番外編:山小屋の交換日記1
「なぜ高貴なこの私がこのようなところに……」
「文句いわないの。仕事なんだから」
この日、私と琥珀は隣町の山奥まで来ていた。なぜかって?もちろん、仕事である。
仕事とはいっても、時計店の仕事である。
なんでも、この辺りに祖父の友人が住んでいるらしく、その友人から愛用の壁時計を修理して欲しいと、仕事の依頼が入ったと聞かされた。
しかし、高齢であるが故に、遠い距離を行き来するのは難しいらしく、私が駆り出されたという訳だ。
隣町と花咲街は隣どおしといえど、結構な距離がある。
私は祖父に頼まれて、壁時計を引き取りに行くことにした。
そして、今に至る訳である。
もちろん、相棒である琥珀も一緒に連れて来た訳だが、疲れが出てきたのか、さっきから口をついて出るのは、文句ばかりである。
「あっ、あそこみたい」
山道を少し歩いたところに目的の家学校ようやく見えてきた。
(琥珀には少しではなく、かなりだ、といわれたが)ここは、普段からハイキングコース、登山コースとして知られる場所のようだ。
インターフォンを鳴らすと、すぐに中から人が出てきた。
「水無瀬時計店の水無瀬千暁です。時計を預かりに参りました」
「わざわざすまなかったねぇ」
人当たりのいい笑みを浮かべながら時計を差し出すこの男性こそ、祖父の友人ーー門脇健一郎さんだ。
「いえいえ。大丈夫ですよ」
「あいつにこんな可愛い孫がいたとはな。おじいちゃんによろしく伝えといてくれ」
「はい」
軽く世間話をして、お使いに来たお礼にと、お饅頭を少し頂いて、私達は時計店を戻る道を辿った。
「帰ったら~饅頭が~私を待っている~♪」
歩きながら、琥珀が鼻歌混じりにおかしな歌を歌い出す。
どうやら、頂いたお饅頭を食べるのが楽しみで仕方ないようだ。
「変な歌歌うのやめてくれる?」
気が抜ける。とそういった時。ふと、小さな小屋が目に入った。
行きは気づかなかったが、外観からしてどうやら山小屋のようだ。
「ちょっと休憩して帰ろうか」
私は琥珀を誘って山小屋に足を踏み入れた。中に入ると、少し薄暗い。どことなく埃っぽく、かなり年季学校入っているようだ。
奥に進むと縁側があって、私はそこに腰を下ろした。
「一個だけ特別ね。残りは後で」
「私は子どもか」
隣に座る琥珀にお饅頭を一つ手渡す。
お饅頭一つではしゃいでいるところを見ると、十分子どもなのだが、口には出さないでおく。
美味しそうにお饅頭を頬張る琥珀を見ながらふと、視線をずらすと、ノートが一冊、無造作に置かれているのが見えた。
なんとなく、手に取ってみると、中には沢山の文章が書かれていた。
「交換日記か」
「交換日記?」
「うん。交代でその日あった出来事なんかを書いてやり取りするの。私が小学生くらいの時にすごい流行ったんだよ。懐かしい」
「相変わらず人間はおかしな遊びが好きだな」
「あれ……健一郎って、もしかして門脇健一郎さん?」
パラパラとノートをめくっていると、やり取りしてる内の一人は健一郎さんらしいということが分かった。交換日記にしては珍しく、署名がある。しかし、相手の名前は分からない。
「そのノート、妖者の匂いがするぞ」
「えっ?」
「気配は絶たれているし、残っているのは本当に微かな匂いだけだからお前には分からんのだろうが、間違いない」
「門脇さんが交換日記のやり取りをしてる相手は妖ってこと?」
「おそらくな」
お饅頭を食べながら琥珀が頷く。だが、だとしたら、一体なんのために?
私は申し訳ないと思いつつも、交換日記の記憶を読み取ることにした。
※次回更新は明日の予定です。
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