番外編:神隠し3
「なんだ、お前達。留守を預かってたった二日でもう根を上げたのか?」
俺が取り出したのは、細長い金色のピアスを模した通信機だった。万が一、なにかトラブルが発生した場合にお互い連絡が取れるよう、一つずつ千暁と分けて所持していた魔術道具だ。
「根を上げた訳じゃない。琥珀大先生に聞きたいことがあって」
そう。通信を繋げたのは千暁本人ではなく、琥珀。近況報告を装って連絡を入れ、さりげなく琥珀に代わってもらったのだ。
「なんでも聞くが良い」
琥珀は先程までのめんどくさそうな態度とは打って変わって得意気な声を発した。大先生、と呼ばれたことが嬉しかったようで、ふふん、と鼻を鳴らしている。単純な猫め。
俺は手短にこちらの状況を説明した。
「ーーってことで、今、事件の犯人を探してる。前に、兄貴がまだ屋敷にいた頃、聞いたことがあるんだ。記憶を奪う邪悪な妖がいるって」
俺の発した言葉を聞いて、琥珀はすぐに頷いた。
「確かにいるぞ」
「じゃあ、今回の事件は、その妖の仕業ってこと?」
それまで黙って聞いていた未玖が、琥珀の言葉を聞いて、通信機に向かってそう問いかけた。
「おそらくな。小学校の近くに小さな池があるだろう?」
「えぇ。あるわ。課外授業で、子ども達が生き物の観察をすることもあるみたい」
「その周辺は昔から、力ある邪悪な妖がうろつく場所として有名だった。ある時、その噂を聞きつけた一人の魔術師が、その妖を池の奥底へと封印した。封印に使った札は池の周りの岩に貼られ、その札から放たれる魔力が、結界のように池を覆っていたはずだ。無論、魔力のない者には見えないがな」
「その妖が復活した?」
「その可能性が高い。長い月日が経ち、池周辺の土地開発が進んでいるだろう?そうやって、土地が開拓される過程で、運悪く封印の札が剥がれるなりなんなりしたんだろう」
かつて封印された邪悪な妖が意図せず世に放たれ復活し、悪さを働いている。それが琥珀の見解だった。
「だが、記憶を奪う理由はなんだ?」
「単純な話だ。自分の魔力に還元するためだ。やつはそういう妖。その妖にとっては記憶が"餌"なのさ。相手が妖か人間かは関係ない。子どもを狙ったのは単に、池の近くに小学校があったから。ただそれだけの理由だろう。加えて、子どもとなれば狙いやすい」
「奪われた記憶を取り戻すにはどうしたらいい?」
「簡単なことだ。致命傷を与えないように、記憶を取り戻せばいい。妖が倒されてしまっては、その命と同時に、その体内に秘められた、奪われた記憶も消えてしまうだろう。相手を生かしたまま、記憶を取り戻すしかない」
「なによ。その無茶ぶりは。なにか弱点はないの?」
未玖の問いを聞いた琥珀は、あからさまな溜息を吐き出した。
「お前達、もう忘れたのか?」
※次回更新は明日の予定です。
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