Ep30:学問と社会
ライズ一行は大臣達から、エイドカントリーズ国王ヴァン・マジェス・ディルタからの召集令状が下った、招かれし4人の者達として扱われる。
そして、遥かなる上空で起き得る宇宙爆発。その様な出来事があると過去と現在に遡る場合がある。生命は虹の鉱石が出現するまでに零、英知、最古、畏怖、曲泉に触れた。だが、輝きのある世界で各々の意志に触れる機会を設けた。
まだ、式典の準備が出来ていないため、それぞれは自身の身近なところへ顔を出す者、過去に思いふける者、想い馳せる者、自らに相対する者であった。
――ライズ・フォングランの場合――
遡ること、俺はアンジェル高等学校を卒業して間もなく、王国エイドカントリーズで職に就いた。そこで学問をかじりつつ、どうにか暮らしている。故郷の両親は元気だろうか。もし通貨が出たら仕送りしよう。そうじゃないと、まるで俺達という民は兵士となり、物理的な戦いを免れないだろうから。だが、多くは野生生物の討伐だ。
小さな内乱は起きるものの、国同士の争いは共通の悩みがあるため行えないのだろう、と考える。今は、虹の鉱石について調査をしなくてはならない状況下、王に頼めば貧困から皆を救うことが出来ると思っていた。裏切りの無いように・・・
『ライズ・フォングランだな?』
『はい。俺がライズ・フォングランです』
『王国エイドカントリーズ召集令状を直に渡せと陛下からの仰せだ』
『陛下?』
『ヴァン・マジェス・ディルタ国王陛下の事である』
『今、連れの者達が――、』
『問題ない。受け取るのだ』
『承知しました』
~召集令状~
勇敢なるライズ・フォングランよ。
現在、貧困なる状況下で、貴殿の功績を多く耳にする。
時代ごとに私達含め、民達は新たな貧困へと直面している事だろう。
職務中であると聞く。そして我等が住居パヘクワードについてどう思うのか、考えを知りたい。そして、貴殿は今後の長期の最中、我が編み出した計画に基づき、行動を共にする仲間を得るべきである。そのような事情にて計画実行を援けて欲しい。
また、虹の鉱石の調査職務から立ち退き、こちらへ向かう事を強く望む。
~エイドカントリーズ国王ヴァン・マジェス・ディルタより~
(職務を降り、新職を与える・・・という事か)
そう言えば、虹の鉱石について説明が出来たと思う。
デミューラはこのように伝えてくる。
『待機ご苦労さん。私は、王国エイドカントリーズで話し込む時にライズの長剣と短剣を見せた。そしてその成分が何かを教えた。しかも地上大陸との繋がりがある話を作ってみたよ』
『どういう意味ですか?あの時、デミューラさんは虹の鉱石の報告だけ伝えにいき、俺と助手のヘリラさんは城門の受付で待って居たはず。そして、あなたがヘリラさんを呼んで俺は一人、椅子に座っていたんですが・・・』
『詳細を言うとね――、』
なんと、パヘクワードで生成される虹の鉱石は地上大陸ランガスモーのものよりも純度が低く、浮遊力さえ失ったものらしい。だが昔、エディーヌ・サリバン校長の知人である鍛冶屋の主は独自の繋がりで大型浮遊船を借りることができ、ランガスモーから岩石を持ち帰ったという。それも大量に。
その岩石はエイドカントリーズの技術で分割し、磨かれ、この護身用の剣に加工されたという。つまり、アンジェル高等学校でのあの光を纏ったように温かな状態とは、共鳴を果たしたのと同じで、身体能力が一時的に強化されるという事と同じである。
大臣達は天然の虹の鉱石が採掘される技術を持つ者が俺の顔にあることを認め、また、デミューラが労働者として扱っているから、新天地計画との繋がりがある事として認めてしまったらしい。
『――という訳で、時間を掛けた。これから君には、』
『デミューラさん。実はこのような令状が先程、兵士から届けられたのですが・・・』
『―パラッ―、どれ・・・うん?・・・これは・・・』
『俺は、虹の鉱石の調査を終えたという事でしょうか?』
『違う。これから始まるんだよ。君と新たな仲間との調査がね!』
そのような事情から、俺はデミューラ率いる職場の仲間や、宿舎のアンと別れる事になる。迷いはしたが功績が認められ、徐々に王族との距離が近くなる。貴族の枠を超えてしまった俺は貧困を見捨てはしない。その計画をこれから出逢う人物達と共にするのだろう、と踏んだのだ。
「そういう訳で、よろしくな!」
「う~ん、辻褄が合うのか、合わないのかよく分からないわ、」
「君も選ばれたんだね。僕も選ばれたし、あとは式典だけだね」
「ライズ、今後ともよろしくお願いします」
――――
――ジグル・ウィナートの場合――
言葉の分からない僕が幼少の頃に道端の汚れた本を漁り、それ等を繋ぎ合わせて話す事を覚えた。言葉は不自由しながらも上級貴族と扮しつつ、進学するより先に学問研究職へ赴いた。特に生命論など会得したものの、いざ大人になると既に25歳で兵士として召集される。一見、他の者と比べて僕は遅れて大人になってゆく。
一体、今まで何をしてきた?省みず謝らず暴動を起こした者達は、僕を愛撫するのに時間をかけてくれる。僕は唯々、様子を窺っていたに過ぎない。
『ジグル・ウィナート?こんな細い奴が?』
『よォ、これからは俺がお前の隊長だ・・・まずは・・・』
『これでも王国なんだよォ!テメぇ、上級兵の掟をその身に教えてやるよォ!』
『あ~ん?・・・キサマぁ・・・それでも兵なのかァ~!?』
『何ィ?学問は無いかだとォ~?―っち、そこら辺の本でも漁ってろ』
『ああ~~ん?また、来たのかァ~、分からん奴だなあッ!シッ、シッ』
『まだ本が欲しいのかぃ?お前も懲りんやつだねぇ、指揮官ところ行けよな?』
『ほらっ、てめえはまずオレ様の指揮下へ入るんだ!はやく剣を取れっ』
僕は剣を取るために生きていたのではない。君達は取れと言うけど僕の知識は不要なのかい?それに僕は道端にある本の切れ端なのかな?
確かに僕は言葉を覚える度、その文字の切れ端を繋げて文章として読んできた。それが兵士になった途端、本を漁れと?それに何だこの憤りに、何かに捨てられてきた記憶のような感触は。生命や王国をも知らない彼等が僕の親代わり?僕の兄となる代わりに、その下僕になれと?
そんな事は僕の研究倫理に反する。彼等こそが僕の足を舐めるべきモノなのだと頭に留めていたい。僕を舐めるそのような行為はいずれ払拭させ、膝組みして大人しく従うように考えた。
そうだ。僕はいつだって裏切られる、小鹿のようだった。
『ウィナートぉぉ――、我が身の掃除をしろぉぉ――』
『勉強、勉強、勉強ぉ?俺様は先生じゃねぇんだ。教祖様だぁ~』
『ほら、足が汚れているぞ?拭け。舐めろ。そして、ワインで満たせ!』
『本当に、酷いね。ボクのパンの耳ならあげる。但し、拾いなよ?』
『兵士長の任務は厳しいのだ。貴様も学問以外の練習をするのだよ』
『ジグルぅ、先行って、ほら。君は餌だ。野生生物の口の中に行って・・・』
あぁ、僕の意志はこうも遥か上空の宇宙のように捻じ曲がっていたのだろうか。それとも地上の波の様にうねっていたのだろうか。毎日、息をするのが苦しくて堪えるのに必死だったさ。
小父さん、小母さん、あなた達には理解できるだろうか?臭くて砕けて食べられる様を、貧困という本当の意味を。それをフォングラン家で拾われた時に、畜生の様な生き方をしていた訳を。僕は貴族だった。その筈が貧しさによって肉体の痛みの限界を超えてこうして生きている。王様に選ばれたんだよ。
これでもう誰も僕を虐める人は現れないだろうと実感できそう!もう、下僕にならなくていいと思っていた・・・。
「それで、体の傷は兵士の証という訳か・・・過酷だったんだな、ジグル」
「私も知らなかったわ。あなたが私の元から去った時に少しでも気付いてあげられたなら、お弁当をもっと分けてあげられたのに・・・」
「あの、唐突ですが、貴方はマジェス殿下から選ばれてしまったら、何を叶えるのです?」
「皆、僕は“豚肉”を食べたいよ。たっぷり脂の乗った豚肉を、食べたいんだ」
そうさ。僕は豚を見てきた。同じ囲いの中で尿をして糞をする豚と言葉を交わしていた。そして枯れる喉から油を飲まされた。本当は赤いワインが欲しいんだけど、それだけでは喉は潤わない。そして、君達は僕の――、
――――
――イーター・アマテの場合――
“何?あなたが魂の友?”
“あなたは誰?”
“いつか私が縫ってあげるね!”
遠い記憶。かつて、私は学問を続けている15歳の女の子だった。まだ社会さえ知らない学生の私が、彼と出会ったのは川端で休む兵士から彼が覗けていたから。物寂しそうな感じ。興味を引いた。それでつい声を掛けたの。
『あのぅ、あなたは何故、水を浴びずに草を食べているの?』
『え!・・・い、いやぁ、僕は社会に出て間もなくて、食べ物もなくてね・・・』
『その格好で食べ物もないの?あなたは何者?どこかを守っているの?』
『そ、そう。――を守る兵士・・・』
よく聞き取れなかった。だけれど彼は“守る兵士”と言った。兵士なのに食べ物も与えられないの?それではどう見ても“上級兵とも言えない”事が頭の痛みとして走りだす。
教科書の通りに国を守る上級兵とは国の象徴なのに、人の育てた作物さえ食べられないという実態にも衝撃が走った。これは痺れ、痛み、火照り、水の中の魚のよう。それに国を守るには到底、無理があるとも言いたくなる。
他の兵士はパンや肉、チーズなどで食事をしている。だけど彼は食べていない。望んで兵士になりたかった訳でもなさそう。何かをしたくて我慢しているのかとも窺えた。
それが社会というなら“それじゃ、コレをどうぞ”と考えて私のお弁当を分けてあげる事にした。すると彼はこう表現した。
『これは馬の糞より美味しいの?』
何というか、私はそんな彼が気になった。この人は“馬の糞の味”を知っている、という事に興味を抱きだす。学問にもない子供の喧嘩でも得られないこの無垢な表れ、彼は親よりも馬が尊いのだろうか、私もどこか彼に似たソレを感じ始める。
『あ、あの!・・・名前・・・何というの?』
『僕はジグル。今は亡きウィナート家の親戚、つまり養子なんだよ』
なんと寂しい声、なんという疲れた言葉!そういう人を私は求めていた。これが過ちだとしても私の髄から離れる事はないだろう。彼はいわば飼い主に従う生命のごとくお弁当を漁るように食べていた。気が付けばすっかり中身が無くなっていた。なのにこの目線はご主人様を求めているような清き潤いをもたらす。それにジグル、どこかで聞いた事のある名前・・・。
『ごめん・・・馬の糞なんて嘘・・・』
『え?』
『僕は“魚とパン”をいつも食べさせてもらっているんだよ。だけど塩しか味が無くて臭くてね、“馬の糞のようだ”と表現したほうがよかったね、へへ・・・ズビッ』
なんて愛らしい人なのだろう。嘘まで言って私を苛めるなんてこれまでにない屈辱。とても好き。表現方法も統べる様に私の頭脳を満たしてくる。これが兵士、これが学生生活、これが少女と大人なのか、と。だからこそ、私は彼に対して親のような態度を取るのだった。
それは「飼い主に対して、舌を出して再び餌を求めなさい」という同様の原理を示す。
『もぅお、ジグルったら、私のお弁当を全部食べたわね!・・・まるで何処かの悪ガキみたいじゃないのォ・・・ブツブツ』
『・・・だけど僕は君の名前を聞いていないよ。教えて―、くれないかい?』
『私はイーター・アマテというの。何か不思議ね、あなたは・・・』
それからというもの、ジグルは私に対して愛撫を求める。私はジグルに対して愛撫を求める。お互いの名前を伝え合っては手紙のやり取りをしていた。彼は遠征に向かっているから会う事すらままならない。でも、時々会って食事を分けてあげた。ジグルは喜んだ。
――――ほんとうに、いい思い出だったね・・・。
「――そういう訳で、あなた達の世話は見られないわ!」
「イーター、そんな事を言うなよな?俺だってタダでこの王国に呼ばれた訳じゃないんだ」
「僕はどっちでもいいよ?でも最低限の身の守りはして置きたいから」
「イーター、私もどちらでも構わないと思う。貴族だから」
「ミヘルは見る」
王国から任命を受ける。口では言うものの、当然逆らえない。だから世話係を引き受ける事になる。幾ら兵士だとしても草を食べる訳には行かない。彼には何か事情があったのだと思う。そうでなければ私は彼に出会っていなかった。
肉体を介さなくともそれは自然に起きる意志と魂の輪廻だったに違いない。だから恋も出来ない。忘れるの。
――――
――ミヘル・アントレアの場合――
私は類稀なる才を磨かれながら貴族として育ってきた。そこから導かれるように虹の鉱石の調査員になってほしいと頼まれた。王国エイドカントリーズから近い国でその私の剣技を見初められたため、護衛に回ってほしいとの事だった。
『ミヘル君、少しキミの学問について聞かせてくれないか?』
『なるほど、主に生命理論に基づく人体構造を知りたいと?』
『そうか。分かった、ではキミに在る場所を紹介しよう』
『いいかな?これが虹の鉱石というモノだ』
『人体に影響する虹の鉱石の光体というのは、僅か0,001znでも出血するという』
『もし、キミの推論が正しければ、これを薬学的に使うのが正しいだろう』
『なぁ!ミヘル、キミに王国エイドカントリーズから召集が来ているよ、喜びたまえっ』
沢山の声の下、私は従うように頷き返事をした。アントレア家で教わった「貴族たる者」という意見が私を変えてしまった。国王から学問の術や剣技の功績を買われ、雇われた先でその肉体を鼓舞した。大いに使った。時には恐怖を与えた。大型の野生生物でさえ手に負えない傭兵も私が間に入る事で討伐した。小さな体でしなる様に筋肉を伸縮させた。
「皆、怯える様に私を見ていたの。だから」
「へぇ、『貴族たる者』か。お父様も相当の力の入れ様ね」
「羨ましい限りだね。でも、それが何の役に立つのか僕には興味がない」
「イーターはともかく、ジグル。あんまり女の子に冷たくするなよ?」
「いいの。過去には過去がある。それに王国の剣となるなら私は後ろに退けない」
「人形は動かない。だけど君はまるで、使われる為に生きて来た様だね」
「最近じゃ、人形はネジを組み込めば簡単に動くわよ?」
「お前ら、仲が保てるのか保てないのか、心配だなぁ・・・」
これが学問。これが社会たる道標。大丈夫。これまでも私は父の言葉で母の意見に従っていた。そして沢山の師と出逢った。何も従う者が居ないなら、従うべき指導者を目にする時が来るだろう、と自らに言葉を連ねていた。貧困たる民達、それから王から託された計画。貴族たる者、騎士として彼等を守らなくてはならないと覚えておこう。
――――
以上の事から、ライズ一行は召集の挨拶へと招かれる事となった。
これから危機たる状況下において、彼等の道筋を示し得る光の一手となって、新天地計画は一歩ずつ前に向こうとしているのであった。




