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赤い鉄壁:スターリン要塞で迎え撃て  作者: 柴 力丸


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1939年8月:ヒトラーの喜び

【1939年8月23日・ベルリン 総統官邸】

 ベルリンの総統官邸は、興奮と高揚感に包まれていた。アドルフ・ヒトラーは、執務室の暖炉の前に立ち、届けられたばかりの電報を読み終えると、その顔に歓喜の笑みを浮かべた。モスクワから、ドイツ外相リッベントロップがソ連との不可侵条約に調印したという報告だった。


 彼は、傍らに控えていた側近たち、ヘルマン・ゲーリング国家元帥、ヴィルヘルム・カイテル陸軍元帥らに向かって、その電報を掲げた。

「見たか! 遂にやったぞ! スターリンがサインした! この条約は、爆弾のように炸裂するだろう!」


 ヒトラーの興奮は抑えきれない。彼は、長年の宿敵である共産主義国家ソビエト連邦との協定という、誰もが予測しえなかった外交的転換を成し遂げたことに、絶対的な自信を深めていた。これで、彼は懸案のポーランド侵攻を、西側からの干渉を最小限に抑えつつ実行できる。二正面作戦という悪夢は、当面の間、回避されたのだ。


「これで、イギリスもフランスも、手も足も出まい! ポーランドは孤立した! 彼らは、我々の迅速な行動を前に、ただ指をくわえて見ているしかないだろう!」


 彼は、地図が広げられた大きなテーブルへと歩み寄った。そこには、既にポーランド侵攻の作戦図が描かれており、日付は迫っていた。カイテルが、慎重な口調で尋ねた。

「総統。ソビエトとの協定は、我々の東部国境を安定させますが…本当に、彼らが条約を遵守するとお考えですか?」


 ヒトラーは、嘲るように鼻で笑った。

「遵守だと? シャポシュニコフのような老いた将軍が、この状況で何をできるというのだ? 彼らの軍は、内部からボロボロだ。数多の粛清で、有能な将校は排除され、残された者は恐怖に震えているに過ぎん。奴らに、我々を脅かす力はない。この協定は、我々が彼らを一時的に利用するためのものだ!」


 彼の目には、ソビエトをいずれ征服すべき「生存圏」と見なす、根深いイデオロギー的確信が宿っていた。この条約は、あくまで一時的な戦術に過ぎない。


 ゲーリングが、満面の笑みで言った。

「総統。これで我が空軍も、東部の心配なく、思う存分ポーランドを叩くことができますな。西方への備えも万全です。」


 ヒトラーは、満足げに頷いた。彼の計画は、完璧に進んでいた。西側諸国がソ連との同盟交渉に手間取り、最終的にソ連がドイツ側に傾いたことで、ヨーロッパの力関係は劇的に変化した。


「諸君、躊躇は許されない。鉄は熱いうちに打て。ポーランドの奴らに、我が国の力を見せつけてやる時が来たのだ! 世界は、我々の偉大なるドイツの前に、ひざまずくことになるだろう!」


 会議室には、熱狂的な「ハイル・ヒトラー!」の声が響き渡った。ヒトラーの自信は頂点に達し、彼の眼には、既にポーランドの壊滅と、その先のヨーロッパ征服の夢が映っていた。彼にとって、この不可侵条約は、まさに勝利への道を切り開く、悪魔的な切り札だったのだ。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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