Ep40:吟遊詩人マイクオ・シーブルと海中
生きる化石との出逢いを経て、1の年の歳月を地上大陸ランガスモーで過ごしてきた。そして調査報告書を基に更なる虹の鉱石の働きを確認する。
まず学士オード・ナスワイについては「世界線と次元」の項目から外され、「虹の鉱石」のエネルギーの循環における要素は認められた。物質自体に浮遊力は無いものの、遺伝粒子の流れによって光が反響する事もあり、ランガスモーの資質次第で虹の鉱石のエネルギーが増幅・結合する要素があることも確認された。
「機械と魔道」については未だ調査中との事だった。指揮は大臣でありマジェス陛下でない事が問題だった。だからか、俺達は――、
―ザーン、ザザァァ――ン―
「パヘクワードにも季節があるのに、この地上には季節が無い」
「そうね。どちらかと言えばセミル虫の鳴く季節・・・」
「温かくて寒さが来ない。これが滅亡したとされる由縁だね」
“ジャパッ”
「海も温かな風に乗って波打つのですね。貴族の私には書物のよう・・・」
「ミヘル、君はまだ少女だ。大人の事情と理屈とは面倒だと僕は忠告しておくよ」
「そう。潮風が、ジグルの傷に触ったのですね」
「イーター。まだ報告書は山のようだな」
「勿論よ。要だもの」
まず、報告書に記された変容体という形式。
これは古来より生命学理論を徹した内容で、この地上に住んでいた人類が同じ民である人間を人体実験し、薬物による変容を模したというもの。当時パヘクワードになる前の空中大陸に適応可能かどうか、生態系を変える出来事がこの地で起きていた。王国パイルでの惨状が如何に罪だったのか、それすらも闇に葬られている。
「他には?」
「これなんかどうだい?」
魚核生物。これは元々、人間だった生命が虹の鉱石によって変貌したという書記報告。最初はこの惑星に生命が降り立ち、再構成・再構築・再生能力を紡いだ結果、微細生物の成長によって甲殻魚類として成長したもの。体長は人間よりやや大きく、筋肉質で手足がヒレ状の形状をしている。海に住む以上は食材としても扱えるが、塩分濃度が高すぎる。これを所在不明な吟遊詩人は食べていたというのか?
「ライズ。再生能力によって遺伝子構造が変化するという項目が記されています」
「へぇ、興味のある報告書だ。研究者は尊い食柄なんだなぁ」
再生と遺伝子構造。これは虹の鉱石の光体物質から変化した印。人体が再生を促された時に遺伝子の構造が変化するといった一説。オード・ナスワイだけでは補えなかった伝説の構成体とも云われている。これとマイクオ・シーブルとの関係はあるのだろうか。
書記によると、ランガスモーと名付けられる以前の惑星には、銀河系からやってきた異生成物が降り立った。形状的に人間そっくりだが、人類としては歴史が浅く、機械工学を残していた。
地表から地殻まで虹の鉱石で出来ているこの惑星を探知したのち、虹の鉱石を改良し、科学によって浮遊力を得たとされている。彼は海の中で生存している様な報告書だ。
「他には?どうも虹の鉱石の成分の含んだ地表に、エネルギーが残存している様な語りぶりだ。もう少し証明できそうな話題は?」
「遺伝子構造が再生によって補われ、魚核生物にすら成らず長寿で生き残ったと聞くよ。随分と昔の知識だけど、『短命と長寿』という古文書にはそう記されていたね」
生命の頂きを示すなら長寿命160年はあっても不思議ではない。なぜこの年齢数を例えたのか?エイドカントリーズには王国パイル並の技術があるというのか?どれも新鮮で暴力的な内容だ。虹の鉱石が関わっているとすれば、人類は“超人類”としての生き方を選択せざるを得ない。マジェス殿下はこの事を了承しているのだろうか?
「陛下はきっと、生命学理論と生体本能についての成長を見守る研究機関と手を組んでいる筈よ。ライズ、本能に従っている?私達は退く手段が無いの」
「時間は限られているという事か・・・」
俺はマジェス殿下の示す通り、上空パヘクワードに纏わる地質調査を1年がかりで行っていた。その残り1年となる状況下、虹の鉱石で造られたという浮遊船に乗せられ、地上大陸ランガスモーのある人物の住居まで送ってもらう事になる。
そこで行うのは長寿生命、いわゆるモンスターとされる生命の異常変異を如何にして人類が現したのだろうか、それを調査して欲しいとの事で海中に至るその場へ降り立ったのである。
「ライズ、報告書の中に地図があるわ?」
「地図?」
「ほら、ここ。私達の立っている場所から更に東に行って、海岸沿いに佇む祠があると記されているの」
「本当だ!ここにマイクオ・シーブルがきっと住んでいる・・・」
俺達はようやく手掛かりを見付け、現在立っている場所から地図の印のある地へと向かった。途中阻むものはなく、次第に海中に溶けたような山岳地帯へ到着する。その手前の場所に祠らしき凹凸が佇んでいる。木製の扉もあり、どうやらノックする為の金具も固定されている様だった。
「ほら、ここじゃない。ここにマイクオ・シーブルが住んでいるのよ」
「異様だね。とにかくノックしよう」
“コンコン、コン”
すると扉の内側から一つの人間の形をしたものが現れた。赤い服装に身を包み、帽子を被っている。これが噂に聞く吟遊詩人というものなのか、と伺った。
「ようこそ」
見た目は若く、年齢を感じさせない。
まるきり俺達と同様の言葉を発している。
彼は宇宙生物ではないらしい。
「よろしく。俺はライズ・フォングランといいます」
「やぁ、お客さん。僕はマイクオ。名前はシーブル」
「俺達は遥か上空の空中大陸パヘクワードから降り立ってきたのです。王国エイドカントリーズ国王、ヴァン・マジェス・ディルタ様から遣いとしてあなたに逢いに来ました」
「ほう、ディルタからか・・・懐かしい」
マイクオ・シーブルはそういって片手に備える竪琴のようなものをずっと持っていた。ここで演奏を行うのかと言えばそうでもなく、「これ?」と見せ付けて音色を聞かせてくれる。すると、どういう訳か、竪琴から光が溢れだした。音色を奏でる度に大気中の温度に触れると光る仕組みだとマイクオ・シーブルは説明してくれた。それにこの竪琴は何で出来ているのか、と聞いてみる。
「あぁ、これは虹の鉱石というエネルギーと鋼鉄で出来ているものだよ」
「鋼鉄?」
「君の世界にもあるだろう?剣とか鍋とか。あれと同じさ」
「はぁ・・・」
「それよりも、中に入ったらどうだい?」
「いいんですか?」
彼は「構わないよ」と言って、俺達4人を扉の中まで通してくれた。中身は溶けたような岸壁。そして、更に奥に行くと階段の様なものが見えるし、彼の顔の表面に鱗の様なものが見え、姿は俺達と若干違いがあり、人間として扱ってくれる。まるで不思議な引力を感じられる空間に招き入れられた様だ。
「階段の先は“海中住居”と位置付けている場所さ」
「海中住居?海の中という意味ですか?」
「まぁ、来たまえ」
――海中住居・シーブル――
「僕は、何処かの変容体でね・・・」
“ポロロン、ロン、ロロロン♪”
「齢160の年数を越えていた・・・」
“ポロン、ポロロロン、ロン♪”
海中と言っても海底というべきか?その海底の水槽の中にベッドルームが置かれていた。七色に輝く部屋、そして家具類。マイクオ・シーブルは唯々、水槽から見えるサンゴや微細生物なる魚が泳いで居たら「獲って来ようか?」と言って見つめてくる吟遊詩人と呼ばれた男・・・。
彼は一つの竪琴であるハープを弾いた。ライズはその音色を聞いて、不思議と遥か以前の世界線に何が起きたのかを想い更けていた。
「空中大陸パヘクワードに存在する、王国エイドカントリーズが王、ヴァン・マジェス・ディルタ陛下の命に従い、マイクオ・シーブル殿、あなたの住む周辺を調査しに参りました」
「そう。君は――、“宇宙”だね?」
(うん?彼は突然何を言いだすんだ?)
あの宇宙の頂きに海なる波が押し寄せてきたとき、生命達が泳がなかったのか、と。息も出来ぬ宇宙空間と海は似ていて、遺伝された脳と体が分離しなかったのかと。
彼もそういう意味では人工生命体だったのかも知れない。
「地上の水は虹の鉱石を交えて上空へと送られる。つまり虹の鉱石は磁石と同じ原理で引き寄せ合うんだ。すると鉱石に含まれる微細粒子が再生能力を宿しているから、河川の魚も生命たる由縁から成長過程を経て、丈夫な体へと向かうのだ」
つまり虹の鉱石同士が引付け合い、上流河川とされるパヘクワードへ流れ出て、浄化される仕組みがあるというのか。それを人の手で汚したり、自然の形状を変える出来事が起きるから、なるべく河川区には近寄らず、共同水汲み場として使われるのは不自然だと詩人マイクオは言いたいらしい。
「生態系が変わるから、野性生物・・・モンスターが誕生するのだろう?」
「確かにあり得る出来事ではありますが・・・」
「ライズ。君には何故、魚が50センチ以上に膨らむのか覚えておいて欲しいな。ダメかい?魚核生物を・・・」
確かに、平民区で育った稚魚だった生命が僅かな期間で50センチ以上に成長するには、魔法のような力が必要となる。それも自然と異なる不自然さが必要だ。
「虹の鉱石には古来から、宇宙より飛来した遺伝粒子が渦となり地上へ降り立ったという逸話がある。それがこの、ランガスモーに降りたという事は、何らかの光によって引き寄せられたという事だろう。例えば君は調査が楽しいかい?一つの遺伝子よ・・・」
「え・・・?」
「調査は時として罪として暴かれる。罪を暴くという事は自然の法則から乱れた宇宙の規律を正しく整える。恰好は地質に含まれていた虹の鉱石が、大量に発掘され、それが浮遊船を拵えた。つまり文明が進んだという事だ」
マイクオの話によると、新天地パヘクワードが誕生したのは金世紀である。それも地上大陸ランガスモーで虹の鉱石が大量に発掘されたからだとされる。王国エイドカントリーズの調査本書から引用すると、地上ランガスモーが大陸間地盤噴火で沈壊した事は確かだ。
それまでに吟世紀だった頃の人類が生物を虹の箱舟へ移転させた。移転させる前は只の娯楽交通機関用に浮遊船を使用していたし、新たな文化と文明を創るために『新天地計画』を発案していたというし、それも僅かな年数で行えたという。それは「虹の鉱石の力だ」とマイクオは言っている様だった。
「つまり、マジェス王とその先代による計画案では無かったことが発覚した。分かるかい?ライズ・・・全ては宇宙から現れた生命によるもの。宇宙線の彼方から降りて来た遺伝粒子がこのような記憶を伝説としたのだよ。それも再生の為にね?」
その原因を創ったのは“ダーク・オブ・ホール”とも呼ばれる宇宙の闇の束だったと彼は告げる。それが「再生なのだ」と、彼は唱えるが・・・。
「君は駒だ。マジェスの駒だよ。分かるかい?」
「現王も駒と?」
「理解が速い。さすがに只の調査と異なるのだね」
海中から断層となった岩の中にも虹の鉱石が潜んでいた。そこから得られる力によって、地上の浮遊力が発見されたから、一つだけ拝借した民が中空へ飛ばしてみると浮いていたという事から、パヘクワードの原体が出来たという訳だ。それが『新天地計画』の湧現となった理由だとも挙げられた。では、どうして海中に住居が出来たというのだろう?
「これも虹の鉱石の中に在る、酸素物質のせいなんだよ。この酸素のお陰で物体の浮遊力が得られ、それを無理矢理、地中に埋めるときに泡が膨らんだんだ。その泡を水に置き換えると、水が退いたのだと建築家は言っていたね」
「なるほど」
そう言って調査書を作成していると、吟遊詩人マイクオ・シーブルはこのように詠った。
“ポロロン、ポローン♪”
≪~知の彼方から英気を養いし意志たちよ~地の叶う所に宇宙成る頂き、アミが導いた先を~実りの世界線という~♪それは零か、英知か、最古か、畏怖か、曲泉か~様々なる形状たちが8と10を表す頃には~1と0の場へ剣を突き刺すだろう~♪≫
“ポローン、キュ♪”
それは遥か遠く眠る記憶の奥底に位置する魂を呼び起こそうとする。吟遊詩人とは古書に在る“大いなる意志”を呼び覚ますというのだろうか。まるで人知とは思えない様子を見せていた。余興的に彼はこちらの正面へ向かい、そして、こちらへ振り向くと・・・
「どう?調査は終わったかい?ヴァン・マジェス・ディルタ王によい、功績を修められそう?」
「功績ではなく、案を呼び起こす事は可能でしょうね」
マイクオは机の上にハープをそのまま置いて、こう説いた。
「預言はね、実のところ多くの意志を招いた罪だったんだよ」
「それは・・・?」
「いずれやって来る。その頃には全てが遂げられるだろう。覚えておくことだ、王の使者・・・いや、王の素質を持つ者よ・・・」
――彼の者、ライズ・フォングラン。
こうして、俺達はパヘクワードに佇むエイドカントリーズに報告をまとめ、マジェス殿下の下へ帰って行った。まるでおとぎ話のような場所を転々とさせられていた様だった。学士に吟遊詩人、パイル・ジグル・ウィナートという名前・・・それぞれが独立していた訳でなく、地上大陸という世界に存在していた過去であり、虹の鉱石について様々なる情報を共有していたと、報告するべきだろう。
そう。これが2の年の解析結果である。
「議員並びにマジェス殿下へ報告します」
頼むよ、ライズ。
僕の礎。




