Ep42:反発し合う仲
レド・カソルトに、シャイニー・ソウルという形式を呼ぶ世界観に触れ、俺達はエイドカントリーズだけでなく他国から更なる支持を受ける。そして新たな旅へと向かうようにマジェス殿下から指示を仰ぐのだった。
だが、研究者達による虹の鉱石の調査は済んでいない様だった。彼等の意見によると鉱石の断面は機械的であり人工物であるかのように取り扱えるという。
更に詳しく調べる間に俺達は各国付近にある洞窟を探索した。それでも虹の鉱石に匹敵するような道を含むエネルギー源には到達しなかった。エネルギーを確かめる為の装置も受け取っていたが、羅針盤に沿っても探知できなかった。
だからか、俺達4人は道中に在る小屋で寝具を共にし、時には料理を作ってお互いの舌を確かめる事をしていた。すると、ジグルがミヘルに対して指示を下した。
俺の書簡の代理を務めるにしては少々の遣り過ぎが見られた。
“パチンッ”
「だから言っただろう?僕の時間に触れるなと」
「う・・・、突然、何をするのです?」
「君が愚かだからだ」
「痛みはありませんが、人体というものには限界があることを覚えました」
「最初から素直に応じていればいいんだ。ありがとう、と言いなさい」
「ありがとう、ございます」
「やはり犬は犬か・・・滑稽だねぇ」
「ジグル、お前、剣技の材料にされるぞ?」
「そうよ!謝っておきなさい。幾ら書簡の訂正を求めて一文字失敗しただけで・・・」
「ライズもイーターも甘いんだよォ~!子供は熱いうちに叩かなくちゃ。ね?ミヘル??」
「・・・そうですね。失敬」
確かに書簡というのは、他国との同盟協定に入る程の大切な文であり、民の貧困に対する気遣いであり、大変貴重に扱われる。その役割を担うジグルがミヘルに対して「剣術だけでは駄目だ」といって代わりに書簡の整理をする様に、と指示をした。ミヘルは「記すのは騎士となる人物の役目でもある」と言って、その小さな体を小刻みに動かす様にジグルの指示に従った。マジェス殿下からは護衛役として遣わされていたが、ミヘルは何故かジグルに逆らえない。俺の指示よりも惹かれるものがあるに違いない、とも踏んだが・・・。
「違う。そうじゃないよ。アミール国王にはディミス高原の虹の鉱石に新たなるエネルギー源が採掘出来そうだと報せるんだ」
「はい」
これは親に対する意見対峙によく似ている。遠く遥かなる世界線でブレトルの意志は二つの魂に分かれたという説がある。何れの魂も様々な意志に分別され、形在るものは各々の目的へと達していったとパイルの本書にあった。まさに今のジグルがそうだ。かつては文明に生きる正義だったが、数々の人工生命に対する研究や実験の内に追い遣られ、とうとうその魂が変容を果たし、父であったかつてのミヘルに対して八つ当たりをしている様子。
マジェス殿下が王の更に偉大な意志であるなら、俺達はちっぽけな意志である事だろう。インシュビ―は母であるフォダネスに裏切られたのだと言い切ったのだそうだ。だからか形あるものの一つであるイーターの出番はなかった。その様に俺は推測してみせたが、昔の虐めに屈しない様にしている風にも感じ取れる。
「エントラーズ地方にある国には新天地計画の要となる要素が含まれていると報告しよう。ミヘル、大事な役割だ。僕の補助をしてもらうよ?」
「任せて下さい」
最古の時代にも王は民達を傷付けない様に接している。だから民達もそのような王に付いていった。怪我をしない様にと言いつつも、ジグルの場合は授業ごとに調教されながら、教わった学問が多い。貴族であるミヘルは協調を得ながらも自らの学問と剣術の才に溢れつつ前を向かなくてはならない。それとは別に、もっと考え得られぬ出来事がミヘルを襲っていた。
「ミヘル、これを飲んでみてくれ」
「これは何です?」
「乾杯だよ。日頃に頑張り、大人になる君に対してのお礼として・・・」
ジグルは蛇の毒をワインと食事へ盛らせた。俺とイーターとジグルの分には盛られなかった。ミヘルに対して「抗体となれ」と言い続けた。まるで貴族に対する呪いの様に溢れる怒りをもたらす様に。俺達はそれを知らずに居たが、どこかジグルもミヘルの才を認めていたのだろう。自らの才よりも徹底的に覚えられそうな予感がしたのだ。それを知らされたのは随分後になるが・・・。
「ミヘル、ここを書いておいてくれ」
「はい、理解しました」
それから各国へ送る書簡を作れ、と申し出た事もミヘルから後で知らされた。ジグルの事だから「この貴族は人形だからいいじゃないか」と思い、そうするほか考えられなかった。そして各国へ対して調査しろとも言い出した。まるで自分を隠す様に、己の放つ言葉を他に向け毒を盛らせる様に、呪いを放つように新たな光を見出すと俺達に思わせる。
「ジグル・・・疲れているのか?」
「ごめん。今、忙しいから」
豹変ぶりを見せるジグルであったが、時に違った雰囲気で俺に接してくることがあった。自らの意志でそうしたのではない、と言いたそうだったが闇が深いジグルの事だ。きっと同じ暮らしを得ていた俺に隠し事を告げに来たに違いないと感じたが、それもまた違っていた。新天地計画よりも重大な何かを追っていたのでは、とも考えさせられた。
「ライズ、ちょっといい・・・?」
「イーター?」
「ジグルの様子、あのミヘルへ対する執拗さ、異常よね」
「ああ。だが、今は何ともない」
「私と別れた後、異常な折檻を受けたような表情を時折見せるの」
「どうせまたワインを飲んで忘れるさ。それにミヘルは大した根性だよ」
「そう・・・、それならいいんだけど・・・」
イーターの忠告を振り切った俺だったが、ジグルの執拗さはそれに留まらなかった。それは夜の事である。俺がマジェス殿下に頼まれた各国の報告を基に書簡及び、指示書を纏めていた時に起きた。
――ライズ、少しいいかな?
「あのライト・オブ・ホールは何を示しているのか知ってる?」
俺は寝床へ付こうとしているのに突然、ジグルから話し掛けてくる。何やら意味深なことを伝えようとしている模様だ。しかし俺は眠い。だがこいつは眠る事を拒絶する上に、構ってほしいのかと尋ねると違うと答える。それなら俺はジグルの話を受け流してゆくか。
「何かを示している?俺は何も知らないんだがなァ?」
「そうかキミは、かつての僕を憶えていないのか」
「はァ、ジグル?かつての何を憶えていたんだ?」
「僕は光の王だった者さ」
また進言かと思った。話をしたそうに寄り付くので眠い中で聞く処、この旅で見た光の束とその中にある漆黒の線をジグルは示しとか、憶え、王たる由縁を聞かせる。だが俺にとってその必要性さえ感じられない。せめて“それ等の意味を成すモノ”を聞いておこう。
「お前が王?記憶の何の話だ?その光って、生きて出られるモノなのか?」
「あのホールは光と闇の集合体だよ。どうして生きていただって?それはねぇ――」
―――僕がライト・オブ・ホールに選ばれたからなんだよ―――
「選ばれた・・・、のか」
「僕は貴族。つまり、王になる事もできるんだッ!」
夜空に浮かぶ惑星を崇める様に両手を挙げるジグルだった。そんな様子を見た俺は笑いを堪えそうになった。でも、こいつの意に沿わなければ負ける。それも睡魔によって。
「ふぅん。その光の王様がなぜ空を見上げているんだろう・・・」
「あの惑星が太陽に連なるのを見れば、君も分かるさ!」
「いや、何ら連ならないし分からないよ・・・」
「でもライズ、君を配下に出来るかも知れないんだよ?」
「いいから、お前の配下にはしないでくれ・・・」
何だか益々、数多なる星を眺め如何にも“復活の時が来た”と言いそうな予感がする。あまりジグルを刺激せずに俺はそっとして置きたい。しかしコイツがそんな直ぐに眠らせてくれる性格ではない事を俺は思い出せなくなっていた。睡魔が強過ぎるから。
「まァそう言わずに、僕の意見も聞いておくれよぉ!決して配下に――、君に苦労はさせない――。それに僕には生命再生の知識があるしィ食事もイーターより美味しく――、」
ブツブツ・・・さい、頼む寝・・・ウトウト・・・えも・・・ろ
「――山脈で僕は釣りをしたのに君は川で魚を取った――すると僕は君とあの惑星の向こうへと飛び立つ――。ねぇいいかい?ここでは地に足を着け、上空では地が着く。それ」
――――ああ~~うるさいッ、さっさと寝ろって!――――
時折、痛みのない痛みが彼を襲う事があった。
眠れない時は、時に相手をして、その辛さを乗り越えさせてやろうと俺は・・・。
だから彼は、このような態度に出たのだろうか、とか、宇宙の在る空へ願いを灯していたのだろうか、とも。
だからか、ジグルお前は・・・。




