Ep33:作戦
「ライズ。貴族の作法はどうしたのです?」
「あ・・・、忘れていた」
「『貴族たる者』ね?」
「ふ~ん。元・貴族の僕からすると余り関係ないように思うけどねぇ~・・・」
ミヘル達と紅茶を嗜む。
式典の後に仲間を得てお互いを改めて知ろうとする。それから一霧の望みをかけ、新天地計画の意図について考えようとした。皆、沈黙することなく意見交換を行い、独自の思想で虹の鉱石の効果により、このパヘクワードが更なる上空へ浮く説や、式典の最中に見えたライト・オブ・ホールについて考察を与え合っていた。
問題は地上にあるとして結論付ける事もあった。そう言っている内に各自然と生命の在り方について少し難点がある事に気が付く。時を掛ければ掛けるほどに、貧困が起き得るほどの自然の活動力が虹の鉱石によって再生能力を増加させ、生命の潤いに貢献しているのではないかとも俺自身は感じてしまうのだった。
「皆、生きる上で貢献するとしたら何になりたい?俺は貧困を救う冒険者になりたい」
「私は生命理論的に、食材の衛生指導を行いたいわね。彷徨う人を迎え入れたいの」
「僕は生命学理論と機械工学において、科学者という道を歩んでみたい。発明物で民を驚かせたいんだ」
「私は民を救う騎士になりたいです。つまり野心はありません」
お互い、夢があっていい事だと思う。あらゆる分野で民を援けるために行動を起こす。マジェス陛下の生み出した新天地計画が成功すれば、俺達はそれぞれの道を別れて、生活の基盤となる食材に苦労しなくて済みそうだ。そうなればいい。貧困区から王族の関係は身近になり、お互い手を取り合い働くことも出来るだろう。これも再生の兆しか。
「冒険者、世話係、科学者、騎士・・・色々と就きたい道があるもんだ」
「そうね。貧困区の人は特に兵士にすら成れないのに、農業は出来ると言うわ」
「僕は兵士にもなったし、こうして王族に入れた訳だけど・・・何故かねぇ~」
「パヘクワードの中で生きるには学問が優先されます。剣術は殆ど自身で磨くことが出来るので、あくまで身の周りを守り、自主治療をする。優先事項ではないのです」
俺達は使用人に頂いた菓子と紅茶を口にしながら、お互いの理解を深めていった。計画に準備、作戦はつきものだと思っての事だ。少しでも近付けば、同じ人間でも記憶の中にある意志が繋がると信じて居た。俺達は変わったが、変われない何かを持っているとして。
―コン、コン―
「うん?何だろう・・・?」
――陛下の使いの者だ――
「俺達なら居ます。入ってください」
“ガチャ”
「邪魔をする。私は陛下のもとで働いている大臣である。折角の機会に申し訳ないな」
「構いませんが、どうしたのです?」
マジェス陛下の代わりに大臣がやってきた。こんな時にどうして?
俺は平静を保ちつつ、やや驚きつつある様子を隠しきれなかった。わざわざ大臣とも在ろう者が一人で出向きに来るなんて、何の用だろうかと感じていた。大臣は俺達に対して頭を低めて何か言いたそうな様子を数刻だけ停止させた。誰かに見つかってはいけないのか、と感じさせる。そして辺りを見回すような仕草である。
何があったのだろう?
「どうしたのです?用件があるなら遠慮せずに伝えてください。丁度時間を空けての話なので退屈していた処です」
「そうか、すまないな・・・。実は折り入って頼みがあるのだ・・・」
「何ですか、俺達はいま、休息を摂っているのですが」
「君にではない。ジグル・ウィナート、君に頼みを伝えたいのだ」
「何でしょう?手短になら、構いませんが・・・」
大臣はジグルに話し掛けた。俺達が居るのに関わらず、大事な要件だとして遠慮せず話し掛けるのだった。大臣は「マジェス陛下の命令で」と告げ、「各国の政治が乱れている」などと訴えていた。そこにジグルの学問や知識が混じるとして、「きっと、お前なら成功させられるだろう」と言っており、ジグルを用立てる事にした。ジグルは黙って聞いている。何ら異論もなくである。
「ジグル・ウィナート、異論はないな?」
「ええ、勿論ありませんよ。寧ろ、都合がいい。そして――」
「都合がよく、そして――、何かね?」
「いえ、兵士の時代が報われたと思いまして・・・フフッ」
(あれ?ジグルの奴―、何を喜んでいるんだ?)
(おかしいわ。アレがジグル?野心・・・っ?)
(本当に妙。あの男・・・何か策を練っているのでしょうか)
「実はですね――、」
「ふむふむ、それで――?」
ジグルは大臣と耳打ちをしだす。仲間になったばかりだというのに、なぜ、俺達に黙ってコソコソと言葉を交わすのか。兵士時代のジグルの身に何が起きていたのだろう。訳も分からずその様子を見守る俺達3人は、ジグルと大臣の様子をジッと見ているしかなかった。そこで大臣の手から何かが光る。一体、何をしようとしている?そっとジグルの手に渡そうとしているソレは何だ?
「これで、ひとまず手を打とうじゃないか・・・」
「あぁ~、いいですよォ~?」
ジグルの口から笑みが零れる。目尻にシワを寄せ、微笑みを繰り返す。新天地計画より優先すべき事なのか理由は解らなかった。
(ジグルは一体、何をしようとしているの?)
(さて、私には分かり兼ねます。が・・・見たところ賄賂ではないですか?)
(賄賂だと?あいつ、そんな事を覚えていたのか・・・)
すると、ジグルは俺のもとに寄ってきてこのように話す。手に持っている光り物を衣服へ隠して何かを匂わせる表情を隠せていない。
「ライズ。僕はね、何れ大臣に昇格するかも知れないんだ。何故だか分かる?」
「知らないよ。俺はお前が黙り込んで俺達に隠し事をしていると踏んだ」
「バカだね。僕がそんな卑怯な手を使う訳ないじゃないか。計画の作戦を一つ思い付いたんだ・・・」
「思い付いた?それは何だ?」
ジグル自身で作戦を立てたとは思えないし、何か不穏な空気がする。もし、作戦を立てていたとしたら表立って伝えて来る筈だった。俺の知るジグルだったらの話だ。
「マジェス陛下へ、各国に対する書簡を用意させるんだ。虹の鉱石の事について少し気に掛かるからね」
「それなら、直接話せばいいだろうと思うが、お前がそう言うなら頼んでみよう」
「流石はライズ、物分かりがいいね!」
イーターもミヘルも何やら隠している様子を感じ取っていた。その反面、ジグルの不敵な笑み。どういう心境だ?何やらブツブツと口元を動かし、何かを唱えていた。はっきりと聞こえないが言葉を濁す様に俯いていた。
「そうだよね・・・ブツブツ」
”ねぇ、父さん、母さん聞いてよ。
僕はね、とうとう一つの目標を達成しようとしているんだ。
そう、いわゆるね・・・”
「うん?どうした、ジグル・・・?」
「これ、欠片なんだよね。勿体ないよね・・・ブツブツ・・・」
「ジグル??」
おかしい。俺達の目線から上に反らしている。手に持つそれは単なる光では無かった。俺も鉱山でよく見かけていた虹の鉱石の光にそっくりだった。その光は金色に近い色を放っていた。噂に聞く“金貨”にも似ている。ジグルは上目遣いで俺の耳にフッと唇を寄せてくる。冷たくて鼓膜が広がる様だ。
「ちょ・・・、ジグル、何やっているのよ!?」
「大臣との契約の事では?」
「いや、まぁ・・・そういう訳じゃないんだけどね。聞いてよ」
「ジグル・・・お前、大臣に何を告げられた?」
「そうだね、」
ジグルは作戦を思い付いたと言いつつ、何かを掴んだような素振りで両の手を開けた。そして、俺の耳元でこう告げる。
――――ようやく、僕の居場所が見つかったんだ!
――と。




