなんて。
俺でさえ、多くの関門と工程から王族の下へ頭を垂れた。
後に魔道を極めたとされる人物が現れた事は言うまでもない。
「ライズぅ~~以降、この事は黙っていてくれたまえよぅ~~?」
そして意識を失ったように、その日を眠り、翌日マジェス殿下の指示以外は覚えていなかった。




