第3話 森へ
「坊ちゃま。朝でございますよ。起きてください」
天酒家の朝は早い。屋敷の私室にて寝ていた獅童はいつも通りに使用人に起こされた。
「ふわあ~……おはよう伊那さん」
愛里伊那(213歳)は天酒家の使用人。愛里家は昔から天酒家に仕えてきた過去があり伊那も例外ではない。
「もうお二方がお待ちですよ」
「わかった~行ってくる~」
「ふふ♪いってらっしゃいませ」
微笑まれながら見送られた獅童を待っている2人というのはもちろんのこと獅童の両親である。
ガチャ
「おはよう。お父さん、お母さん」
「遅いぞ獅童。天酒家の跡取りなのだからもっと」
「いいじゃないですか間に合ってるんですから。獅童、顔を洗ってらっしゃい」
「は~い」
居間には獅童の父親であり緋火国の現当主である天酒鳳徳(296歳)にその妻であり獅童の母親である天酒鈴(283歳)がすでに座っていた。獅童は父親の言葉を無視して母親の言われたとおりに顔を洗い歯を磨いて居間へと戻る。
「いただきます」
「「いただきます」」
今回の朝食は白ご飯にお味噌汁と漬物と卵焼きというザ・日本食というラインナップにご満悦な獅童。
「(毎日のことだけどこれがいいんだよな~。なにより前世では苦手だった漬物がおいしく感じるのは転生してから結構うれしい出来事だな)」
顔をホクホクしながら美味しそうに朝食を堪能していると父親に話しかけられる獅童。
「時に獅童……今日もお爺ちゃんのもとにはいくのか?」
「ううん。今日は森にいくつもりだよ」
「まあ森に?大丈夫なの?森には危険な獣も結構いるのよ?」
「大丈夫だよ。お爺ちゃんから許可はもらってるし」
「あなた……どう思う?」
「……あの父さんが目をつけて教え許可も出したとなれば信頼できる……ただ事前に知らせてほしいところではあるな……」
「(お爺ちゃん言ってなかったんだ)ごめんなさい。今度からは僕からも報告することにするよ」
「それはいいけど……あまり奥まで行っちゃだめよ?危ないって思ったらすぐに引き返すのよ?」
「うん。そうする!」
そんなこんなで朝食も食べ終わろうとするときに使用人がやってきた。
「旦那様、奥様。圭堂末助さまと圭堂凛さまがお越しになりました」
「お父様とお母様が?」
突然の両親の登場に驚きの声を出す鈴。
「わかった。向かおう」
獅童も共に3人で一緒に玄関に向かうとそこには獅童の母親である鈴の両親、つまり獅童のもう一方の祖父母が玄関で大量の野菜を持って立っていた。
「おう鈴!立派な野菜がたくさん採れたからの!おすそ分けに来たぞ!」
「ごめんね~?まだ朝が早すぎるから迷惑だって言っても聞かなくって~」
自身の野菜を自慢するかのように箱を掲げる末助。反対にそんな旦那にあきれる凛。
「はあ……ごめんなさい。この野菜たちを持って行ってくれる?」
「かしこまりました」
そうして使用人に野菜の箱を持っていかせる鈴。
「お父様?もう少し常識というものを覚えてください。こんな早朝にやってこられては迷惑です」
「そんなことないじゃろう!わしはただ野菜を届けただけじゃ!そうじゃろう徳坊!」
「……もう坊という年でもないのでその名では呼ばないで頂けると嬉しいのですが……」
「なんじゃ!当主になったからと!いまだ300歳にも届いていない若造が偉そうに!」
「偉そうではなく偉いんですよ。我が国の当主様ですから」
「そんなことは知らん!儂からしたら徳坊はあいつの息子でしかないわい!」
ちなみにこの圭堂末助ともう一人の祖父である天酒麟盛は長寿ゆえか子供が出来にくい鬼人族において同じ年に生まれた稀有な2人であり、それゆえになにかと子供のころから競ってきたいわば"終生のライバル"という間柄。
そんなやり取りを横目に獅童は靴を履き森へと向かおうとする。
「おう!獅童!いまからどこかに行くのか!」
「うん!森に遊びに行こうと思って!」
「ほう!もうその年で森での遊びを覚えたか!」
「まあ?あまり無茶をしてはだめよ?」
「うん!わかってる!行ってきます!」
そうして獅童はみんなに見送られながら森へと向かった。その森というのは実は緋火国の森ではない。隣の国である森人族の翠楼国の領地であるが緋火国は同盟国であるために森への侵入を許可されている。さらに多少の植物の採取や獣の駆除も許可されるぐらいには信頼関係のある間柄である。
/////
「ハア!」
ドガッ!
「ゴフアッ!?」
森を散策中だった獅童は自身よりも数倍もデカい虎に襲われたために妖躰術の基本である妖躰術"蹴"という妖力を使用しての蹴りを繰り出す。その一撃を食らった虎は吹き飛ばされることになった。
「う~ん……もっと威力が欲しいな~……生きてるし……」
「ゴア!?」
自身の一撃を食らっても吹き飛ばせはしたが生きている虎を見て自身の弱さにため息を吐く。しかし虎はただ吹き飛んだわけではなくしっかりと大ダメージは受けているためあと数回の攻撃で討伐も可能。さらにこの世界の虎など獣は総じて前世よりも大きく凶暴で強さのレベルが違う。そんな虎に対してわずか6歳の子供がここまで追い込めたのはこの世界においても異常の光景なのだが獅童は満足しない。
「やっぱ蹴りだよな~。パンチよりもこっちのほうがかっこいい感じがするし。 さて……あの虎で蹴りの鍛錬を……」
「にゃおん!?」
その言葉を聞いてか虎はまるで猫のような鳴き声を出しながら獅童から逃げて行った。
「あ!?こら待て!?」
そんな虎を追いかける獅童だがその途中で女の子が熊に襲われそうになっている現場を目撃する。
「まずい!?」
その少女は耳が尖っており角も生えていないことから一瞬で隣国の森人族であると理解できた。しかしそんな少女が放つ風の魔法は熊に直撃しても効果を発揮しておらず侵攻を止めることができていない。そのためまずは遠距離から熊の行動を止めようとする獅童。
「赤砲!」
ボン!
「ヴォア!?」
突如とした背後からの攻撃に少女を襲おうとした熊は停止。その隙に獅童は一気に妖躰術"雷"にて少女の前にかばうようにして出る。
「大丈夫!?」
これが獅童の初のエルフとの邂逅だった。
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