番外編:神隠し1
※真琴と未玖のお話です。
「神隠し?」
その日、俺ーー九条真琴が住まう九条の屋敷を訪ねてきた友人を招き入れ、俺は今しがた相手から聞いた言葉を返す。
すると、きっちりと正座をして、湯呑みを両手で抱えた友人ーー未玖はこくり、と頷いた。
「私の母の友人に、小学校一年生の女の子のお子さんがいる主婦の方がいるの。もちろん、一般人なんだけれど」
俺達魔術師がいう一般人とは、術師であるか否かを指す。
今回の場合は、後者のようだ。
「その友人から、母が聞いたらしいのよ。子どもが神隠しにあったって」
「まさかとは思うが、行方不明になったのか?」
神隠しといえば、忽然と人が姿を消す怪奇現象だ。
まさか、子どもが一人、突然姿を消したというのか。
だが、俺達の世界では特段珍しいことではない。
「いいえ。娘さんは無事だったわ」
未玖の返答に俺は首を傾げる。
「なら、神隠しじゃないじゃないか」
「それがね。娘さんは友達と遊んでる間に姿を消して、陽が落ちても家に帰って来ないから、ご両親が探し回ったそうなの。それで、神社の境内に寝ているところを発見した」
「神社って、花咲神社か?」
花咲神社はこの街でも有名な神社だ。この街の者なら誰もが知っている。
「いいえ。街のはずれにある雪見神社よ」
ほら、あの小さな神社よ。といわれ、ぼんやりと思い出す。
確かに、もう一つ神社があった。
「それで?」
「無事に見つかったはいいものの、なかったらしいのよーー記憶が」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が漏れた。記憶がない?
「行方不明になっていた時間のことはもちろん、自分の名前や年齢すら分からない状態で見つかったらしいの」
その話を聞いて、確信を得る。薄々それ絡みの話かとは思っていたが、これは間違いなくーー。
「妖の仕業だな」
「えぇ。間違いないと思うわ。最悪なのは、被害者は他にもいるらしいってこと」
「記憶を失った子どもが他にも?」
俺の問いに、未玖は黙って頷いた。もし、そうだとしたら、これは早急に対応しなければならない問題だ。
「早速、千暁に……あ」
そこまでいって思い出す。千暁は今、琥珀と共に時計師としての仕事しに、隣町まで行っている。数日この街から離れると、留守を預かったばかりだった。
俺の心情に気づいたらしい未玖が、クスリと笑う。
「もう、千暁ちゃんがいる生活が当たり前になってるわね」
その一言に、バツが悪くなった俺は、少し視線を逸らし、一つ咳払いをしてから真剣にこう告げた。
「なら、今回は俺達二人で片付けないとだな」
「当たり前よ。いつもいつも長の手を煩わせる訳にはいかないもの」
ーーこうして。なんだかんだ俺と未玖の二人だけの初任務が幕を開けたのだった。
※次回更新は明日の予定です。
Copyright(C)2023-音愛




