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赤い鉄壁:スターリン要塞で迎え撃て  作者: 柴 力丸


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1940年4月下旬:ユーゴスラビア閣僚会議(第二次) - ソ連からの新たな提案

【1940年4月下旬・ベオグラード 王宮内閣会議室】


 ユーゴスラビア王国の内閣会議室には、前回にも増して緊張した空気が満ちていた。ソ連からのボーキサイト貿易提案を審議してから数日後、モスクワから新たな外交ルートを通じて、より具体的な提案が届けられたのだ。


 ピタール外務大臣は、新たな文書を前に、前回よりも幾分か複雑な表情を浮かべていた。

「閣下、そして閣僚各位。本日、再び緊急に審議いたしますのは、ソビエト連邦外務人民委員部より提示された、新たな提案であります。前回の審議を踏まえ、彼らはいくつかの点で、より具体的な条件を示してきました。」


 摂政宮は、静かに促した。

「詳細を述べてもらおう、ピタール大臣。」


 ピタール外務大臣は、文書から目を離さずに読み上げた。

「まず、ボーキサイトの買い取り価格について、当初提示された条件よりも、わずかに有利な水準が提示されました。また、支払いについても、現物取引に加え、一部、より柔軟な金や外貨による決済が可能であると明記されております。」


 財務大臣は、わずかに眉を上げた。

「それは、経済的には前向きな進展と言えるでしょう。」


 ピタール外務大臣は、さらに続けた。

「そして、最も重要な点ですが、ソ連は、我が国が懸念していたロシア革命後の白ロシア人亡命者の問題について、明確な声明を発表しました。その声明によれば、『ソビエト連邦は、ユーゴスラビア王国における白ロシア人亡命者の現状を尊重し、彼らの存在を両国間の友好関係における障害とは見なさない』とあります。」


 その言葉に、会議室には安堵の空気が広がった。この問題は、国内の親ロシア感情と、反共主義の感情が複雑に絡み合っており、解決が難しいと見られていたからだ。


 首相が、やや語気を和らげて言った。

「これは、大きな譲歩と言えるでしょう。ソ連が、我々の国内事情に配慮を示したということですから。」


 ピタール外務大臣は続けた。

「さらに、ソ連は、両国間の経済的連携を強化するための具体的な提案も行ってきました。彼らは、我が国の工業化を支援するため、工作機械の供与を増やす用意があるとし、技術者の交流や、共同研究なども視野に入れたいとしています。また、石油製品の供給についても、長期的な安定供給を保証し、必要に応じて、我が国の備蓄増強のための支援も検討できると示唆しています。」


 商工大臣は、前のめりになった。

「技術協力と石油の安定供給……これは、我が国の経済発展にとって、非常に魅力的な提案です。」


 しかし、陸軍大臣は依然として警戒心を解いていなかった。

「だが、ソ連がこれほどまでに友好的な姿勢を示す裏には、何か別の意図があるのではないか? 彼らが、単なる経済的な利益だけを求めているとは、到底思えん。」


 摂政宮は、慎重な表情で問いかけた。

「ソ連は、これらの提案と引き換えに、我々に何を求めているのだ? 単なるボーキサイトの輸出だけではないはずだ。」


 ピタール外務大臣は答えた。

「直接的な要求としては、ユーゴスラビア王国からの友好的な姿勢の表明、そして経済的な連携を深めることへの積極的な同意を求めています。彼らは、公式な承認という形にはこだわらずとも、事実上の協力関係を築きたいと考えているようです。」


 摂政宮は、深く考え込んだ。ソ連の提案は、前回よりも明らかに魅力的になっていた。国内の懸念材料への配慮、経済的な利益、そして将来的な協力関係の可能性。しかし、ドイツの存在という、拭いきれない影が、その判断を難しいものにしていた。


「今回のソ連の提案は、前向きに検討する価値があるだろう。しかし、ドイツとの関係、そして我が国の長期的な安全保障への影響については、引き続き慎重に分析する必要がある。各大臣は、今回の提案を詳細に検討し、次回の会議で、それぞれの見解を表明してもらいたい。」


 ユーゴスラビアは、新たな局面を迎えていた。ソ連からの具体的な譲歩は、凍りつきかけていた両国関係に、わずかながらも融和の兆しをもたらしていた。しかし、その先に待ち受ける未来は、依然として不透明だった。

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