Ep41:「ライト・オブ・ホール」と「ダーク・オブ・ホール」
報告書を提出した俺達4人は再びマジェス殿下から指示を下される。
「報告書にあったライト・オブ・ホールとダーク・オブ・ホール。学士の研究論文によると、一つは光の束による遺伝粒子が変容し、一つは闇の束による複数の出来事が存在するとの事である。ライズ。再び調査をお願いするが、よいかな?」
冒険の途中でイーターは色んな“光の束”が入り乱れていてとても綺麗だったと言っていた。そして、あの地平線の先に見えていた閃光に何度も落とされてきた――と、思っていたのである。
各地で調査に訪れている研究者を連ねた兵士達の報告によると、再構成・再構築・再生を促すライト・オブ・ホールが幾つも発見され、そして小さく輝くと言い、戦慄のように幾つかの破壊の束で構成されたダーク・オブ・ホールが静かに佇むと言っている。
そこでマジェス殿下はこのように答える。
「エイドカントリーズ研究班からは遺伝細胞はパヘクワードを取り囲む山々から落ちると聞く。そして、この空中大陸であるこの地にも、小さなライト・オブ・ホールだけが着々と遺伝粒子を流しているという。これは神の賜物というべきだろう――かと」
「陛下。私達4人に」
「普段通り接っするがよい。君達は大役を次々とこなしている」
「では、殿下。俺達一行に調査を任せようとされるのですね?」
「厳しい時間の中、我々も貧困の最中・・・」
「はい」
「地上を旅した君達に各地の変化を調べて欲しい」
「ハッ!」
俺達はマジェス殿下の言伝どおり、エイドカントリーズから北西に位置する山を目指した。そこに虹の鉱石とよく似た光景が目に移るらしく、ライト・オブ・ホールの聖地だともされていた。ここから更に50kmt離れた場所にレド・カソルトという山岳地帯があるそうだ。そこで生命の融合たる生体実験が行われていたという。つまり、伝記にあった人工生命体の原理と同じような研究が、そこで行われていたという訳だ。当然、荷を持ち1の月を掛けて旅する。
―レド・カソルト
4人で衣食住を共にし到着したのはいい。だが、珍しい光景なのかイーターがはしゃぐ様子を見せた。長い年月、人気のない場所で2の年を過ごした為に、その神秘的な風景が彼女の目を輝かせた様だ。生きる化石や両生類のような世界と出逢ったのだし、当然と言えば当然だろう。感動的なる彼女の様な者も居る。もう少し輝かしい世界であってほしいと俺は感じた。イーターは観光名所のようにレド・カソルトを紹介した。
――ねぇ、ここはね~ぇ!
「レド・カソルトって土地なんだけど、その先の山、見える?」
「いや、まだ何にも見えないが?」
新天地計画の事で歩き続けているためか、イーターのソレについてあまり興味が湧かなかった。以前なら少しは興味を示していた筈が、仲間を追い詰めるような態度ではいけない。もう少し緩やかな態度で接しようと思った。
「それとね、ライズあれを見て?」
「ん?なんだあの山は・・・?霞んで見えるんだけど?」
それはレド・カソルトの側面にそびえ立つレド・アサルトという山である。彼女は山のある景色が好きだったのだろうか。とてもあの大将気味だった女の子の時とはかけ離れて見えてしまう。俺も現状を気にしなければお前のように空気を吸っていたい。
「フ~ッ気持ちいい~~!そこはねぇ、赤く染まった山々に青い大気が白へと地平線を染めているからレド・カソルトって呼ばれているのよ?先には別の空間があるのだけどずっとその向こうゥ!遠いわァ~~!白い部分なんかまるで塩みたいで神秘的ね~~ぇ」
「・・・レド・カソルト?その先の山・・・?それがあの空間の入り口になるのか?」
「ええそうよ!あなたには一度見せておきたかった・・・。それにあれは・・・?光と闇の束かしら??」
そこには確かに映っていた。薄くも細く眩しい光を放ち漆黒の一閃をも見せている。だが俺は未だその脅威に気付くこともない。今は新天地計画の方向性を見失ってはいけないのだから。とにかく彼女の話に乗ってみれば少しは落着いて計画へ向かっていけそうだ。
「光と闇だって・・・?イーターさァ、それ走馬灯ってやつだろ?俺には青い空以外には何も見えないぜ・・・?それよりも――、太陽からチラつく閃光が俺の目を強く焼き付ける。赤くて強くてそしてこの新鮮さ、俺を真っすぐと映すコレだ!」
「あのさ、幼馴染だから言うけど、私とあなたの絆はそんな閃光じゃないのよ。寧ろ真っ赤!血じゃなくて、鮮明なものを見る目が私にはあるのよね?分かる~?とても血の通った温かなモノなのよ~~」
「それって告白のつもりか?・・・へ――ッ!やめろよな。気持ちわりィ・・・電極的には俺とイーターはプラスとマイナスじゃないか。ハッ!ありえないぜッ!」
「何言ってんのよ!もう・・・それよりもッ、あの光の束に混じる黒い線たち・・・ッ」
あの『光と闇』は世界線の重力なのよ――!
イーターはレド・カソルトの眼前に身を乗り出した。今にも崖から飛び落ちそうな予感がした。それでも宝物を見つけた様に追い続けるその視線。「危ない!」と思ってはいても、彼女の推論と魔法の様な現実的思考に追い着ける者は居なかった。
“おいおい、余り足を乗り・・・あ、何をやっている!その立ち位置から離れろよ!”
“まったくイーターは・・・スタスタ――っつ――、僕の手に・・・掴まれ!”
“グイ―、ふぅ。いい眺め・・・二人ともありがとう。これじゃ、あの時みたいね”
“あの時とは、何のことなの?ライズはイーターを、ジグルもイーターを親子のように扱うのですね”
「ふふ、それは“懐しい”ことで」
「うん?何を言っているんだ??」
こうしてじゃれている姿は成人の初期らしい光景だと思う。ジグルを除いて。だが、心は同じだ。同じであるが故にそれぞれの意志が動いている。そんな中で人工生命体の実験が行われていたとは思えないこの場所が、俺達の報告内容に筆を詰まらせた。そう。ライト・オブ・ホールよりも際立つのはダーク・オブ・ホールだった。光より強い闇を垣間見たのである。そこに、虹の鉱石と人工生命体の痕跡らしき希望は無かった。
「次は、シャイニー・ソウルね」
「あぁ。そうだ」
時間と己の身を捧げる様な旅路。この機会によって俺達4人はマジェス殿下の指示通りに動いてゆくのだった。新天地計画の背景に科学的根拠は無類の存在だ。歩けば歩くほどに光の光景が眩しく見える。山が輝いているのか、階段のある地へと足を運んだ。そこには国があるが、果たして俺達を迎え入れてくれるのか疑問だ。
―総本山シャイニー・ソウル
「もういいわよ。また今度、ホラッ行くわよ」
「待ってくれ、まだ話がっ」
また、イーターがはしゃいで俺達の“服の袖”を引っ張る。まるで何かに取り憑かれたような気さえするが、彼女自身はどうなのか。もう少し大人しく居られるならガキ大将などやっていなかっただろう。その自由と代償。それは貴族の作法よりも遥かに抜きんでている。話を聞くよりも体が動いている。
「ほら、ジグル、ミヘル、それからあなたも見て?あの上空の山にそびえ立つあの国を」
「あれは、総本山、シャイニー・ソウルだよね!?」
「何かの結晶か?とてつもなく光っているようだが?」
「ホントだっ・・・ねぇ~ほらァ、私達とうとうやって来たわよ・・・!」
パヘクワードを彩る総本山シャイニー・ソウル。そこには国の中で死した生命が虹色の光を揺らがせている。通常の太陽の光や、ライト・オブ・ホールの光よりも遥かに偉大なのだ。国の中には王が存在せず、民達の憩いの場として機能している。大地には虹の鉱石の塊が確かに存在しており、パヘクワードの推進エネルギーとして使われていた。風と光が反発し合うその様は、まるで上流気流そのものだ。
「話し合うでもなく、その光景を見守る・・・」
「あぁ。これで報告できるよ」
緩やかな温泉が掘られている。
俺達は疲れた体を一休みさせた。
お互いの関係を深める様に――。




